赤裸々でまっすぐだからこそ、応援したくなる
2008/09/29 00:09
8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:木の葉燃朗 - この投稿者のレビュー一覧を見る
四コママンガ『カラスヤサトシ』シリーズでお馴染みのカラスヤ氏が、2002年に上京してから、2004年頃までの記録をマンガにしたもの。
最初は、上京にまつわるドタバタを描いた、やや自虐的なギャグマンガだと思って読んでいた。踏み切りの棒に自転車の車輪を挟まれた少年(事なきを得たが)と車に轢かれたカエルにショックを受け、気がつくとカエルに救急救命をする練習をしていたり、突然アパートからの立ち退きを告知され、住人が次々集まってくるのを見ながら、みんなで「『ウィアーザワールド』/歌い出したら/おもろいなー…」(p.79)と思ったりは、やはり面白い。
しかし、あとがきマンガにあたる「製作おぼえがき」でも書かれているのだが、思い出を忠実に描くとギャグ一辺倒にはなりにくかったようで、「ええい/もうええわ!/しんきくさして/けっこう!!」(p.145)という思いで、途中からは「ギャグのない4コマも/けっこう入ってますが」(p.145)という内容になっている。
だが、そうして出来上がったこのマンガは、これまでのカラスヤ氏の作品とはまた違った魅力のある作品になっている。
具体的には、カラスヤ氏の赤裸々でまっすぐな部分がはっきり出ている。私はこれまでの氏の作品で、プライベートや思い出が正直に描かれている部分に、面白さとともに迫力を感じていた。そしてこの『おのぼり物語』では、これまでの作品よりも喜怒哀楽をギャグにせずにはっきりと表に出している。例えば、上京のため大阪のアパートを発つ頃、ほとんど話したことがなかった下の階のおじさんにせんべつをもらったときの思い、東京で最初に入居したアパートは、大家さんが亡くなる前にリニューアルしたものであることを知った夜に、哀しいわけではないのに涙が止まらなかったという思い出、そしてある出来事をきっかけに改めて考える実家の両親と自分の将来。こうした思いを持ちながらも、コツコツとギャグマンガの連載を続けて来たと思うと、これまで以上に応援したい気持ちになる。
2004年、実家に帰るか東京に残るかを悩んでいた時期に、ある編集者がカラスヤ氏にこう言ったという。「まー多分」、「カラスヤさんは/この先どんどん忙しく/なりますよ」、「なんの根拠も/ないですが」(p.132)。この言葉に習って言えば、おそらくこのマンガは多くの人に読まれて、カラスヤ氏の新しいファンが更に増えることだろう。なんの根拠もないが、それだけの力が、この本にはあると思う。
東京へ出てくる話は数あれど
2008/10/22 13:33
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:大島なえ - この投稿者のレビュー一覧を見る
「おのぼり物語」なんて一見、どうしようもなくベタなタイトルに、なんとなく下手ウマなとぼけたメガネのダサい男の子が立っている表紙。
しかし何故か読みだすと次第にじわじわと東京へなんのあてもなく職もなくマンガの決まった収入もないのに、ただマンガ家になるのだ。と上京する僕の「おのぼりさん」の日々がどちらかと言うと淡々と描かれている。月の収入は四コママンガの掲載料で、それも不定期で1~2万円で生活するという極貧生活なのに、酒はやめられず夜になるとひとりで部屋で酔っ払って寝るまで飲み続ける。他にアルバイトもせず、仕事も無いお金も無いので遊びにも行けない。線路沿い電車の音が早朝から深夜までうるさいアパートで、誰とも話し相手もなく、ただマンガを描く仕事を待って暮らしている。
地方に住んでいると、誰でも一度は東京で生活したい。と言う夢を見ると思うだろうし、大学入学で東京へ出ていく人など実際に一度は東京で住む人も大勢いるだろう。けれどその後もずっと仕事を見つけて東京で暮らし続ける人は、そんなに多くないのではないだろうか。ひとりで東京で自活するのは簡単なことではないし、苦しいこともかなりある。時として見栄も張り本当は辛くて貧しい日々でも口には出さないこともあるだろう。
