むやみな駆除でなく、動物たちとの共存の道を探る著者たちの奮闘ぶりに期待
2009/12/23 00:23
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投稿者:JOEL - この投稿者のレビュー一覧を見る
世界的には絶滅の危機に瀕する動物たちが増えているのだが、日本では、逆に野生の動物たちが増加し、被害をもたらし始めている。
その現状を、複数の第一線の研究者が執筆し、報告している。新書にしては、かなり本格的な内容となっていて、読み応え十分だ。
被害をもたらしている動物たちは、シカ、イノシシ、サル、クマ、アライグマなど。こうした誰もが知る動物たちの生態が、意外に解明されていないことに驚く。そのため、まずは研究に比重を置かなくてはならないのが現状であることを教えてくれる。
こうした動物が増えている要因は複数あるが、山間部の高齢化と過疎化で、里山と呼ばれるエリアに十分な手が入っていないのが大きい。例えば、柿が熟せばかつてはもがれていたが、今となっては人の手が入らない柿の木が増え、野生動物を呼び寄せる原因となっている。
過疎化とは言っても、変わりなく農地を耕し、作物を育てる人たちはいる。農家の人たちが春から何ヶ月もかけて育ててきた作物が、秋の収穫時期になってから、動物たちに食い荒らされるのは、さぞかし無念だろう。
柿などの果樹や農作物は、奥山のドングリなどに比べれば栄養価が高く、しかも格段においしい。一度、味をしめたら、動物たちが何度も誘惑に駆られるのも無理はない。
比較的取り組みやすい対策は、農地を囲む柵の設置とある。電気が流れてあれば、より効果的だ。ただし、動物たちが容易に跳び超えてしまう高さだったり、柵の壊れたところから進入できるようになっていたり、柵の下を掘り返してしまえるようでは意味がない。柵もまた、設置して終わりではなく、メンテナンスが欠かせない。つまり、動物の進入対策は、相当に手間暇がかかる作業だ。負担が大きい。
歴史的に見て、日本では野生動物とかなりうまく共存してきたとある。ここへきて、山村部の人口動態の変化などにより、野生動物が増加し、被害をもたらし始めている。これは人間にとっても、野生動物にとっても幸せなことではない。
やみくもに有害駆除をしても、きりがない現状がある。そこで、ワイルドライフ・マネジメントという言葉が、本書では繰り返し出てくる。科学的な調査結果に基づいて、野生動物の生息数のコントロールや被害対策を講じようとするものだ。
ワイルドライフ・マネジメントは兵庫県が先進県となって成果をあげつつある。例えば、ツキノワグマが人里に出没しても、学習放獣するのが基本となっている。人里に出れば怖い目に遭う、という学習をさせてから放てば、あまり人里には戻ってこないのが追跡調査から分かっている(例えば、爆竹を鳴らしたり、唐辛子入りのスプレーを吹きかけてから逃がす)。
本書の最終章には、縄文時代にまで遡り、江戸時代に至るまで、日本人が主にタンパク質を魚介類から摂取し、牛、馬、猪、鹿の肉はあまり食べてこなかった歴史をひもといている。
日本人の食生活はすっかり変わったので、こうした歴史文化にはもはや立ち戻ることはできないが、科学的な調査に基づいて、より賢明な共存の道を探ろうとする著者たちの奮闘ぶりには、なかなか敬意を払うべきだけのものがあると感じた。
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案外知らない野生動物の実態。
これを読めば山や畑を見る目が変わります。
人間がどれだけ身勝手に振舞ってきたかも
実感します。
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[ 内容 ]
国の森林皆伐計画によって繁殖力が強化され、森林の土壌に大きな影響を与えるまでに増えたシカ。
数年に一度大量出没するクマ。
食物だと認識していなかった人間の農作物を、採食し始めたニホンザル。
神戸市内でゴミをあさるイノシシ…。
かつて人と動物の“入会地”であった日本の里山は、今や野生動物の領有地となっている。
その原因は何か?
