紙の本
悲哀を笑いで装って。
2010/12/09 23:23
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:きゃべつちょうちょ - この投稿者のレビュー一覧を見る
かわいらしい表紙に反して、なかなか渋めの短編集。
5編のうち、3編の内容をさっくりと。
「いわしのてんぷら」
58歳の現役OL(独身)、うらら。
外野のステレオタイプなかわいそうというジャッジに対し
本人は明るくのびやかにエンジョイしているというギャップが、
軽快に描かれていて気持ちがよい。
うららは、会社関係の葬儀の席で、ひさしぶりに会った河中と
個人的なつきあいが始まる。
「オムライスはお好き?」
会社の経営不振により、中間管理職をはずされた滝本は
あと何年かで定年を迎える、30年来の古参社員。
仕事はきっちりこなすが、定時退社になったことを喜ぶ。
家では息子に生意気を言われたりしているが
時折キッチンに立ち、卵料理をつくるのがたのしみである。
「無芸大食」
食べることが大好きで、量もかなりいけてしまう。
そんな主婦・秋江には子供がいない。
前妻に子供ができないのを理由に離婚し、
秋江と見合いで再婚した夫は、秋江に嫌味を言う。
食べるだけ食べて、子も産まない。お前は無芸大食だ、と。
しかし、姑と仲良くごはんをおかわりしたりして
秋江の毎日は、決してブルーに包まれているわけでもなかった。
全編をとおして思うのは、哀愁があるのにユーモラスということ。
「いわしのてんぷら」に代表されるように、
外野の目とは裏腹に、本人がのびのびとやっていること。
ほんとうにたのしんでいることだ。
幸せは相対的に評価できるものではない。
じぶんが感じる一瞬一瞬のことなんだなぁと、
つくづく思ってしまう。だから幸せはじぶんでしか捉えられない。
辛辣な内容をユーモアでくるみ、風通しをよくしてある。
このからっと乾いた感じが、魅力的な短編集である。
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今週に入り、いきなり冷え込んで、寒い。『We』入稿直前ということもあり、机でパソコンに向かっている時間が長く、あるいはちみちみと校正している時間が長く、寒さも加わって、この数日というもの肩まわりや腰まわりが凝っているようでちと痛い。
2日前から湯たんぽを出し、昨日はヒーターを出した。そしてたびたび熱いお茶をすすりつつ、昨日はやっと最後の原稿が終わり(最初に書いたのを東京からオモロナイと言われ、書き直していた)、一息ついて、風呂でぬくもりつつ『無芸大食』(自分で買った本)を読む。ラッセルの『怠惰への讃歌』をだらだら読むために買うことにして、あわせて、読みたかったこれも一緒に買ったのである。ぬくぬくで布団にもぐり、眠くなるまで読む。
食べるもんとおしゃべりとを書き込んだ短篇5つを編んだもの。食べるもんが出てくる小説集といえば、たしか『春情蛸の足』(私はむかしちくま文庫で読んだが、ことしになって講談社文庫でまた出ているらしい)があったなア、あれまた読みたいナーと思った。
どれもおもしろかったが、表題作の「無芸大食」には、しっかり食べてすっとうんこを出すので上等やないのという秋江が出てきて、この秋江もええのやけど、夫の母のスエとの会話を読んでいると、
「おいしおまっしゃろ」 とか、
「おいしそうやな、よばれよか」 とか、
生まれは高砂(兵庫)なれど、大阪のオバハンとして死んだ祖母の口吻を思い出すのだった。
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大人の恋愛小説です。特徴は「食」を媒介にしていること。キャピキャピしていなくて、色が綺麗に褪せていい色になったような落ち着いた文章です。
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食べることも、料理を作ることも大好きな著者が送る、食にまつわる短編5編。
田辺聖子さんの本、ずっと「読んでみたいなー」と思っていた。
でも最近やたらたくさん本が出て(しかもどれも装丁がいい)、どれを読めばいいのかわらなくなっていたところ、「食」という文字に引かれて「これだっ」、と。
とても読みやすくて、会話に大人になった楽しみともいうべき(?)軽妙な色気を感じたのだけれど、どうも私にはまだその雰囲気に入り込めない気がした。
少なくとも、この本を読んで「歳を取るのっていいな」とは思わなかったのである。
うーん、なんか、大人になって、大人になった自分を楽しむのにも、すごく紆余曲折を経なければいけないんだなぁ、と思ってしまった。まぁ、歳を取れば大人になれるわけではない、というのは当たり前といえば当たり前なのだけど。
別の言い方をすれば、私はこの作品に出てくる人たちをそんな「歳を取っただけの」大人ではない、と思ったということなのかな。
私が十年後とか二十年後とかにこの本を再読したら、どう思うのだろう。。
もし田辺さんの作品で、もうちょっと低年齢層向けのおすすめ作品があったら、どうか皆様教えてください(^^;)。
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このシリーズは本当に表紙が好きです。表題作は、タマゴの具合がどうのこうのというのが、セクハラもんだとは思いますが、「タマゴ」という卵子の比喩表現がそんな怒り?をも和らげてくれるような、実際いわれたらやはり怒髪天かなと思ったりもします。あとがきインタビュー?で、日本では食べ物のことを書いた小説は少ないと田辺先生がおっしゃっていましたが、山田詠美も同じことをどこかでいっていたなあと思い出しました。しかし、深酒をして、真夜中にスペイン料理を食べるなんて、おしゃれかつおいしそうだなとつくづく思った。
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田辺聖子の描くおっちゃんらの可愛らしさったらなんなんでしょう。
大阪弁でしゃべくるおっちゃんらは、よく食べ、よく笑い、よく遊ぶ。どうしようもない男であっても田辺聖子のてにかかると憎めないおっちゃんになってしまう。
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関西弁がこんなに可愛いなんて!!こんなに上品なんて!!ずるい。
どきどきする恋も素敵だけど、穏やかに、そっと育む恋もいいなあ。大人の艶っぽい恋がしたくなりました。