カラスヤサトシは、本人も大阪で生まれ育ち東京にひとりで上京して、それこそ決まったあてのない、会社もやめ無職無収入の上京ひとり暮らしだった。マンガの中で、父親が気がつけば末期のガンだとわかり急遽大阪に帰った時に、母親に、あんたずっとこんな風に生き続けるんかと言われ、何も返事ができず、うなだれて病室で描いて送った四コママンガが意外にも編集者に好評で注文が来たりするのは、思わず「やったね」と声をかけている。
大阪へは父親の死後も帰らず、なんとか生活できるよう仕事も少しづつ増え、上京してきた母親に食事をおごる時、ようやく「おのぼりさん」から脱出したと自覚する。
「おのぼり物語」は、どこにでもある東京へ出てきた話のようでそうでない実が隠れている。どこかさらけ出すのがはずかしいような本音の自分を見ている気がして、思わず知らずうつむき加減にジンとなっている。
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おもろうてやがて悲しきとはこのことか。
おなじみくだらない(いい意味)精神生活を送っているカラスヤ節の上京物語かと思えば、連載が進むにつれてカラスヤ先生なりの苦悩と孤独、別れの物語に発展していってどうしよう。
こういう話に朴訥な絵柄がまた合っていて、しばしば入るカラスヤ流ネタも人間シリアスな時でもヘンなこと考えて笑っちゃうことあるよね的リアリティを出す小道具に変換されてしまう。
作者の新境地を高いクオリティでみせたまさしく快作だが、気楽に読める話でもない。しばらく読み返せないだろうなあ。
このカラスヤ新境地を描かせた桐くん(編集者)、ただの方向音痴で折り紙が絶望的に下手な男ではないようだ。この組み合わせから今度は何が生まれるのか、楽しみなような心配なような。
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この人のエッセイが大好きな上に、題材が上京してから現在までの時系列に沿った物語ときたら、もう文句のつけようがない。後半で号泣。
これ以上何も言わない!読むといい。
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カラスヤサトシさん(73年生まれ)も
同じジャンルですね。
福満さん(76年生まれ)、
トリバタケさん(75年生まれ)ですか。
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漫画家を志し上京した著者の回想エッセイ四コマ。
周囲を出し抜くことも他者と協調することも出来ないほどに気が弱く、優しく、駄目な男の姿が、「笑い」というよりも「小さなおかしみ」みたいなものを忍ばせて淡々と叙情的に描かれてゆく。一貫した自分自身を見つめるリアリスティックな視線が印象的。
尾崎放哉の自由律俳句のようなユーモア交じりの自虐的な物悲しさが胸に迫る。
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前職で体調を崩して休職していたときに上司が仕事の資料と一緒に送ってきて、ものすごいギャグだと思った。
わたしはうっかりこれを真に受けて半年ニートをやってしまったが、人生のどこかでこういう経験って必要じゃないかなと思うし、かういう悲哀まじりの面白さがわかることが人としての深さかと。
「人は一人でもすべることがある」とか。
実際に、私も孤独をこじらせて多々奇行に走ってました。
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30歳目前で大阪から、漫画家目指して上京したという
のんきそうでいながら骨のある漫画家の上京物語。
しみじみとしたおかしみと哀しみがあって、
いろんな感情を思い出させるようなエッセイ漫画だった。
書き下ろしの東京の風景も、つぼをつかれる感じ。
同郷のNさんとのストーリーの中途半端さもリアルで、それが切なさを増しました。
お花を送った編集者は、
電話で「これから忙しくなりますよ」と言った編集者は、
『カラスヤサトシ』では悪く描かれてるT田さんなのかな…
だとしたら、無神経なことを言われても、
耐えられる理由がわかった気がする。
『カラスヤサトシ』では明るくてテキトーなお母さんとお姉さんだから、
こちらでのしんみりした感じがなんだかよけいにぐっときた。
『カラスヤサトシ』を先に読んでると、よりいいかもしれない。
前のレビュアーさんが「傑作になり得た」と書いてたけど、
