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専門の歴史研究家が、資料を紐解き、纏めた論文集の体裁で学術書に属するものです。昨年出版されているものの、あまたある粗製乱造の大河ドラマ便乗本とは一線を画し、歴史の真実を真摯に追究しています。そのため、歯応えというか、読み応えがあり、読了まで時間が掛かりました。それに、難解な言葉もあり。読み返さないと理解できていないところも結構あります。
研究家が時間と体力をかけ、調査を積み重ねても、未だ明らかになっていない歴史の真実が残されていることが、新鮮に感じました。あの有名な直江状にしても、写しが複数存在しているのみで、原本が残っておらず、存在そのものを否定する説まであります(筆者がその説を採っている訳ではありませんが)。もし、直江状が存在していなかったら、今まで信じてきた歴史認識が大きく変わってしまいます。この件、この時代にに限らず、歴史が覆るような新たな事実が今後の研究によって見つかるかもしれないと思うと歴史の奥深さを感じます。
本書を読み、クリアになり、納得したこともあります。
1.兼続が武将としてのみならず、為政者や文人としても優れた人物であったこと。戦国武将は戦の勝敗で評価されがちですが、為政者としての領国経営が後世に残されるものかもしれません。
2.上杉家の降伏は、上杉家にとって重大事ですが、徳川幕府の基盤を固める意味での方が大きかったこと。
3.兼続の死後、直江家が断絶するわけですが、それは後室おせんは上杉家の一族として遇されており、直江家を存続させる必要がなかったこと。
上杉家が滅びようとも戦い続ける義、家康に屈服しても家や国を守る義、どちらも義には違いありません。国を治めるものとしての兼続、そして景勝の決断の重さは計りしることができません。その決断に至る心象に思い巡らせることが、後世に生きるわれわれの特権なのかもしれません。