紙の本
ちょっとした自分の都合を優先させる怖さ
2010/09/12 12:35
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:かつき - この投稿者のレビュー一覧を見る
一人ひとりにとっては
ほんのささいな我が儘、自分勝手。
多くの人が、そんな自分の都合を選択したばかりに
ひとりの幼児の命を奪ってしまうミステリー。
リーダーはやりたくないけれど
社会運動を起こして暇をつぶしたいプチセレブな夫人。
腰痛のため、ペットの糞を放置する老人。
事なかれ主義のアルバイト内科医。
昼間は混んでいるため、夜間診療を利用して
風薬をもらう病弱な大学生。
息子や嫁は言いなりになるものと決めつける姑。
職務怠慢の公務員。
潔癖症にも関わらず、医者にかかることは
プライドが許さない造園業の男。
運転が苦手なのに、妹の都合を優先させてしまい
大型車を運転している、弱気な若い女性。
最初に幼児殺しを示唆し
これらの人々の物語をロンド形式で描きながら
「-44」「-43」と章をカウントアップさせていきます。
このしかけに惹かれます。
登場する人も普通の人ばかりで
しかけでグッと高まった緊迫感が
だんだん薄れていくのは、熟練の筆ですね。
日常生活のなかに不幸は潜んでいます。
自分のしたことの結果が明らかになってもなお
人は責任転嫁します。
物語の決着もうまい。
第63回日本推理作家協会賞長編及び連作短編部門受賞作。
紙の本
現代社会を指摘する問題作
2011/06/17 19:48
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:kumataro - この投稿者のレビュー一覧を見る
乱反射 貫井徳郎(ぬくいとくろう) 朝日新聞出版
新聞記者加山聡さん32歳の息子健太くん2歳が、強風で倒れた街路樹の下敷きになって死にます。聡さんと奥さんの光恵さんふたりは半狂乱になります。涙が枯れません。現代日本人の権利の主張を基礎にしたマナー(礼儀)とモラル(道徳・倫理)の欠如を問う問題作です。
健太くんが事故死したのは、地域住民にマナーとモラルが欠如していたからです。3人家族の未来を失った加山さん夫婦は、健太くんの事故死と因果関係のあった人々のエゴ(自分のことしか考えない)、わがまま、自分勝手さに闘いを挑みます。でも、だれも謝ってくれません。マナーやモラルの欠如は、犯罪ではないのです。そして亡くなった健太くんはもう生き返りません。
描写とセリフの言い回し、文章表現、すべてがうまい。構成に関しては登場人物が多すぎる。メモをしていかないと誰が誰かわからなくなります。事故関係者のひとりに30年間道路の拡幅に反対してただひとり立ち退きを拒否していた男性河島氏75歳がいます。彼のために「安全な道路づくり」は行き詰っていました。章のつくりは、その河島氏が病死するまでが、「-44」で始まり、彼が死ぬ章が「0」、その後「1」から章が始まり「37」で終章を迎えます。
多数の人たちのマナー・モラルの欠如がタイトルどおり乱反射して、幼児の命が奪われたのです。健太くんの父親加山聡さんは関係者ひとりひとりを追い詰めていくけれど、最後にたどりつくのは自分自身になります。
人間は自分を守るために嘘をつきます。本作品はいつか映画化・ドラマ化されるかもしれませんが、後味のいい内容にはなりにくい。鑑賞者自身・視聴者自身が加害者になるでしょう。現代人の特質と病癖が記述されていて心に響きました。本作品は、日本民族の衰退化を暗示しています。
紙の本
なんともいえない読後感
2009/07/21 01:18
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ぽんちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
忙しくて久しく読書から遠ざかっていたのですが、こういう面白い本があるから読書はいいなと思える一冊にまた出合えました。今回直木賞受賞は逃してしまったようですが、たくさんの人に読んでほしいと思ったので推薦します。責任ある立場で働くことになる者として、よく考えさせられました。(医学生)
投稿元:
レビューを見る
分厚い割にあっという間に読み終わった。
マイナスから始まる章立てなのが面白い。うまいこと考えられてるな、という感じ。
登場人物は相変わらずステレオタイプな書かれ方だけど、大勢の出演者がちゃんと書き分けられてるので読みやすかった。
投稿元:
レビューを見る
一見無関係に見えるたくさんの登場人物達の行動がめまぐるしく場面展開されるマイナス番号の章は-44を起点にカウントアップされ、「章番号0」で事が起こった時には…。読後感がいいわけではありませんが、それ以上に非常に考えさせられる一冊でした。
「人の振り見て我が振り直せ」とは昔からよく言われるものの、なかなか直せないのが人間というものなのでしょう。深い自戒を込めて。
投稿元:
レビューを見る
まだ読んでる途中です。
話の主役が短い間隔で変わりながら、それぞれ一人ずつのストーリーが進行していく。
どの話も説得力があり浮いてないのがすごい。
