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水魑の如き沈むもの みんなのレビュー
- 三津田 信三 (著)
- 税込価格:2,090円(19pt)
- 出版社:原書房
- 発売日:2009/12/01
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紙の本
古色蒼然、今書かれる必然性はない、かな? 私はどうしても横溝正史を思い出して、それを越えてないよな、って思うんです。戦後ものなら、京極夏彦で十分。古いスタイルの本格ミステリは、昔の作品で十分・・・
2010/11/29 20:24
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
長女が怖がる三津田信三作品ですが、第10回「本格ミステリ大賞」受賞ということで、一年前の出版であるにもかかわらず読むことにしました。ブックデザインは、ミステリー・リーグという縛りがあるので、スタジオ・ギブ(川島進)の装幀がどうとかいうのではなく、小説家・津原泰水の実弟である村田修の、日本的な風合いと怖さを併せ持つ装画で決まりだな、という感じです。
扱われる時代は戦後ですが何故か明示されません。13年前に起きた事件、23年前に起きた事件、などというばかりで一向に今が昭和何年だとか、昔の事件が起きたのが大正だとかは見えてこないのです。ただ、左霧一家が引き揚げ船に乗って日本に帰ってきて七年、という記述があるので、そのまま素直に読めば昭和27年となります。そうなれば、最初の事件は昭和4年、次の事件が昭和14年ということになります。ちなみに7年前は悟郎が村にやってきた年でもあります。
しかしです、何とか私が年代を特定したものの、正直、この話には時代というものが全く感じられません。むしろ、現在にした方がよっぽどすっきりするのではないでしょうか。そういう意味では、引き揚げ船のエピソードがちっとも効いていません。同じ時代を扱った京極夏彦のシリーズには濃密な時代感があるのに、この差は一体何か、ということになると、時代描写であり、作家の資質ということになるのでしょう。
ただし、この小説に欠けた、というか薄い時代感は、一方的に悪いと決め付けることが出来るものではありません。実は、三津田の『水魑の如き沈むもの』を読んでいて、何度も横溝正史の名前を思い浮かべたのです。舞台は奈良と岡山という違いはありますが、扱う時代が近いせいでしょう、村のありかた、儀式、人情、あるいは人間関係が似ています。つまり時代を克明に描くことを捨てることで、よりミステリとして純化した、そういえないこともありません。無論、古さも引き摺っているのも事実ですが。カバー折り返しには
*
奈良の山中の村で、
珍しい雨乞いの儀が
行なわれるという、
村に豊かな水をもたらす湖には
水魑という神様がいるとも―ー。
その儀式の最中、
刀城言耶の眼前で事件は起こる。
さらに儀式の関係者が
次々に不可解な状況で殺されていく。
二転三転のすえに示された
真犯人とは……。
刀城言耶シリーズ長編書き下ろし!
*
とあります。繰り返します、よりミステリとして純化した作品です。私も長女もこれまで読んできた三津田作品の印象と〈水魑〉という文字から、てっきりホラーだと思っていたんです。ミステリといっても、結局はホラー系だろうな、って。ところが全く違いました。まさに横溝正史なんです。だから、驚きはありません。新鮮さも感じない。でも、懐かしい。
私は、大学生や高校生がチャラチャラしている、或いは大学の教授が女子大生の恋愛感情をもてあそびながら事件を解決する、いま、それこそ、「伊勢屋、稲荷に犬の糞」みたいな学園ノベルより、三津田や京極、そして横溝作品のほうが遥かに好きです。何で日本人は他人と違う道を歩もうとしないのだ、って思います。そんなことをデザイナーの芦田淳が、『透明な時間』で書いていました、制作者より消費者だってそう感じているんだぞ!
探偵役が刀城言耶、東城雅哉という名前で怪奇幻想小説を書いています。博識で、思いつくと周囲が見えなくなるところはありますが、大学の先輩、阿武隈川烏と比べれば常識人といえます。その阿武隈川烏は、実家が京都の由緒ある神社という市井の民俗学者です。嫉妬深く猜疑心が強く、威張たがるデブのオジサンです。人は悪くないけれど、身近にいると鬱陶しいタイプで、後輩である言耶が虚仮にされたり悪口をいわれるのが何より楽しみという歪んだ神経の持ち主です。
この刀城、阿武隈川という危なっかしい二人をうまく操りながら、刀城にいい小説を書かせようとする、強かでどこか憎めない女性というのが祖父江偲です。「書斎の屍体」という探偵小説専門月刊誌を出す怪想舎の編集者ですが、美人だかなんだか・・・。で、その三人が向かったのが奈良の山中、深通川が流れる波美の地にある五月夜村で、ここで事件に遭遇します。内容にはこれ以上触れず、本についている主な登場人物表を補って書いておきます。
五月夜村の人々
水使龍璽 波美の地にある深通川を流れる水を御神体とする四つ神社の一つで、水魑様を祀る力がもっともあるとされる水使神社の宮司。神社の一角に、関係者もなぜか口を噤む謎の『一つ目蔵』がある。
汨子 龍璽の妻
龍一 長男。13年前の増儀を、父親の龍璽にかわって執り行う。
龍三 10歳くらい年下の次男
八重 龍三の三番目の妻
重蔵 水使神社の使用人。満州から引き上げてきた左霧を迎えに行き、その後も宮木一家に気を配る。
留子 水使家の女中頭
宮木左霧 水使家の養女。終戦直後、満州から子供三人を連れて逃れてきた女性。実家は、五月夜村にある由緒正しい水使神社。
鶴子 長女。満州から引き上げるとき、11歳で、精神を病んでしまう。
小夜子 次女。満州から引き上げるとき、8歳。聡明で、左霧に似ている、といわれる。
正一 長男。満州から引き上げるとき、5歳。どちらかというとおっとりして、子供のころ不思議なものを見る。
青柳富子 元庄屋の家系の娘
清水悟郎 酒屋の婿養子
久保 青年団代表
高嶋 村の医者
坪束 村の駐在巡査
物種村の人々
水内龍吉朗 深通川を流れる水を御神体とする四つ神社の一つ水内神社の宮司
世路 四男。満州から帰ってきた左霧のところに訪ねてきて親しくしていたため、小夜子などは二人が結婚すると思っていた。
芥路 世路の長男
佐保村の人々
水庭流虎 深通川を流れる水を御神体とする四つ神社の一つ水庭神社の宮司
游魔 養子で物語の後半に登場する。
甘木 村の駐在巡査
青田村の人々
水分辰男 深通川を流れる水を御神体とする四つ神社の一つで、もっとも歴史が浅い水分神社の先代の宮司で、23年前に神事の最中、行方不明となる。
辰卅 長男。現在の宮司
その他の人々
樽味市郎 大阪の酒屋の長男。清水悟郎の兄
以上です。