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舩後さんはALS患者である。その生き方が丹念に描かれている。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、運動機能を司る運動ニューロンの変性により、全身の随意筋の動きを喪失していく、進行性の神経難病である。
呼吸に関わる筋肉が不全となれば、人工呼吸器の装着が必要となる。そして音声言語が失われる。
それまで通りに働くことは難しくなるし、食事、排泄、その他諸々の日常生活で生命に関わる多くの困難に直面することになる。バリバリのビジネスマンとして働いていた舩後さんにとってはとても過酷な道のりだったろうと推察される。
一読して感じたのは、「開かれた本」だなということ。
舩後さんの生活は「ピアサポート」という活動によって他の患者と繋がっているし、その生き方は「ALS患者」という枠にとどまらず伝わってくるものがある。症状の理解は、非患者にとっては想像を超えているはずなのに。
告知直後には受け入れ難かった病いという現実に対して、周囲の人々との対立も含んだやり取りを経て、新しい価値観を見出していく―こういうプロセスが、その時々の心情を詠った短歌を交えとても鮮烈に伝わってくる。一人の人間が「生きている」という事実は、(経済的な意味で)生産性があるとか、そういう次元ではなくて、もっと別の意味があるのではないかと考えさせられた。
こう考えてみると、
「~だから生きている価値がある」とか、
「~だから生きていて良い」とかいう言い回しはとても怖い。
なぜなら「~でなければ生きている価値が無い」という話に容易に転じてしまうから。舩後さんはこうした見えない言説との戦いを常に繰り広げているのだろうと思う。
生きていることの意味や価値はいろんな形を取りうること。
それが人々との繋がりのなかで実践されていくこと。
日ごろ見失いがちな、「色んな生き方のあり方」が伝わってくるという点で、この本は「病い」にまつわる本というよりも、「人」が描かれていると言うべきなんだろう。
舩後さんにはもっと色んなことを伝えて欲しい。
そして色んなことを学ばせていただきたい、そう感じます。
最後に瑣末な話ですが、装丁(表紙)が鮮やかで、とても印象に残っています。
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とにかく強い人です。良い面ばかりを書いた本ではなく、人間味に溢れています。ALSと共にある方と、自分を比べると、発する言葉の重みが違う。私は、もっと言葉を大事にしなくてはならないと感じた本です。著者の主治医が、出身大学の先輩にあたると知り、接点は無いのにうれしくなりました。
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ALS患者とその家族にとって、新薬トフェルセンの認可が一縷の希望。舩後議員の当選で、よい方向へ動くのではないか。当事者ではない私だって、それを願っている。
舩後氏の人となりを知るべく本書をひもといた。自伝と思いきや、三人称で書かれているのでアレッと思う。半ば歌集のような構成なので、すぐ読み了えてしまう。
ALSという病魔は全く情け容赦ない。かくも優秀な人間から身体機能を次々と奪い去ってしまう。
短歌に込められた幽黙(ユーモア)と負けじ魂が、底なし沼に引きずり込まれそうな読み手に浮き輪を投げてくれる。