まだ3分の1くらいしか読み終わってませんが、今後の展開が気になります。
この休みの期間で読み終わりたい。
投稿元:
レビューを見る
一人息子が事故死した、被害者遺族の加山氏。
新聞記者という仕事柄、息子の事故死の真相を辿っていくんですが。
様々な人々のちょとした「マナー違反」が重なり合って事故がおきた、人災にも思える事柄にどう立ち向かうか見モノでした。
投稿元:
レビューを見る
オススメ度85点。
一見全く無関係の人たちの小さな行動が一人の命を奪う話。
途中でなんとなく展開やオチやは読めたけど、
このバラバラの話を1点に収束させていく筆力はスゴイ、さすがと思った。
(読了日:2009/05/01)
投稿元:
レビューを見る
2009/08/29〜2009/09/01
賛否両論あるみたいですが、私は納得のいく最後でした。
とにかく構成がおもしろいし、次から次へと気になって
久々に寝る時間を削ってまで読んでしまった。
投稿元:
レビューを見る
500ページ以上に至る長編の最初の300ページは、何人もの登場人物の自分勝手な物語が綴られ、読んでいるだけで気分が悪く、何度も読むのを止めようと思うくらいで、実に読み終わるのに1週間近くかかってしまった。
300ページぐらいを境に物語は、一人の男児の死亡の真相を突き止める父親の姿を描いていく。
誰もが日常思う「これくらいいいか」の感情が、一つの死亡事故を起こしたと、父親が関係者に迫っても、誰も謝らない。
そして、途方に暮れた時、物語は冒頭の父親自身がパーキングエリアに家庭ごみを捨てた「これくらいいいか」の感情に辿り着く。
確かに日常「これくらいいいか」の感情は誰しもが持っているものだと思うが、これだけ、その感情を集められると、とにかく不愉快な感情にしかならなかった。
時間かけて、頑張って読んだのに、「がっかり・・・」
投稿元:
レビューを見る
1人1人の些細な自己中心的な行いから 子供の命を奪ってしまう。
モラルって何? 自分さえ良ければ他人なんてどうでもいい。な現代社会を上手く表現されていたと思う。
悪意がなくても殺人ってあり得るのですね。
自分の生活を振り返えらずには いられない。
読み出し始めは 乱反射し過ぎて読みづらい感があった。
後半に向けて一気に収束していくのがスゴイ!
いつものような読中のブラックさ 読了後の、やるせなさが少なかった。
毒は少ないけど ずっと残る毒だな・・・
投稿元:
レビューを見る
この作者はほんとうに、人の嫌なところとか狡いところを描かせたら右に出るものはいないだろう。読んでいて時折不快になるほど、登場人物たちはずるくて、身勝手で、自分にそっくりだ。(だから不快になるのだ。)
そういう小さな身勝手さの蓄積が、やがて痛ましい事件を引き起こすまでを淡々と描いていき、その事件によって爆発する、人間の本性。
何というか、本当にありそうな話だから怖い。結局、誰もが小さな悪事を犯しており、それを言ってしまえば人は人を裁くことなんて、できない。
だが、結末に至りほのかな明るさが見えることで、本当は作者は人の善き所を信じているのだろうと救われた思いになる。
ものすごく力強い一冊だった。
投稿元:
レビューを見る
2歳の男の子が事故で死んだ。だがその事故はたくさんの人の罪とも言えない罪が重なって起きたものだった。
一体誰がその男の子を殺したのか・・・
すごいです。すごい本ですよ。
人のちょっとした我が儘、エゴ、見栄がまさか人を殺してしまうなんてね・・・怖くなるよ。
「みんな少しずつ身勝手で、だから少しずつしか責任がなくて、それで自分は悪くないと言い張るんだよ。」
きっと自分もその一人・・・・なのかもね。
投稿元:
レビューを見る
ちょっと装丁が「白夜行」(東野圭吾)に似ているな、というのが第一印象。ブックモニターで手に入れたので、文庫本ではなく、ちょっと持つのが重いな…と思いながら読み、実際内容も重かった…
見事な構成で、一気に読まされてしまう。−44章から始まり、0章(事故の瞬間)に向かってカウントダウンしていく章数がまた0からカウントアップしてゆく。とてもユニークだと思った。
小さなエゴが重なって起こる事故はどの一つが欠けていても起こらなかったかもしれない悲劇を生んだ。いわゆるバタフライエフェクト、といえるかも。冒頭に悲劇提示されているので、読者はそれを頭に入れたまま読まねばならないのが、悲劇の内容が内容だけにちょっと辛いかも(子供が犠牲になる話は嫌だな)
事故後、被害者家族が事故原因を追い求めてゆく形式なんだけど、犯人?がわかっていっても(読者には最初から提示されているわけだけど)すっきり感がなく、犯人に対する毎にもやもやとした嫌な感じが残る。犯人を求めて、めでたしめでたしとはいかないのだ。
読後感は悪いが、心にもやもやとした何かを残すことがこの本の主題なのかもしれない。
と、なればもやもやのままで終わった方が…ラストの旅行シーンで「癒された」のような部分は蛇足のような気もする。でもこれがなかったら読者はどうしようもなく重っくるしい気分のまま放置されてしまうんだろうけど
投稿元:
レビューを見る
◎第141回(2009年度・上半期)直木賞候補作品。
◎第63回(2010年)日本推理作家協会賞受賞作品。
2009年7月21日(火)読了。
2009−71。