紙の本
なんとも熱く厄介な男が日本SFの黎明期にいたことを教えてくれる一冊
2010/01/12 22:35
9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yukkiebeer - この投稿者のレビュー一覧を見る
1959年に創刊された早川書房の「S-Fマガジン」初代編集長である著者が、70年代に連載した回想録。日本のSF界をめぐる状況が1960年から67年にかけてどうめまぐるしく回転していったのかについて綴っていますが、連載中の76年春に著者が若くして他界したため未完で終わっています。
本書を通して今さらながら知って驚いたのは、私自身が物心ついたときには既に確立されたSF作家だと思っていた小松左京や筒井康隆といった作家たちが著者が発掘し育てた人々で、60年代はまだまだ成長途上であったということです。
つまり60年代当時、日本のSFはまだまだ緒についたばかりであり、英米や東欧に比べると社会的認知度も評価も低い時代でした。現在の視点から見ても不当な偏見と差別の目を向けられていて、なんとかSFの地位を向上させようと東奔西走していた著者は激しい憤りと焦慮の念を多方面に向けてぶつけていきます。
SFに対して批判的な人々や団体に対して、牙をむくかのように激烈な言葉で反論していく著者の姿勢は狷介不羈ともいえるほどであり、読んでいて時に鼻白むほど。あまりの熱さに火傷しそうです。
しかも「S-Fマガジン」といういわば公器である雑誌の誌面で、時に品位もへったくれもないとばかりに過激な言葉で相手に矢を放つことがほぼ常体化したかのくだりも登場するに至り、一線を越えているという感じもしなくはありません。
それもこれも、それほどの力を込めて持論を展開していかなければ産声をあげたばかりの幼子である日本SFがあっという間に潰えてしまうという危機感と、“我が子”をなんとしても成人させてみせるという“親”としての責任感とがなせるわざだったのでしょう。
日本SFの黎明期にこんなに熱く、また厄介極まりない男がいて、今日の日本のSF界を創っていった。そのことを教えてくれる大変興味深い一冊でした。
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SFマガジン初代編集長であり、『夏への扉』『鋼鉄都市』などの翻訳者でもある著者が急逝する直前まで書いていた、60年代の日本SF夜明けの回顧記。
熱くて、苦くて、ヒリヒリする。
世の中にまだないものを新たに創り出す、機知や行動力をもって何かを築くことができるという雰囲気が強い時代だったのだろう。
現代の未踏の地はどこにあるのだろう。
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巻頭言のことばがいちいちがーんとくる。色々な意味で、すごい熱と力を感じる本。想像でも小説でも、常に現実とつながっていなくてはならない、そういう有り様でなければ意味がない、というところに改めて気付かされた気分。若さ故か、勢いと直截さの絶妙な文体が良い。「ぼくは、いやだ。」この言葉の威力。
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存命なら81歳、1929年2月18日に樺太で生まれたSF小説家・評論家・翻訳家。雑誌「SFマガジン」の初代編集長。
・・・・・書きかけ・・・・・
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巻末の『著・訳書目録』を見ると、若いころに読んだ本がちらほら。ずーっと昔に私にSF好きの種を植え付けたのはもしかしたらこの人なのかも知れないなあ。他の人が書いた本で、この人の仕事の仕方について独善的だとか結構厳しい言い方をしているのを読んだけど、何はともあれこの人を抜きに日本SFを語れないのは確かでしょう。高橋良平の本の雑誌での連載の内容とちょうど時期があっていて興味深いし、大好きな野田昌宏にちょぴっと触れているところもうれしいし、満足の一冊。それにしても、この表紙の表情の素敵なこと!若々しくて、生き生きとしていて。こんな顔して仕事したいもんだ。
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早川書房といったら福島正美、SFファンならおなじみの名前だ。1929-1976 50歳前で亡くなったことになる。それにしてはなんと膨大な仕事の量よ。
回想録からは日本のSF界の草分けとしての困難な道筋がうかがえる。72年あたりから星新一とか小松左京を文庫本で読みだしたが、この二人とはまた違った人生であったんだな、という感じだ。
巻末に氏の編纂、著作、翻訳の全仕事が載っている。
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1976年に書かれた60年から67年までの
SFマガジン初代編集長による創刊時の回想にして未完絶筆
書かれた時期が示すように自伝的回想というより
40年前現在進行のSFにまつわる評論
著者のSFという仕事であり
それ以上の情念また人生というものの対象への思いが
現在でも通じ
もちろん当時の時代資料としても読めるが
成立経緯上から論としてまとまりにかける仕事であるのは残念
そして50年前があまり昔のことに感じられない自分の感覚はどうかと思った
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作品自体は非常に古いものですが、今回の文庫化を機に読んでみました。
非常に興味深く読むことが出来ました。
日本のSFの夜明けの為に尽くしていた著者の功績に改めて感謝したいと思います。
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昭和30年代,日本の文学にSFというジャンルが芽生えかけてきた時代に,早川書房でSFマガジンを創刊し,初代編集長としてSF界を叱咤激励し,自らも翻訳,執筆,企画に八面六臂の活躍を見せた福島正美の回想録.
回想しているのは1950年代末から1967年までで,残念ながら本人が1976年に47歳で早逝したために,未完となってしまっている.
思えば,10代から20代にかけて読んだ古典SFは,福嶋正実の訳のものが多かった.「夏への扉」「鋼鉄都市」「幼年期の終わり」「不死販売会社」・・・ Wikipediaで調べてみると,とんでもない仕事量であり,これに加えてSFマガジンの編集をしていたのだから恐れ入る.当時から「固い訳だなあ・・・」と感じていたが,この仕事量ではしょうがないか.
本書には小松左京や星新一,筒井康隆が頻繁に登場する.彼らも福島正実に見い出されたようだ.回想からは彼のSFにかける情熱が伝わってくるが,一方,数年後にそれを振り返る彼の文章は冷静でもある.それでも,そこで起こっていたことを描く文章を通じて,この時代,まだ人々は未来を信じていた(これはSF的な意味ではなく)ことが見えてくる.
恐れ入ったのは,アシモフが1966年に予測した21世紀の内容で,かなり当たっている.
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SFマガジンを創刊し、日本にSFを根付かせ広めた人の回想録。SFとは何かを問い続け唱え続け、ありとあらゆる手を尽くす。凄まじい熱量が胸を打つ。
SFの魅力を信じて認めさせてやると意気込む。その姿に憧れと尊敬を抱く。奮え立つ読了感。