紙の本
今までと少し趣が異なっていますが、楽しみました。
2009/06/08 18:23
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:紅葉雪 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「ヴィズ・ゼロ」「TOKYO・BLACKOUT」とクライシス・ノベル路線で来た福田さんだが、今回はその二作とは少々趣が異なる。
強いて区別するなら、ハードボイルド系、冒険小説に分類される部類……だろうか。本の裏表紙とbk1の「内容説明」によると、「青春海洋冒険サスペンス」とのこと。
舞台は阪神淡路大震災から半年以上が経過した、1995年9月の神戸。
主人公の間嶋祐一は大学生。震災で両親を失った。
その祐一の元へ刑事がやってくる。
彼らは祐一の友人、タイ人のドゥアンの身元確認に訪れたのだ。
実はドゥアンは刺殺体で発見されたのだが、それが何と震災当日のことだった。震災の騒ぎもあって今まで半年以上も身元が確認できなかったとか。
偶然ドゥアンの写真をみた祐一の知り合いから、二人が親しかった事を聞いたという。
祐一もまた、震災の後、ドゥアンが姿を見せないために心配はしていたが、国へ帰ったのかもしれないとも思って積極的に探そうとはしなかった。
そこにはある心理的な事情もあった。
一つは祐一の亡くなった両親が、祐一がドゥアンや彼と同じタイ人留学生のタオと付き合うのをあまり歓迎していなかったこと。震災の前日、父親と電話で話した最後の会話もそれ絡みだった。
父親の言葉がまるで遺言のようにも感じられ、ドゥアンの行方を積極的に捜すのに「わだかまりになって」しまったのだ。
そしてもう一つの理由がタオ。ドゥアンと幼馴染の彼が、やはりドゥアンを探そうとしていなかった。
だからこそ祐一は、ドゥアンは祐一には黙って国に帰ったのだろうと思っていた。どこか不審に思いつつ、タオはその事を承知しているからドゥアンを探そうとしないのだろうと。
問い詰める祐一に、タオはある程度事情を知る様子を見せながらも、口を開こうとはしない。
そのあと。
祐一やタオは、元刑事で私立探偵の古賀やら、何やら怪しげな男たち、そのスジの人間に尾け回されることに。
さらに古賀は驚愕の事実を伝える。
「ドゥアンは俺の息子だ」
どうやらドゥアンが殺された背後には、蛇頭や拳銃の密輸の影がちらつき、さらに20年前に起きた事件、そして孤島に住む大物財界人も絡んでいるようなのだ。
彼らの魔の手は祐一たちにも伸びてくる。
祐一は古賀と手を組み、「仇を討つ」ことに。古賀は20年前の事件にも因縁があった……。
実は祐一は2年前にも失ったものがある。
スプリンターとして国体に出る実力を持ちながら、事故で足を痛め走れなくなり、それから彼は「時間をもてあます」ようになっていた。ボートに凝るようになり、さらにドゥアンやタオと知り合い、三人で「馬鹿みたいな悪さ」もしていたのである。
20年前の事件、それが原因で警察をやめた古賀などの人物の設定、さらに20年前と今回の事件との絡みなどは、この手の話としては『ありふれた』と感じることも無きにしも非ず。
ただ。
どこか『ありふれた話』ではあるが、かなり個性的な登場人物を出すことで、物語にも幅が出ているのではないかとも感じている。
今までの二作は、(あくまでも個人的な感想だが)、後半の『パワー不足』が気になったが、今回はそのような事もなく読めた。
特に主人公の祐一。
彼が、どんどん変わっていく……『復活していく』様子が、ちょっとした彼の言葉や仕草で読み手に伝わってくる。
秀逸なのは、後半からラストにかけてのシーン。
船を操る祐一の内面の描写、そこから続くエピローグは読み応え十分だった。
この作者の今後の作品は、今まで以上に、非常に期待している。
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福田和代さん第3弾作!
いままでと傾向がちょっと変ってる。
最初はどーかな?とか思ったけど読み進めるとハマる!
いや、本当に私好みな骨太な作品を書く作家さんです♪
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「TOKYO BLACKOUT」でブレークした福田和代の新作。
「TOKYO BLACKOUT」のスケールさでびっくりし、デビュー作の「ヴィズ・ゼロ」で繊細さに圧倒され、今度の新作では、どんな一面を見せてくれるんだろう?
