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従来は『審判』として紹介されてきたものと同じカフカの作品ですが、底本としている編集が異なるようです。
本書のあとがきでも示されるとおり、原語のタイトルも「審判」というよりは「訴訟」あるいは「プロセス」というのが作者の意思に忠実な訳――訳者曰く「負ける翻訳」――なのでそうです。
『城』と同じく未完の作品ですが、『城』がまだ続きそうなところで途絶えているように感じるのに対し、『訴訟』は一応の結末がきちんとありました。ただし、いくつかの章が様々な紙の束――たとえば別の作品の裏紙など――にわかれて見つかっていて、もしかすると訳と編集によって、まったく異なる印象が与えられるのかもしれません。
訳が現代的なためか、ストーリーそのものによるものかは分かりませんが、先に読んだ『城』(前田訳)よりもスッと読めました。
登場人物らの不可解な言動は抑制されていて、というよりほとんど常識的な様子であるため、その点で面食らうことはありませんでした。クローズアップしてみると、自分の身の回りでも日々起こっているような日常的なエピソードで構成されていますので、単純におもしろく読めます。
全体としては、裁判制度や組織・職業に磔になっている人間の在り方に対する批判のように感じます。もちろん、他の作品同様に著者自身の境遇に照らして云々することもできるでしょう。
けれど、作品を解読してやろうとか、批判してやろうとかいうのではなく、単に楽しむために読むのが健全な読者の態度だとしたら、この作品ではとくにその姿勢が推奨されると思います。
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まだ世の中というものをよく知らない若い頃に読んでいたら、単なる荒唐無稽なフィクションとしてしか理解していなかったと思うが、きれいごとだけでない、本音の現実がある程度わかってきた私くらいの年齢から見ると、社会も会社組織も現実にこれに近いものがあり、逆に妙なリアリスティックを感じて薄ら寒い。
共同体のルーチンが固定されてしまって、一度そのレールに乗せられると根本的に真実がどうということとは関係なく、たとえそのルールが形骸化され、本来の意味を成さなくなっていても、それに対する是正機構が存在せず、枠からはみ出ない範囲の中でもがくしかないが、結局予め決められた結末が誰の責任ということもなく遂行されていく。それに巻き込まれた主人公もいつのまにか、それを受け入れてしまっている。恐い。恐すぎる。
物語の登場人物や舞台の描写がときどき異次元空間に落ちたような悪夢を見ている感じに襲われる。映画でいうと、ちょっと古いけど「未来世紀ブラジル」を思い出させる本作品の表現はかなり斬新で私の琴線を妙に刺激してくれた。
ただ、生前カフカが断片的に書いた半端な小説を寄せ集めたというだけあって、ちょっと統一感に掛けて読みにくいので、好きなのだが4点。
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何もわからないまま裁判に巻き込まれていくK。裁判所の威圧感と周囲の理不尽。
その割に悲壮感はない。
かなり協力的なものもいたりするが、Kからはあまり覇気が感じられない。なぜだろう。無実の罪を負ってなるものか、うまく立ちまわって勝ってやるという心情描写は多々あるのに。肝心なところで女に流されてしまうからか?(それも味方につけるためというより、K自身が誘惑されているように感じる)
社会の理不尽さに不満が爆発しそうにも関わらず、それなりに恩恵もあるがゆえに、仕方なく流されていく多くの現代人の描写なのか。
余談だが、10時に約束をしていたKが時間ぴったりに教会についたはずなのに、11時を告げる鐘がなる、という誤植にはちょっと笑った。そりゃ、一時間も遅刻したら待ち合わせ相手がすでにいなくても不思議はない(笑)その後またなぜか11時の鐘がなるし。(本書ではカフカの間違いとみなして、最初の鐘を10時と訂正していた)
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滑稽な悪夢というのだろうか。見に覚えのない訴訟にまきこまれた主人公Kの物語。デヴィッド・リンチ的なイメージが続いて楽しい。
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(Mixiより, 2010年)
なんかもう、設定にまず惹かれます。はじめのシーンから、「あ、この小説は面白いぞ」っていう予感に溢れてる。淀みない文章で語られる無機質なエピソード。ユーモラスなんだけど、どこまでも無機質。リアルなんだけど、深みはない。きっとどこかに繋がって行くんだろうな、と思っていた一つ一つのキャラクターの配置も虚しく、物語はラストに向かって 読者を裏切るように破綻・・・
決して完成された物語じゃないのに、それぞれの場面が放つ魅力に病み付きです。画家も商人も教誨師も良いんだけど、一番のお気に入りは弁護士。この会話、たまんない!ですよね。
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訳の分からないまま、裁判にかけられてるんだけど、なにか哲学的なにおいをかんじながらよんでます。
わたしたちの日常もわかったつもりなのに何か勘違いをして進んでいるのかもしれないなぁ。
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ディストピア小説を思わせる。半分ほど読んで、関心が途切れてしまった。その訴訟について、本人だけが何も知らされていない。 丘沢静也による新訳。16/03/20
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知り合いに薦められて読みました。「審判」という名前の方が有名かもしれませんが、光文社の「古典新訳」文庫では、あえてより一般的な「訴訟」というタイトルにして、さらに元のテキストになるべく忠実に順番を並べたそうです。確かに読み進めると、最後の方は、おやっ?という箇所が登場しますが、チャプターの順序についてはあまり気にせず読むことをお勧めします。また日本語訳は全体通してとても読みやすかったです。
主人公のヨーゼフ・Kはある朝いきなり逮捕されますが、罪状がわかりません。逮捕した役人も罪状を知らず、「裁判」にかけられても下級の役人は罪状を教えてくれません(というか役人自体もわかっていないらしい)。その中で主人公は親戚や会社の同僚、弁護士や判事などとやりとりしますが、事態は進展せずストレスばかりがたまる・・・というような内容で、ものすごく印象に残るストーリーでした(この本のストーリーは一生忘れない気がします)。
理不尽さを小説にしたという解釈がありますが、私はAI全盛時代には、この小説のようなことが現実に起こるかもしれない、と感じました。フィリップ・K・ディックのマイノリティ・レポートにも通じる面があり、例えばAIが「〇〇氏は悪事を将来働くから逮捕せよ」と警察に指示を出すようなシナリオです。捕まった当人はいったいなぜ自分が逮捕されたのかわからないでしょう。「訴訟」はAI全盛時代にこそ読まれるべき本かもしれません。
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想像していたよりは読みやすかった。
状況はずっと意味不明なままではあるけど。
主人公が、女たらしですぐキレたり嫌味言ったりするような嫌なやつだったので、そんなに感情移入はできなかった…
『大聖堂で』の掟の門の話のところが一番おもしろかった。
いろんな人からこの話をどう解釈したのか聞いてみたくなった。
未完だからこそ順番もこれにしたんだろうけど、特に『終わり』以降は時系列がバラバラだなぁと思ったりした。
『終わり』は誕生日の前日で、『母のところへ行く』では誕生日は2週間後と言ってるから、翌年以降の誕生日じゃないなら時系列がめちゃくちゃだなと。
いつの話かはわかりにくいとしても、この話ならあの話のあとにくるのが自然だな…と思うのもあったけど、カフカが明確に順番を決めたわけではないのに、他人が勝手に順番を決めるのは違うというなら確かにそうかもしれない。