紙の本
木でできた海をどうやって渡る?
2009/05/13 22:49
6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:峰形 五介 - この投稿者のレビュー一覧を見る
物語の終盤でフラニー・マケイブは悟る。
「俺たちは彼らの声に耳を傾け、導いてもらわねばならない」
さて、「彼ら」とは何者か?
ヒントその1 複数形なのに一人しかいない
ヒントその2 でも、やっぱり一人ではない
本作はジョナサン・キャロルの十一本目の長編である。『蜂の巣にキス』、『薪の結婚』に続いて、今回もクレインズ・ヴューが舞台となっているが、前二作とは少しばかり趣が違う。いや、キャロルの過去の作品すべてと趣が違う。キャロル・ワールドに慣れ親しんできた者たちはきっと戸惑うだろう。まさか、キャロルがアレを書くなんて……。
アレというのは、あるジャンルのこと(ネタバレを避けるために言葉をぼかしておこう)。アレの愛好者たちは「こんな小説はアレではない」と言うかもしれないし、当のキャロルも「べつにアレを書いたつもりはない」と言うかもしれない。それでも多くの読者はアレを思い浮かべずにはいられはずだ。あんな事が起きたり、あんな者が出てきたりするのだから(ああ、もどかしい)。
しかし、アレであろうとなかろうと、キャロルはキャロルだ。おなじみの要素が本作にも詰まっている。たとえば、奇妙な犬。たとえば、父と子の愛憎。たとえば、不良中年の内省。たとえば、頼れる(しかし、変人の)相棒。たとえば、喋り出す死人。たとえば、俗っぽい姿で現れる高次の存在。そして、甘すぎない感動。
キャロルは良い意味で変わっていく。キャロルは良い意味で変わらない。新境地を拓きながらも、自分を見失うことはない。
なぜ、そんな風に変わること/変わらずにいることができるのか?
たぶん、キャロルもまた「彼ら」の声に耳を傾けているからだろう。
物語の中盤で少女がフラニー・マケイブに尋ねる。
「木でできた海で、ボートをこぐにはどうしたらいいですか、マケイブさん」
さて、どうしたらいいのだろう?
その答えは「彼ら」が知っている。
紙の本
キャロルを超えるのは、キャロル
2009/08/09 17:03
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:mayumi - この投稿者のレビュー一覧を見る
警察署長であるフラニーの目の前で死んだ三本脚の犬。
その犬を埋葬したあとから不可解なことが起こり始める。埋めたはずの犬は戻ってきて、謎の男が使命を携えて彼の前に現れる。
ファンタジーだけど、SF的な要素も大きい。が、キャロルは既存のルールをいともたやすく飛び越えてしまう。
フラニーは、問題解決のために時空を超えて走り続けるのだが、彼を突き動かしているのは家族への愛で、そのシンプルさはとても心地よいものだった。
そう、物語は複雑だけど、このフラニーの率直さが物語世界の芯となっていることで読み手をしっかりと導いている。
フラニーの選択には、思わず落涙してしまった。
よもや、キャロル作品で泣く日がやってこようとは…。
裏に「鬼才の新たな傑作」とあるが、決して大げさでなく、その通りだと思う。
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やっと入手!読む。
表紙が美しすぎるたまらん。
5/6
読了
相変わらず先の読めない展開で面白かった!
結局、何も解決せずに終わったけど。これはいつものことか。
フラニーが過去に行って、父親の浮気を知る場面が好きだ。
「お袋、親父は猟犬だぜ!」
この明るさがフラニーの魅力か。
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いつものキャロルと違った。
ちなみに処女作が日本邦訳で出てからずっとのお付き合い。一部の作品はほんとに好きだし、結局好きな作家になるんだと思う。
出来としては凄く良かったとは思えない。多分一番出来が悪い『我らが影の声』のちょい上くらい。だけどやっぱり愛すべき犬は出てきて、ウィーンは出てくるんだな、と思った。
「一人一人の小さな過ちとか無知とかが世界の乱れ」ってテーマはやっぱ共通。ただもう一つのキャロル執心のテーマ「父と息子(キリスト教的意味ではなく、多分キャロルのファザコンが関係してるだけ)も顔を出すんだけど、これが強すぎると処女作以外はいつもバランスを崩しちゃう傾向にあると思う。あと、今回のアプローチはあんまりキャロル向きじゃない。これはディック的アプローチだと思うし、この話に必ずしも必要な要素じゃないって思った。
あと、老いについてかなり書いてるのは、キャロルが老いを感じてるからなのかなー、とか漠然と思った。
だけど「木でできた海で、どうやってボートを漕ぐのか?」 って問いはすごくよかった。 こういう奇跡みたいな言葉と出会えるから、キャロルとの付き合いはやめられないんだ。
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「蜂の巣にキス」「薪の結婚」に続く同じ町クレインズ・ビューの警察署長フラニー・マケイブ。
もとは札付きの不良だったが、今は再婚した妻マグダと連れ子の娘と幸せに暮らしていたがある日…
目の前で死んだ三本脚の犬オールド・ヴァーチューを森に埋めた後、なぜか舞い戻ってくる。
いつもケンカしていた夫婦が忽然と消える。
変死した女子学生…
極彩色の美しい羽根が、不思議なことの起こる現場には残されていた。
何が起きているのか?