確かにそうだなと思います。
この1冊で家族のキャラなどがわかったらよかったのかも。
決してお涙ちょうだいにはしたくなかったのだとは思いますが。
隠しきれない暗さに腹をくくったのが、途中からだったのでしょうね。
この夏、映画化されたそうです。ちょっと観たいかも。
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アフタ読んでた時からファンですよ
T田さんとのやりとりも好き
でもコミックスかって手元に置けるかというと、無駄に凹みそうな気がしてできなかったんです
でもこれは読みたいな
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上京してプロの漫画家としての自立を目指す男性のお話。階段の踊り場を歩き続けるような、フワフワした閉塞感が丁寧に描かれています。
初期の『カラスヤサトシ』の、ギャグだけにはならない部分を昇華させたアナザーストーリーみたいな作品としても楽しめます。
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カラスヤサトシの上京物語。
きっかけは井上芳雄主演の映画。
すぐそばにあるような、日常が描かれていて、
力を抜きたいときなんかにふと読みたくなる。
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作者は漫画家である。本書は29歳を目前にして上京した漫画家志望の青年の物語(自伝的マンガ)である。読んでいて大変面白い。東京デビューした時の初々しさが良く出ている。きっと大学生も気分的にはこんな感じなんでしょう。(私は生まれも育ちも信州人なので実感としてはわかりませんが)
しかし作者28歳にしては余りにも無計画です。他人事ながら本が出せるようになって本当に良かったと思います。作者の日記的四コママンガは結構好きなので今後も活躍して欲しいと思います。
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セルフタイトルのエッセイ4コマ『カラスヤサトシ』で有名なカラスヤサトシの上京を描いた4コママンガ。上京という言葉から、望郷の念と夢を掴む野心の相克とかそういったものが描かれると思ったら大間違いである。カラスヤサトシは、退職してマンガもろくに描かない生活を続けるうちに、なんとなく東京の方がマンガを描きやすいのではないかと思い、特に動機も意志もなく上京を果たすのである。そしてこのマンガでは、上京して出会った都会の冷たさだとか、触れる人情の温もりだとか、転機を迎える出会いだとか、そういったものも一切描かれない。なぜなら仕事もアルバイトもせず、怠惰にマンガを描き、夜になると一人酒を飲みながら寝るという、ほとんど引きこもり同然に人間と交流しない生活を続けているからだ。そんな波風のないものを描いいるだけでも面白いのは、そういうほとんど非人間的とも言える日常を、彼固有のユーモラス(死語か?)な視点ゆえだ。そういった点で福満しげゆきとある種似た空気を感じる。おそらく読者層も結構かぶっているだろう。だが両者で決定的に違うのは、福満のメインテーマとも言えるコミュニケーション不全から来る悩みは、この作品にはほとんどない点だ。このカラスヤサトシのマンガを読んでいて、福満は卑屈ではあるがああ見えて実はすごく外向きな人間だったことに気づかされた。カラスヤの世界には人間関係の齟齬なんてものはないのだ。内側を向いているのだから。それが一番顕著に表れているのは、カラスヤサトシが齢30を過ぎていまだ独身であり、彼女さえいないのに対し、福満は美人の妻を持っているところだろう。そう、福満はリア充だったのである。なんと憎らしい。・・・まあというわけで、我々のような非リアにとっての本当の意味でのバイブルは『僕の小規模な生活』では断じてなくて、カラスヤサトシの『おのぼり物語』なのだ。
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アフタヌーンで4コマを見たとき、あまりの絵のクオリティと内容に、これで食っていけるのかと他人ごとながら心配してしまったのだが、なんか順調に仕事も増えて単行本も何冊も出て、世の中分からんもんだなーと思っている。