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1980年から約30年かけて、東北6県の民家を撮り続けたカメラマンの写真と文章が収められている。豊かな農村風景としての茅葺き、雪国で暮らす人々の営みとしての茅葺きが、輝く貴重な瞬間をとらえた写真集。日本民家再生リサイクル協会の企画によって1冊にまとまった。茅葺民家研究の第一人者、安藤邦廣氏と著者の対談も巻末に収録。
真冬から始まる写真集。「北国の暮らしで、一番最初に冬を意識して見てほしい」との著者の思いが伝わる。カサカサとぼた雪が降りしきる中、佇む秋田の古民家。旧南部藩に隣接する地域には「曲がり屋」が残る。軒先には、人や荷物を運ぶハコゾリがそっと置かれている。雪化粧で若返った屋根。焚き付けの白い煙が上がる民家。農作業で使う丸太をいっぱいに立て掛け、納屋のような外観になった民家…。
どの写真にも人物は写っていないというのに「風景に顔があり、民家と一体となった風景の中に生業が写っている」と、安藤氏は言う。冬から春へ、やがて夏、秋へと四季の中で営まれる農村の暮らし。そこに「農村は暗い」というイメージは全くなく、逆にふる里の豊かさ、美しさが表れている。「収めた風景が、ノスタルジーを突き抜けて未来を結ぶひとつの刺激になってほしい」。著者の願いが込められているのだ。(S)