貧困社会を止めるために立ち上がれ、声を上げよ
2010/08/12 00:30
6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:MtVictory - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は社会運動家・湯浅氏と「ルポ 貧困大国アメリカ」の著者・堤氏による、日本の貧困スパイラルを止めるための方策を提言するものである。日米の貧困の拡大の状況が生々しく語られ、いつ自分が転落するかも知れない「すべり台社会」日本の現状にゾっとさせられる。
第一章では堤氏が格差社会、競争社会アメリカの悲惨な状況をレポートする。拝金主義が医療や教育の現場を襲い、「国家にとって最も大切な核」を失う恐れを指摘。第三章では湯浅氏が日本の中間層の転落の実態を語る。非正規雇用が拡大し、正社員もいつ同じ立場になるかも知れないほど労働市場の劣化が進んでいる現実を明らかにしている。
上記の2つの章以外は二人の対談になっていて、反貧困スパイラルのための議論を日米の対比を混じえながら行なっている。第二章の対談の中で、日本では今、「衣食住と仲間を得られる最後の場所が、若者にとっては自衛隊、高齢者にとっては刑務所になりつつある」というのは、日本も来るところまで来てしまったなと愕然とさせられた。若者には働きたくても仕事がなく、老後の手厚い保障が得られない高齢者の存在が、そういう状況を生んでいる。これでは未来に希望をもてるわけがない。不安ばかりで、お金も使えない。
これに関連して、第五章では景気対策として、「総合的にセーフティネットを整備して安定感を持たせて、安心して消費できる内需拡大に向かう道」という選択肢があると言っている。私もこれには同感だ。労働者の立場が弱くならないよう、また元気に生き生きと安心して働ける環境が取り戻せれば、消費も増え、経済は活性化すると私も思う。本書はただ貧困の恐怖を煽るのではなく、それに対抗して我々有権者に立ち上がれ、と促すものである。
よく世論調査などで政府の政策の最重要課題として「景気・雇用」を上げているのを聞くが、まさに雇用と景気は一体で、雇用が安定しないと景気は浮上しない。そのためにも政府にはしっかりとした戦略をもって、成長分野に集中して予算配分し、雇用を拡大・転換するような思い切った政策を期待したい。同時に働く気力をそがない生活保護制度や、求職者のための時代に合った職業訓練の充実も必要だ。
世界金融危機、不況のせいでこれまでの市場原理主義的なものが否定され、日本的経営が見直されているという。構造改革という名のもとで破壊された共同体や、セーフティネットを今後、我々は新たな形で再構築していく道を探ることになるだろう。
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もやいの湯浅氏の本。
凄い現実にちょっとショックを受けました。
アメリカの医療保険の現実、今日本で起こっている非正規雇用労働者の現状などなど。。。
正規労働者にとって国の保障制度も崩れ落ち、経済もダメージを受けているこの状況は本当に厳しい。
しかし、非正規の方は厳しいってもんじゃない。もうダメというような状態。
恥ずかしながら僕は派遣村をはじめとするこの関連のニュースを見ていて、
彼らにも自己責任があるという認識をしていた。
しかし、それは違った。
ニュースを見ていた僕は彼らに比べると
職もあり、若干だが貯金もあり、困ったら駆け込める親がいて、
悩みを相談できる先輩、友人がいたという事実があったからだ。
これは本書で繰り返し主張されているが、
自己責任を問える状況にあった人が自己責任を問える状況にない人に、
自己責任だ!と言っていたわけだ。
僕という他人の発言てのはなんて無責任なのでしょう。反省。
非正規の方は本当に辛いと思う。
本書にはこの状況を打開するにはやはりそれなりの政策を打つしかない。
もしくは不正なことを行っている企業等を、
辛い思いをしている人が下から小さな反対を数多くのみんなを集めて勝負していくしかない。
というような形で締めくくっている。
会社でのんびり仕事しているやつを見ると腹が立つぜ!
