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面白い。文句なしに面白い一冊です。
ジャーナリズムに興味のある人には必ず価値のある一冊になります。中国という国は、今ある意味で「ジャーナリズム」が歴史上類を見ないこの上なく奇異な形で展開されている国であるように思えます。
一党独裁のもと、情報統制が行われている状態。また、農村部と都市部での凄まじいほどの経済格差と情報格差。一方で携帯電話やインターネットの普及による情報統制の混乱。さらに日本が高度経済成長化で40年以上の時間をかけて進んできた成長変化を、20年以内で一気に進目ている状態。おまけに、世界でもっとも多い人口。多様な民族。
この著書は、このような中国で、最先端の注目されている文化人を集めてインタビューを行った一冊です。そんな彼らの話を聞いて、「気づき」がないわけがありません。
中国の言論空間で活躍する人たちは、他の国にない危ういバランス感覚の中で意見を発する必要があります。世界でもまれに見る高度に発展し続ける資本主義の世界と、国家主義的な統制状態。地方と都市部の価値観の違い。利害関係の別れる様々な階層。これらをうまくくぐり抜けながら自分の意見を主張する場合もあれば、あえて、偏った意見を発することで注目を得ることもあります。
恐らく私たちの多くは、中国という国を、大雑把な数値のみの統計データや、尖閣諸島問題などのニュースからの限定的にスポットを当てられた情報の中でしか判断したことがないのではないでしょうか。いわゆる中国の「ニュージェネレーション」の意見を見ていくと、それは、かなり限定されてた情報であることに気がつかされますし、彼らが注目している文化的な事象、ナショナリズムに関わる情報も、大きく私たちの認識とは異なる感覚を受けます。
一例として、ジャーナリスト、コラムニストの梁文道は、チベットのダライ・ラマの発言について、以下の点を指摘しています。
ダライ・ラマは、どこかに出かけるたびに、「わたしは自治を求めている。私は今日の中華人民共和国政府がナニナニをしてくれたことに感謝している・・・」と常に言い、その後で「ああ、チベット文化は今、危機に瀕している。チベット仏教は危機にさらされている』と語っているそうです。しかし、西洋系のメディア(もちろん日本も含む)では、記事にされる際に、前半部の「中華人民共和国に感謝」の部分が抜け落ちている。一方で、中国系メディアでは、「中華人民共和国に感謝」が強調されていて、「チベット仏教が危機」という部分が抜け落ちている。
私は、ダライ・ラマはかなり中国が嫌いなのかなという印象を持っていましたが、どうも、チベット問題を詳しく見ようとしている現地のジャーナリストの視点では、もう少し違うバランスでいると考えざるをえません。
他にも、中国国内では、故宮に出店したスターバックスが撤退するまでのプロセスをかなり文化的に重要な問題として論じられている点、香港に長い間住んでいた言論人が、中国との統合後にどのような変化を感じているのか、台湾と中国の関係の変化など、様々な視点から、日本国内のジャーナリストや、大本営発表の統計データからは読み取ることのできない情報が盛り沢山に展開されています。
正直なところを言うと、中には、「なんだこの観点は?」と首をかしげたくなる内容のものもあるのですが、そういったものが混ざっていたりスポットを浴びている一方で、逆に恐ろしく繊細なバランス感覚の意見が混ざっていたりするアンバランス感が、現代中国の「言論」の面白さであることを強く感じました。
知っているようで知らない隣人の存在感を強く感じている方は、統計データや、日本の専門家の評論、ニュースの映像だけでは知りえない躍動感を味わうことができると思います。