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今IT業界でアツい動きを見せているのが日本オラクルだ。先日、サンマイクロシステムズの買収を発表し、ピープルソフトやハイペリオン、日本BEAなど名だたる企業を取り込んできたM&A戦略にさらに磨きをかけた。サンの買収によりJavaやSolaris、サンがかつて買収したオープンソースRDBMSのMySQLを手中に収めたオラクルは、データベースベンダーから企業が必要とするあらゆるソフトウェアを提供する総合ベンダーに進化を遂げている。
合従連衡で業界の地図が継続的に塗り変わる中、オラクルの強みはどこにあるのか、そしてIT業界を牛耳る存在になるのか、はたまたクラウドコンピューティングの中枢を担う存在になるのか……。さまざまな疑問が湧き起こっていたときに偶然見つけたのが本書だ。
残念ながらこの本で書かれている内容は、2008年末に集中的に取材をした事実に基づくため、冒頭で述べたサンとのシナジー効果には触れられていなかった。だが、オラクルがこれまで歩んできた買収の道、それがもたらすソフトウェアベンダーへの変貌、そしてパートナーを主体においた日本でのビジネスモデル、縦割りの問題をIT製品で解決するという旧来の稼ぎ方、考え方からの脱却――といったオラクルならではのビジネスを言及し、オラクルという企業がなぜ成長を持続し続けているかが分かる構成になっている。
日本の成長を支えてきたのはお家芸のものづくり、すなわち製造業の企業だ。こうした企業は好むと好まざるとにかかわらず、M&Aや企業提携などを通じて、グローバルで戦う事業体制を整えつつある。そういった中で問題になるのが、情報システムの縦割り化。異なる企業がくっついた時に、これまで別々の業務を担っていた情報システムをどう統合させるのか、そしてそれをどう経営に生かすのか。また過去のデータから予兆をとらえ、どうリスクを回避するのか。こうした視点がグローバル規模の企業には求められる。そういった企業に対してITを使って経営のてこ入れをしてもらうことが、オラクルのお金になる。最近オラクルが頻繁に「ITと経営、グローバル」に言及した発表をしている背景をつかむことができた。
オラクルの日本法人である日本オラクルは、東証一部にも上場するなど、外資系の日本法人としては珍しく、日本に根付いた経営を目指しているという。パートナー企業と手を組んだ間接販売が同社のビジネスの中核であるが、これを利益率の高い直接販売にどう転換していくかなどが今後の課題として挙げられている。前社長時代には顧客の顔が見えなくなっていたという日本オラクルが、国内でどう動くか。こちらも引き続き注目していきたい。
クラウドコンピューティングに対する洞察も読んでみたかったなぁ。