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現代中国を知るにはとても良い本である。最初の中国法制史概説は現代中国史がコンパクトにまとまっているし、憲法は三権分立をとらない人民民主主義独裁・民主集中制の国家制度、とくに全人代・常務委員会・国務院・中央軍事委員会・人民法院・人民検察院などの関係を知ることができる。この辺りは、「中国とはどんな国か」という問いに答えるもので、一般教養として必須になるだろう。下手な中国本を読んだり、極端な議論ばかりしているテレビ番組をみるより、こうしたしっかりした本を読んだ方がいいのである。第五版では、物権法、独占禁止法などの新しい法律についても学べる。刑法に残る固有法の影響とか、自殺誘致が有罪になるとか、「民転刑」などの独特な概念や、「労働教養」などの罰とか、家族法(三種の扶養[夫婦間の扶養・親から子への撫養、子から親への贍養]、婚姻法[男22歳、女20歳で結婚でき、審査がある]、一人っ子政策など)、法曹養成課程、とくに裁判の独立を犯す様々な問題、85年の時点で司法行政部門の在職幹部のうち、中卒以下の学歴者が58.3%であったこと(p.336)など、興味深い内容が多い。それにしても、違憲立法審査権がないとか、行政訴訟については具体的行為にのみ適応され、羅列主義をとっているとか、などは人権の問題として非常に重要である。また、法律には現れないが、国家の全組織を指導している中国共産党の存在はまさにダークマターとでもいうべきものである。とにかく、「他者」としての中国を知るうえで法律はよい切り口であると思う。社会主義法を残しながらも、WTO加盟など新しい状況に適応していこうとする苦悩もよくわかる。