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モーツァルト的ピンク色
2009/01/20 22:58
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:もりこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
派手な美貌にわっさりと花を背負って現れるマダム・ジョーカーこと月光寺財閥総帥夫人・蘭子は、華やかな容姿に有り余る財産、互いに夢中の美しい夫、すべてを持ったあり得ない女。今回彼女が解決するのは、完璧な美少女を悩ませる自分自身の食い意地。夢見るダメ男の犯罪。後家蜘蛛夫人の陰湿な罠。
でも蘭子は主義主張に基いて事件を解決しようだなんて全然考えてもいない。ひたすら心のままに振舞うだけだ。ひねくれる必要のない環境で培われた素直で豪放な思考に、洒落っ気と機転が加わってすっきり爽快、悩んでるほうが馬鹿馬鹿しくなる。
明らかな美女とはっきりした美男。見たまんまブスキャラとその通りの悪役。駒はこれでもかと判りやすく、話の筋はあらかた見えるのに、結末の予想はしばしば外れる。物語を動かす蘭子が、次に何をするかわからない人だからだろう。
その言動に以前ドン・ジョヴァンニで見たような、(自分思うところの)貴族的な世界が広がる。浮世離れした合理主義、正義感より好奇心、多少の気品と多少の下品。執着はあっても拘泥はなく、色気はあっても生臭さがない。深刻な事情も台詞一行でするっと通過してしまう。ラブはあくまでラブラブピンク、涙は朝露のほろほろ感で、復讐さえも歌うように。ポリシーのある軽薄さが、どんな陰惨な事態にもどろどろすることを許さない。華やかで軽やかで色鮮やか、なのに不思議に即物的。
ちょっと現実に疲れ気味。マンガの中ぐらい夢を見たい。そんな時にこれを読む。紅茶とスイーツによく合って、団塊ジュニアのため息をさらっと軽くしてくれる。すると角度を変えて周りを見直す余裕が少しできる気になる、ビタミン剤のような作品だ。
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