と、発売前からとても楽しみだった。
でも・・・
オススメはオススメだけど、前2作に比べると、ちょっと物足りない感じ。
今回は銃の密輸を巡る男たちの物語。
ハードボイルドタッチで、とても女性が書いた作品とは思えない。
スピード感や引き込まれる感は前作に落ちるけど、ラストは何となく切ない。
そして、かっこいい。
ぜひ、自分で読んで感じてみて欲しい作品。
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久々に読んだちょっぴりハードボイルド・タッチの
青年の男への成長をアツく書いた読み応えある作品。
TOKYO BLACK OUTよりは目新しさはないし、やや
古がかったテイストとストーリーですが基本的に
自分がこういうの好きなんですね。ちょっと前の
藤田宣永とを思い出しました。
まぁ例によって「アレ?」「え?なんで?」的な強引な
展開はあった気がしますが...。成長ものとしてはバリ王道。
瑞々しく清々しい!
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密売が絡む船乗りの冒険物。
主人公はヨットの好きな大学生・間嶋祐一。かっては高校でいずれはオリンピックと期待されていた超高校級スプリンター。
膝の怪我で選手としては再起不能になり、なんとなく時を過ごす。
大学入学後にタイ人の友人タオ達とばかをやったり、モーターボートで海へ出るのが楽しみだったのだが…
阪神大震災で両親と伯父一家を亡くし、呆然と半年が過ぎた。
行方の知れなかった友人・ドゥアンが死んでいたとわかり、にわかにきな臭い事情がわかってくる。
外国帰りの日本人探偵・古賀は、20年前には刑事だった。密告により陳を捕らえようと友人・高見の運転するクルーザーで大阪湾の受け渡し地点へ出たが、事故で高見は負傷。高見の婚約者は国を出て、彼はそれを追い、駆け落ちしたとも噂された。
半身不随の高見は所有するあけぼの丸で因縁の片を付けようと…?
男同士の友情や葛藤が描かれています。
著者は1967年神戸生まれ。神戸大学工学部卒。2007年「ヴィズ・ゼロ」でデビュー。
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男気溢れる海洋ミステリである。事故によって栄光から絶望の闇へと突き落とされた高校生スプリンター。足の次に震災によって両親まで失ってしまう。そんな彼を救ったのは波を切って走る船だった。けれどやっと訪れた平穏な日々がタイ人の友人の死によって大きくうねり始める。拳銃密輸やら蛇頭やら孤高の車椅子社長やら胡散臭い自称探偵やらが出てきて、前へ前へと読み手の気持ちがつんのめる。たった7日間の間に起こった出来事なのに、ものすごく奥行きを感じる。そしてなによりもオトコとオトコの言葉では言い表せない複雑な絆に惚れ惚れしてしまう。オトコとオトコ そして 父親と息子 の これは熱い愛の戦いの物語なのだ
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新装「ハヤカワ・ミステリワールド」。かつてはずいぶんお世話になりましたっけ。最近は東直己のシリーズぐらいしか読んでいなかった。さて、本作は、正統派の青春海洋冒険小説である。ディック・フランシスを意識した描写があると思ったら、ミステリマガジンの最新号での著者インタビューにもそれについての言及があった。その一つ、主人公が高校時代、トップアスリートだった前歴は、それほど物語に影響は与えていないように思う。また、後半で主人公がひどくダメージを受けるシーンは、「競馬」シリーズのいくつかの作品を想起させる。二作目も気になるので、いずれ読みましょう。
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ハードボイルド小説だった。漁師の川西と、やくざな真木と、その中心にいる高見、らの関係性ばかりに興味がいってしまい、え?誰の物語だったの?と思ったけれど、読み始めたら止められない一気読み小説でございました。とにかく、後日談とその前の物語が読みたくて仕方なくなる濃厚な小説でした。
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内容(「BOOK」データベースより)
阪神大震災で祐一は両親を亡くした。何かを亡くすのは初めてではない。超高校級スプリンターだった彼は二年前に事故で引退を余儀なくされた。走れない脚は亡いも同然だ。だが、ボート仲間のタイ人青年ドゥアンが殺されたことを契機に、凍った祐一の心に火がつく。背後に浮かぶ蛇頭と孤島に住む大物財界人の影。いつしか祐一は第二の脚となった船で大海原に走り出す!骨太で熱い青春海洋冒険サスペンス。
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途中で、読むのを止めようかと思った。
半分近くまで読んでいたので、結局読了したが私には合わない作品だった。
20年前の事件が始まりだった。
海に投下した密輸品を引き上げる事件に関わる男たち。
20年後、事件の関係者の元婚約者が産んだ子供が偽造パスポートを使って来日する。
その子と知り合い交友を結んだ青年も、否応なく事件に巻き込まれていくのだが。
作者は何を書きたかったのだろうと思うほど散漫な作品だと感じた。
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主人公は、足を失った元スプリンターと日本からタイへ逃げた元刑事とその友達。20年ぶりにタイから戻った事で、事件が再び動き出す。と言うかその裏で既に動いていた。
しかし何とも言えない不思議な小説だった。でも面白かった。