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アメリカ、日本における正社員=中間層の貧困化現象を追った二人による対談。
岩波新書の仕事を角川がおいしいどこどりした印象もあるが、中身はそこそこしっかりしている。
弱者を救うために声を上げることは、個人的には好意を覚える。
しかし、そこには人並み以上の想像力が必要ではないだろうか。
グッドウィルの違法派遣の問題についての湯浅氏の言及(p.232)を見ても、
<本当にアリ対ゾウの戦いになったわけですが、[略]大きな世論の後押しがあったから、
今でも三十人ぐらいしかいない小さな組合・グッドウィルユニオンがグッドウィルを
廃業まで追い込めたんです。>
「じゃあ、折口社長のいいなり社員はともかく、
末端の純朴なグッドウィル正社員が職を失ってもいいの?」
ということが、素朴な疑問としてありうるわけで。結局、ゾウ倒した!バンザーイ!に見える。
そういう意味でやっぱり、謙虚さが足りないし、想像力が欠けていると思う。
社会的弱者に対する共感はあっても、多数派集団のなかにいる少数者に対する共感は持てない。
旗振り役がそんな狭隘な視点でものを語っていて、リベラル的思考に未来はあるんでしょうか。
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今の政治に対して怒りを感じさせてくれる+その怒りをどのように政治に影響させるかについて、アメリカと日本の事例をいれて紹介しています。
この本を読んだ後に、日本を出て行きたくなりました。
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非正規雇用を増やすことで正社員の相対的な地位が上がる。
「もらいすぎ」という批判にさらされ、その能力を証明することが求められる、
そして脱落者が増え。。。というスパイラル。
日米の背筋が寒くなる現状を紹介しています。
市場原理主義も共産主義も、人間の心を計算しきれないため破綻するのでしょう。
競争に勝ち残るのか、社会そのものを変えていくのか。
どちらにしても、現状では努力・勉強しない人は淘汰されていく事に。
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経済格差大国アメリカと、それと同じ道をたどる危機に瀕している日本の現状を二人の活動家が語る。
もはや他人事ではない。
みんなにもこの危機を知って欲しい。
そうすれば、社会全体で社会を支える国も必ず実現するはずである。
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「過激なタイトルだなあ」、と思った。
読み進むと、それは過激でも何でもなく、今アメリカで、そしてこの日本で現実に起きていることなんだと分かる。正直恐ろしくなった。
医療保険や教育の民営化の結果、医者が食糧配給をもらうまでに追い込まれ、教師は精神を病み職を離れる。にわかには信じ難いが、それがアメリカの現実だとすれば、日本で近い将来起こる事を想像することは難しいことではない。
貧困問題やワーキング・プアが語られるとき、マスコミも私達も、単に弱者救済すれば問題が解決すると考えている。
そこが殆どの日本人の思考を停止させ、己の身に今降りかかっている問題から目を逸らさせていることをこの本は気付かせてくれる。
緊急に手に取り、読んで、自分の身の振り方を真剣に考える必要がある。「知らなかった」では最早済まされないところまで、私たちは来てしまっている。
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日本もどんどんアメリカ社会に近づいているような・・・
正社員でも安心できなくて、働いているに暮らしていけなくて、
そんな社会の原因ってなんだろうと考えさせられた。
日本の政治に関心のなさすぎる自分に反省。
何か起こってからじゃ遅いんだね。
そろそろ真剣に何が今起こっているかを知らないと。
今年から社会人な久美子は思いました~
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極端な競争社会だと合理化か進んだあげくに身を削るようになって、労働者はもちろん、会社にとっても仕事が雑になるだけでちっとも「効率的」ではなくなるという指摘が重要。
後半、労働者が同時に消費者でもあるのを生かしてさまざまな働きかけをするのを呼びかけるのは、正論ではあるだろうけれど、微妙に腰が引ける。
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ネットカフェをこの本でいう「溜め」のひとつとして考えると、風紀面からだけの規制強化もいかがなものかと。「溜め」として機能するコミュニティがなくて一気に真っ逆さまに・・・って実は誰の身にも降りかかる可能性がある。ここでも政治の責任は重い。
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[ 内容 ]