人と動物と森のあるべき姿とは?世界的サル学者と専門家たちが、日本の動物の現実に迫る。
[ 目次 ]
野生動物の反乱
里山とは何か
ワイルドライフ・マネジメント
ニホンザルの被害はなぜ起こるのか
シカと向き合う
ツキノワグマ―絶滅の危機からの脱却
イノシシ―人の餌付けが悲劇を生む
外来生物 アライグマとヌートリア
野生動物管理と獣医学
森林から野生動物との共存を考える
獣害と地域住民の被害認識
日本人の動物観
倫理面からみたワイルドライフ・マネジメント
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
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☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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第1章:野生動物の反乱
第2章:里山とは何か
第3章:ワイルドライフ・マネジメント
第4章:ニホンザルの被害はなぜ起こるのか
第5章:シカと向き合う
第6章:ツキノワグマ―絶滅の危機からの脱却
第7章:イノシシ―人の餌付けが悲劇を生む
第8章:外来生物 アライグマとヌートリア
第9章:野生動物管理と獣医学
第10章:森林から野生動物との共存を考える
第11章:獣害と地域住民の被害認識
第12章:日本人の動物観
第13章:倫理面からみたワイルドライフ・マネジメント
コラムの1つに、野生動物の適切な殺処分は?というものがある。ウェルフェアにもかかわる問題で要注目
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会社で斡旋されていたので買ってみた。
燃料・食料・肥料などの供給地としての里山が利用されなくなり、人の世界と動物の世界の間で「人と動物の入会地」が崩壊することで、それまでの人と動物の関係性が失われてしまった。
人を恐れなくなった動物の中に里山を拠点にして人里へ下りるものが現れ、農作物などに害を及ぼす。
上質な餌を手に入れた動物は数を増やして山や森林の環境に圧力を加え、生態系のバランスさえ脅かしてしまう。
そうして崩れてしまった人と動物の関係を“正常な”形に戻し、生態系の保護によって生物多様性の保全を目指そうというのが、本書のテーマでもある「ワイルドライフ・マネジメント」だ。
本書は主に兵庫県森林動物研究センターの研究員たちが分担執筆しており、各地で起きている獣害についての現状や原因など、多角的に見ている。
取り上げられる動物はニホンザル・シカ・ツキノワグマ・イノシシ・外来動物(ヌートリア・アライグマ)で、生態や人間との関わりの歴史なども書かれていておもしろい。
これほど獣害が取り沙汰され始めたのはつい最近のことで、日本の長い歴史の中では異常事態だと言う。
もちろん獣害そのものは大昔からあり、特にイノシシは大きな問題で、各地にイノシシ(とシカ)除けの「猪垣」が残っている。
このあたり、先にレビューを書いた藤木久志『刀狩り』(岩波新書)にある獣を追い払うために銃を必要とする百姓、農具としての銃といった話が思い起こされる。
里山を介してうまく動物とつきあっていた時代ですら対策に苦心していた獣害。それを今の状況下で解決していこうというのは、相当な難題だ。
「生物多様性」が失われると何がマイナスなのか、はっきり言えない部分があると思う。ただ確実なのは、失われたらもう取り戻せないということ。「失って初めてその大切さに気付く」なんてことはよく言われるけれど、そんな悠長なことを言えるレベルの話ではない。何かが起きてからでは遅いのだ。
兵庫の事例を中心とはしているが、問題は全国的。まず何より大事なのは、このことについて知っている・理解している人間が増えることのはず。
日本の、「今そこにある危機」のひとつを知る本としてオススメ。
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野生動物が人里へ出てきて農作物が荒らされる被害がでています。人が改良した作物は、動物が食べても美味しいはず。努力しなくても食べ物が手に入るなら食べにくるのは当然です。動物と仲良く共存できる方法はいかに。
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数年前の出来事。島根県にある義母実家の裏山にクマが出た。地元テレビも取材に来たそうだ。ときどきニュースでクマが出たという話はある。まあそれはクマだってエサがなければ里にも下りてくるだろう、それくらいに考えていた。しかし本書を読むと、そこにはいろいろな理由があるのだということが分かってくる。天敵だったニホンオオカミはとっくに絶滅している。サルにしろ、シカにしろ、イノシシにしろ、増えて困っている人たちがいる。丹精込めて作った農作物などがやられてしまう。シカなどは増えすぎて相当な数殺しているのだそうだ。あまり肉を食べるということもしないから、そのまま処分するしかないのだそうだ。そんな実態があるとはつゆとも知らなかった。おもしろいのはドングリの木の話。毎年毎年実をつけていると、それをエサとする動物が増えてしまい、全部食べつくされてしまう。そこで、幾種類かのドングリの木たちは相談をしたかのように、いっせいに実をつける年と、実をつけない年を決めているのだそうだ。そうすることで、動物たちは食糧不足でしばらくは増えることができない。で、いっせいに実ができても、それを食べつくすほどの数がいない。そうして、ドングリの木たちは子孫を残していく。恐るべし、自然界のからくり。ぜひ、本書を読んで日本の森の実体を知ってもらいたい。
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縄文時代の遺跡調査によると、狩猟対象の8割はイノシシとシカだった。牛と馬は5世紀頃に渡来したが、乗り物、運搬、耕作に用いられ、食用にはされなかった。日本で牧畜が発展しなかったのは、雨量が多いため牧草地をつくることが難しかったことが大きな要因。鶏は時告げ鳥として神聖視されていたため食用にされず、江戸時代になってから鶏卵食が始まった。綱吉の生類憐みの令は、兵農分離を進めるために、農民から鉄砲を取り上げることが目的だったとの説も出されている。
戦前から生後しばらくにかけては、ヨトウムシ、ウンカ、イナゴ等の昆虫、ヒヨドリ、スズメ、カラスなどの鳥、ウサギ、ネズミ、モグラ等の獣による害が多かった。
明治になって鉄砲が解禁され、野生動物が経済取引の対象となったため、肉、皮、羽毛が輸出されたほか、ノウサギが兵士の防寒用に大量に捕獲され、カワウソはコートの襟の毛皮として乱獲されて絶滅した。馬を襲う害獣としてエゾオオカミが明治28年頃に、ニホンオオカミが明治38年にそれぞれ絶滅した。
森林の大規模皆伐によって、草や実をつける低木、高木の幼樹が生えるため、シカとニホンザルの絶好の餌場になった。1970年代に始まった畜産振興のための草地開発が進められた兵庫県などでは、シカが多くなっている。
シカは戦後に絶滅寸前になったため、活用する文化が途絶えてしまった。現在は、捕獲しても埋められたり焼却されることが多い。
イノシシは雑食だが、植物の中では消化しやすく栄養価の高いものしか食べられない。そのため、いつ、どこに何があるかを探索し、記憶する能力に優れている。イノシシの分布は西日本が中心だったが、北陸や関東にも拡大している。
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興味深い野生動物の生態や人との関わりなど色々な視点からの研究をわかりやすく読みやすく紹介している。是非続編を作って欲しい。