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1Q84 a novel BOOK3 10月−12月 みんなのレビュー
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紙の本
半年も前に前二巻をファッションとして読んだ初老族だから、うろ覚えのままでこの第三巻を理解できるだろうかと不安があった。だが、著者も心得ていたようで、読んでいくうちに充分思い出すことができるような仕掛けがあったので助かった。果たして青豆と天吾は月の二つある世界から脱出できるのだろうか。混沌の世界から抜け出せないのは読者だった。
2010/05/14 00:27
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:よっちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
相変わらず判じ物の謎解きを読者にせまるのだが、今回の前半は教団側の探索者・牛河が暗殺者・青豆を追いつめるプロフェッショナルな行動様式で、一本筋が通っているものだからかなりわかりやすい。それにこの牛河と青豆の守護者・タマル、教団側の暴力機構をしょって立つ凶漢、小説『空気さなぎ』をベストセラーにした仕掛け人・小松、これら脇役が前面にでてきて饒舌なものだから、(彼らは「こちら側の世界」の住人のようだから余計に理解しやすいのである)前二巻で提起されている謎の基本構造を補足的に解説してくれるのである。
それによると私が前二巻で受けた断片的印象に大きな狂いはなかったとホッとしたところがある。
まとまりが見えにくい作品なので、またまた断片的印象だけが残った。
印象・その一
「小説の中に登場する小説」どおりに現実が動くという入れ子構造の判じ物であるのは間違いがない。
そして17歳の深田絵里子の小説『空気さなぎ』がベストセラーになったことで世界が変質し、そこで幻想的に描かれた二つの月のある世界が現出、リトルピープルが実体化した。
考えてみれば、ありえないことではない。
キリストという人の思想あるいは哲学でもって描いた世界が現に誕生したではないか。
あるいはマルクスという人の思想あるいは哲学でもって描いた世界がとにかく誕生したという事実があるのだから。
歴史上最大のベストセラーは聖書だといわれる。ところで空前のベストセラーになった『1Q84』だが、村上ワールド!われわれが住んでいるこの世界を変質させるだけのパワーはあるのだろうか?
印象・その二
深田絵里子がその手で書いた原初の投稿作品は読者には明らかにされていないのだが、もっとぼんやりした世界だったに違いない。ただ彼女の生い立ちからして「孤独」「悲しみ」「対立」「絶対的存在」「束縛」というキイワードがあてはまる世界だったと推測できる。
ところが原典『空気さなぎ』には俗世界で生きる天吾の手が加わった。
天吾と青豆は、天吾により原典よりも具体的イメージが濃く改変された小説『空気さなぎ』の世界に迷い込んだことになる。
天吾もまたその生い立ちには同様のキイワードがあたる。ところが深田絵里子と決定的にちがうところがあった。それは究極の愛の対象・青豆の存在である。このため反対のキイワード「連帯」「喜び」「信頼」「個性的存在」「自由」が底流としてあるのだが、それらは当初は表面には出ない形で物語が進展していく。
やがて深田絵里子の純粋幻想世界は消えていく。
印象・その三
そして天吾は小説『続・空気さなぎ』を執筆中である。この現在進行形が肝心なところである。その内容は読者には伏せられている。だがおおよその見当はつく。
内在していたキイワードがはっきりと見え始める。
さらに天吾が父親の死を見取ることによって「死の尊厳」というキイワードが加わる。
そして青豆のテレパシーによって、もっと決定的なキイワードが『続・空気さなぎ』加わった。それは「生命の賛歌」であった。
これらの思念の産物として『続・空気さなぎ』が目下書き進められている。そしてあらたに青豆が合作者として加わる。小説どおりに世界は動くはずだ。二人の圧倒的な意志力でもって、三つの生命を元の世界へ無事に戻せるだろうか。
こうして『続・空気さなぎ』は完結していく。
まさか私が今読んでいるこの『1Q84』こそ、天吾と青豆の共著である『続・空気さなぎ』そのものだったなどとオチがつくことはないと思うが。
印象・その四
森羅万象、あらゆるものの過去現在未来を透徹し自在にそれらの運命を決定できる存在は神か悪魔である。
だがもうひとり絶対的支配者が存在する。それは小説家である。入れ子構造小説の究極のトリックだ。小説家は神か悪魔のように作中のあらゆる事象を意のままに決定づけられる。操り人形であった天吾と青豆が自我に目覚め、村上春樹に対し「ここまで二人は命がけの愛を貫こうとしているのだから、月がひとつある元の世界へ脱出させろ」と権利を主張するのが聞こえる仕掛けになっている。小説家ってのは気持ちがいいだろうなぁ。
「いやぁ、制作に熱が入ると主人公が一人勝手に動き出し、描いている本人の意のままにならなくなるってことがあるんです」
という謙虚を装う気のきいたセリフもあるぐらいだ。
印象・まとめ
今の日本、この価値観の混沌とした世界であってもなげやりになってはいけない。自分の運命は自らの強い意志と勇敢な行動力で必ず切り開くことができるのだ。
こういう力強いメッセージなのかしら。
おそらくそうだろう。
だとするといつの時代にでも通用する言い古された教訓だ。
いや、それだけのはずはあるまい。
ではなにが加わる?
しかし、あまりにトリッキーな小説作法だから、それが気になって、そこを詮索的に読んでいくと肝心なところを見逃してしまう。
もっと村上ワンダーワールドへのめりこむように読むべきかもしれない。
でもこんな分析をしながらの読み方でも大いに楽しむことはできた。