時空を越える?思いがけない展開に。
木でできた海とは?
スケールが大きいが、ええと…こんなの、あり?
この作者に馴染んでからでないと、この作品からはちょっと。
著者は1980年デビュー。2001年の作品、2008年4月翻訳発行。
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久しぶりに読んだジョナサン・キャロル。相変わらずのシュールな展開に、楽しみながらも振り回された。クレインズ・ビュー三部作の中では「蜂の巣にキス」よりもこっちに魅かれる。犬の名前をはじめ、ユーモアが秀逸なこともあるが、話が明快に終わらないところが、あとを引く読後感を味あわせてくれる。「薪の結婚」も読むとしよう。
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警察署長であるフラニーの目の前で死んだ三本脚の犬。
その犬を埋葬したあとから不可解なことが起こり始める。埋めたはずの犬は戻ってきて、謎の男が使命を携えて彼の前に現れる。
ファンタジーだけど、SF的な要素も大きい。が、キャロルは既存のルールをいともたやすく飛び越えてしまう。
フラニーは、問題解決のために時空を超えて走り続けるのだが、彼を突き動かしているのは家族への愛で、そのシンプルさはとても心地よいものだった。
そう、物語は複雑だけど、このフラニーの率直さが物語世界の芯となっていることで読み手をしっかりと導いている。
フラニーの選択には、思わず落涙してしまった。
よもや、キャロル作品で泣く日がやってこようとは…。
裏に「鬼才の新たな傑作」とあるが、決して大げさでなく、その通りだと思う。
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いやぁ、参った。
面白いものを書く作家さんだなぁ。
すべり出し、設定はミステリーだと思ったが、
それは大きな間違い。
まるでディックの様な世界が待ち受けている。
主人公フラニー・マケイブもイイ感じのキャラ。
タイムパラドックスが破錠しているような気がするのもご愛嬌?
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読み終わっても、結局なんだかよく分からなかったんだけど(・・・)、若い自分との会話とか、すでに亡くなった父親とのシーンは良いなあ。
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楽しむポイントがいまいち理解できなかった。
つまらない訳ではないケド、おもしろい訳でもない。
SFって、多くは推理小説だよね。
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『蜂の巣にキス』『薪の結婚』と、最近の作品にはちょっとがっかりしてたけど、これで久々にキャロル熱復活。
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ありふれた田舎町。
いかにもアメリカ的にぼやく中年男。
なにも起こりそうにないのに、当然のようにありえないことが起こります。
時間軸が交錯し、神の御業と宇宙人の陰謀、死者が蘇り、人生は廻り巡る。
過去の自分と対峙して、その時々の自分を許し懐かしむ『老い』をファンタジックに描いた小説です。
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SF? ダークファンタジー? ジャンル分けができない小説。最初はホラーかと思いましたが、とてもドラマティックな展開で、主人公のお話は完結しているのかもしれませんが、神の計画はまだ完成していない、という感じの締め方でした。壮大な話で、これを1冊でまとめるには倍くらいのエピソードが必要なのかもしれませんが、しかし、すごく絶望的な状況の中で、人生讃歌と言うか、人生を肯定できる清々しくてほろりとくる場面やウィットに飛んだ言い回しがたくさん出てきて、その魅力を損なわない翻訳も素晴らしいと思いました。勢いで一気読みできる魅力を持った作品。なんとなく、スティーブ・エリクソンが好きな人も好きそうだと思いました。