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2008.10.5購入
小説に出てくる超能力は嫌いである。
なにせツールとしてあまりに都合がよすぎる。
とはいえそこそこ面白かった。
「雲の上でダンス」というのは
本来こういう年寄の活躍を表現するのに適した表現ではないかと思う。
国家の中枢部の人間もただの同僚ってのは
少し穴場な立ち位置の気がする。
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職場内訓練の最初の1ヶ月はばかばかしくて笑いたくなるような有様だった。シリ先生がやってくる相当前に,検死解剖の経験のあるただ一人のラオス人医師が,真偽のほどは定かではないがゴムの浮き輪でメコン川を渡ってしまった。それで,医師の助手を務めていたグン君以外に,シリ先生が新しい仕事のやり方を教わる相手はいなかった。しかもグン君は大量の情報を頭に詰めこんでいながら,それをほとんど外に出すことができなかった。
そこで先生は,隠居暮らしを延期することに同意すると,ちょっと焼け焦げのあるフランス語の教本数冊で仕事の手順を勉強した。最初の何体かを切るときは,置き去りにされたアメリカンスクールから持ってきた譜面台に教本を載せ,ページを開きながらやった。片目で譜面台を見て死体の内臓を片付けていく様は,さながらコンサート検死官(コロナー)だった。「つぎ」と先生が言うと,デツイがページをめくった。先生は一九四八年にフランス人病理学者が推奨したやり方で,つぎからつぎへと死体を解剖していった。
(本文p.32-33)
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ラオスという馴染みのない国の、1970年代という馴染みのない時代の、シリ先生という新米検死官のミステリー。
ちょっとファンタジーちっくな場面もあったりして、色々興味が湧くのだけど・・・
翻訳が堅苦しかったなぁ。こういうとき、各国の言葉がわかればと悔やまれるのでした。
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やー、こういう本大好きです。なんといっても著者のユーモアある語り口が絶妙だし、ラオスで唯ひとりの検視官にして不承不承の霊媒師でもあるシリ先生、助手のグン君とデツイ看護婦のトリオはじめ、シリ先生に切り開かれる死人に至るまで、キャラクターがみな魅力的なこと。ラオスはたしかにアジアの共産主義国だけど、周りのカンボジアやベトナムや中国ほど極端なことはしない、いい意味でええかげんな感じがします。行ったこともないくせに勝手なことを書いてますが、きっとこの小説に流れているような空気が(少なくとも70年代には)流れていたんだろうなあと想像してみたりします。と、のんびりした空気と諧謔あふれる文章を楽しんでいるうちに、意外にも事件はシリアスな国際陰謀めいた様相を帯びはじめ、同時に、人生の終わりにさしかかったシリ先生にも仰天するようなことがふりかかり、最後の最後まで気が抜けません。シリ先生のためにラーおばさんがつくってくれるサンドイッチのように、端から端まで楽しめる、おいしい本なのです。
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ラオスを舞台に72歳の検死官シリ先生が活躍する話。
タイトル、装丁でほのぼののんびりした話だと思って手に取ったらこれが大間違い。
シリ先生は3回も殺されかけるわ、国際的な陰謀が出てくるわで結構ハードな話だった。
しかし全編を通して流れるほのぼのさはシリ先生の人柄と彼を囲む看護婦と助手が奏でる先生への愛があるからだと思う。
先生が死者の声を聞けるというオカルトな設定もこの作品にはあってたんじゃないかと思う。
検死シーンもさらりと流す程度で、生々しさとかはなかったし。
ラオスの共産党政権に対するちくりとした皮肉をスパイスに、あれこれごった煮にした不思議な味わいのある話だった。
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ラオスにただ一人の検死官シリ先生が探偵役のミステリです。書かれたのは結構前なんですね。歴史的事件からの経過時間がおかしくない?と思ってから舞台の年代に気がつきました。恥ずかしながら地理的にも政治的にも文化的にも前知識を持っていない国の話なので、まずそこについていくのが一苦労。隣国との微妙な関係をほのめかされても、実際にどんな状況なのかわからない。己の不勉強が招いた結果なのですが、理解できないところが随所にあり、読むのに苦労しました。
それでも最後まで読めたのはキャラクターの良さ。あくまで自分の感覚を信じ、幽霊にだって好かれてしまうシリ先生を始め、しっかりものの看護婦さんや秘めた才能の片鱗を見せる助手。事件は二の次、魅力的な彼らの活躍が楽しかったです。
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ラオスのご老人検死官シリ先生の一作目。シリーズと知らずに先に二作目は読了済。どなたかのレビューにもあったように、いきなりこの作品を読んだとしたら、世界観に入り込むのに苦労したのではないかと思います。偶然だけど先に「三十三本の歯」を読んでいて良かった。死者の霊魂と意志の疎通ができてしまう老検死官が、社会主義国ラオスの官僚社会の中で事件の真相を探偵ばりに解き明かしてゆくお話。会話がとてもシニカルで楽しい。逆にこのシニカルな感じを楽しめないタイプの読み手だと、何が起こっているのかわけがわからないままくだらない会話が続いて妙な儀式は出てくるし、つまらないと思って終わりかも。ラストはちょっと意外だった。歯の方から先に読んでいたのでそういうことか、と思い出して後から納得。アジアンな雰囲気の不思議ミステリ。面白かったです。