『反貧困』の湯浅と『ルポ 貧困大国アメリカ』の堤が明かす、中間層の没落。
[ 目次 ]
第1章 没落するアメリカンドリームの主役たちー社会の価値が崩れる
第2章 職と誇りを奪われるホワイトカラー-アメリカの現実
第3章 没落する日本社会の主役たち-労働者の存在が崩れる
第4章 急速に転がり落ちる中間層-日本の現実
第5章 アメリカと日本はすでに並んでいる-拡大する貧困社会
第6章 貧困社会は止められる-無力でない運動
第7章 市場にデモクラシーを取り戻せ!-「NO」と言える労働者へ
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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『反貧困』の湯浅氏と『貧困大国アメリカ』の堤氏の対談を中心とした本。日本やアメリカにおける正規社員、教師、医者、中間管理職の窮状が中心的な内容。
恐ろしいのはアメリカ政府が日本政府に提出する「年次改革要望書」。郵政民営化や建築基準法、商法などの改正がこの要望書に基づく政策だということは知っていたが、医療保険や医薬品業界の規制緩和もそうだとは知らなかった。また、アメリカは国民を「消費者」、ヨーロッパは「市民」として扱うという見方も新鮮だった。
この本からは「苦しい」と声を挙げることの大切さと共に、散発的になっている反貧困運動の連帯が重要であることを学んだ。全体としては『反貧困』ほどの内容ではなかったと思う。
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堤未果・湯浅誠『正社員が没落する 「貧困スパイラル」を止めろ!』(角川oneテーマ21、2009)を読んだ。
堤未果さんの講演や著書(『社会の真実の見つけかた』岩波ジュニア新書、2011年)からアメリカの戦争・教育の破壊・貧困の悲惨な実態を知った。アメリカの悲惨な失敗を日本は真似しようとしている。今のうちに何とかしなければいけないととんでもないことになる。
この本ではアメリカの悲惨な失敗の一部をすでに日本はしでかしてしまっていること、また、そもそも日本の方がアメリカより酷い部分もあるのだということを教えてくれる。
あまりに入り組んだ罠がしかけられているところを見ると、僕にはこの危険な兆候をちゃんと発見して見破れるだろうかと不安に思った。しかし、僕自身が気づけなくても、危険に気づいて警告を発する人がいるはずだ。
例えば湯浅さんと堤さんはそういう人たちだろう。まず、この2人が発信するメッセージをキャッチして、怪しい事例は疑ってかかるようにする。そこから危険を察知する自分なりのセンスを身につけていけばいい。
別のレビューでも何度も言っているが、僕たち一人一人がジタバタするくせをつけなければいけない。何か起きた時につながれる基礎を作っておく必要がある。小さな動きでもみんなで起こせば大きな力になることもこの本は教えてくれる。
いきなり本格的な行動は起こせない。しかし、意識を持っていれば緩くても大きなつながりを作るチャンスはある。独り相撲のようでも、決して無駄にはならない。そう思ってジタバタし続けよう。
角川書店の紹介ページ
http://www.kadokawa.co.jp/book/bk_detail.php?pcd=200806000367
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薄々ではあるが、労働者を取り巻く環境が質的に変化していると感じていた。恥ずかしながら自分はその状況を臨床からしか推測していなかった。それも自分とは違う世界に生きる人のように感じていた。けれども、外来や入院で見る患者達の中には少なからず、単なる疾病のみではわからない社会的な背景を背負っている。これは、内服や生活管理では癒えない別の社会構造と深くリンクしているのではないか?この問いかけがわたしを本書に向かわせたのだと思う。アメリカの臨床医がフードスタンプを受給する立場に没落する例は、極端であるが身につまされる思いがする。その要因の一つは資本主義の暴走と実体経済の「空想化」ではないかと考えさせられる。本書の多くは湯浅氏と堤氏との対談で占められいて、文章としてはやや読みにくい印象なので★を一つ減。
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貧困問題と労働問題についての本はたくさん出ているけど、いくつか読んだ中でも湯浅誠さんの書いた著書が、一番実感をともなって読めてよかったと思います。
労働問題の最前線で闘っている人だから、その皮膚感覚は信じられる気がします。
一時期話題になった派遣労働者の問題ですけれど、この問題は派遣社員として働いているひとだけのものじゃなくて、正社員である人たちにも大きく変わっているんだということを、被用者として働いている人たちは意識して欲しいと思う警句的な本です。
自分のために読んでおきたい一冊。