紙の本
第23回山本周五郎賞受賞作、もっといい作品があったんじゃないかな、なんて思います。悪くはないんです、でも道尾ならもっといい作品が書ける、私はそう思うんです。それに、一か所、話の繋がりが他の話ほどすっきりしていないし・・・
2010/10/27 20:26
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投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
先日、勤め先の近くの書店を覗いたら、最新文学賞受賞者特集のコーナーがあって、第23回山本周五郎賞受賞作として『光媒の花』が飾ってありました。私がこの本を読んだ時は、受賞前、直木賞の候補にもなっていなかったので、結果に驚いた次第。何故って、読んだ時、そんなに感心しなかったからです。無論、構成は面白いな、と思いましたが、疑問も抱いた次第。
で、突然、カバーのお話。使われている写真は誰のものなんでしょうか。単に写真ではなくて、絵と写真の合成だと思うんですが・・・。それと各章の扉の絵、写真の加工ではここまでシャープな線は出ないと思うので、ペン画か何かだと思うのですが、製作者についての表記がありません。全てが装丁の片岡忠彦の手になるものであれば、それはそれで凄いのですが、はっきりしておいてほしかったな、と。
ちなみに私がカバーを写真と絵の合成だと思ったのは、カバー周辺を飾る影となっている草花の感じが各章の扉のペン画の雰囲気に近いからで、扉のほうも写真のCG処理、というのであれば当然、カバーも同じ手法を用いたもの、となるはずです。とはいえ、このカバーの地の色となる黄色と黒を混ぜたような色、多分30年に一度咲くという竹の花のイメージだと思うのですが、個人的には好きな色ではありません。ここは純粋にデザインで決めてもよかったのではないでしょうか。
で、各章の説明になります。目次の順に初出とともに紹介すれば
第一章 隠れ鬼(「小説すばる」2007年4月号):30年前に自殺した父から遠沢印章店を継いだ息子が思い出すのは、毎年夏を家族で過ごした長野の別荘で中学生のとき出会った女性のこと・・・
第二章 虫送り(「小説すばる」2007年10月号):仕事に出かけた母親が帰ってくるまでの時間、小学二年生で二歳違いの妹と二人で虫取りに出かけるようになった僕は、いつものように川向こうの闇に見える懐中電灯にむかって合図をすると・・・
第三章 冬の蝶(「小説すばる」2008年9月号):自分の犯したことは決して悪いことではない、そう思った私が思い出すのは、昆虫採集と研究に夢中だった中学二年生のとき、夕暮れの河原で出会い口を利くようになった同級生のサチのこと・・・
第四章 春の蝶(「小説すばる」2008年10月号):隣の部屋で暮らしている老人の家で起きた盗難事件。そのことがきっかけで話をするようになった老人が盗まれたのは一千万円を越える貯金で、その時家にいたのは聴覚が不自由になって幼稚園に行けなくなった孫娘・・・
第五章 風媒花(「小説すばる」2009年1月号):父の死をきっかけに急に張り切りだした母親のことが嫌いになった自分と、そのことを知って気遣う姉。そんな姉が入院した。詳細は不明だが食堂にポリープが出来たらしい。入院は長引き、姉はみるみる痩せて・・・
第六章 遠い光(「小説すばる」2009年3月号):初めて担任になったクラスの子の母親が再婚して姓が変わることになったことに気遣う私。でも周囲の子供たちは案外簡単にそれを受け入れ、当の少女も口数は相変わらず少ないものの平然としていたのに・・・
となります。案外、独立性の強い連作なので、第一章と第二章の繋がりがよくわかりません。竹の花、というキーワードだけのような気がします。そういう意味ではこれを第六章にして、「虫送り」から始めたほうが良かったのではないでしょうか。或いは、もう一度手を入れたほうがもっと良くなると思うのですが。私が冒頭で構成は面白けれど疑問を抱いた、というのはこの部分です。勘違いだったら、教えて欲しいな、って思います。
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連作短編集。個々の作品の登場人物が他の作品にサラっと出ているので、1つ読み終わると、また前後に戻って他の作品を読み直したくなる
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前の物語の脇役が次の物語の主役になって・・・というつながりを持った短編集。
生活していく中で、家族や友人だけでは無く、他人が言ったり、やったりしたことでも、自分に思わぬ気づきをもたらしているということ、また、それに気づけるかどうかは、自分次第なんだということを改めて感じた。
それにしても、「球体の蛇」もしかり、この人の描く少年や青年は、ついつい見守りたくなるような、危ういような独特の雰囲気を持っていて引き付けられる。
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登場人物が次々にリンクしていく連作短編集。それぞれの主人公のささやかな生活の中での苦しみや悲しみ、その果ての救い。相変わらず繊細な心の動きの描写が絶妙。最高でした!!。
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印章店を細々と営み、認知症の母と二人、静かな生活を送る中年男性。ようやく介護にも慣れたある日、幼い子供のように無邪気に絵を描いて遊んでいた母が、「決して知るはずのないもの」を描いていることに気付く……。三十年前、父が自殺したあの日、母は何を見たのだろうか?(隠れ鬼)/共働きの両親が帰ってくるまでの間、内緒で河原に出かけ、虫捕りをするのが楽しみの小学生の兄妹は、ある恐怖からホームレス殺害に手を染めてしまう。(虫送り)/20年前、淡い思いを通い合わせた同級生の少女は、悲しい嘘をつき続けていた。彼女を覆う非情な現実、救えなかった無力な自分に絶望し、「世界を閉じ込めて」生きるホームレスの男。(冬の蝶)など、6章からなる群像劇。大切な何かを必死に守るためにつく悲しい嘘、絶望の果てに見える光を優しく描き出す、感動作。
《2010年3月29日 読了》
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6つの短編でありながら、一つの世界を作り出してる。
その世界は帯に…
装丁に表現されている。
どことなく仄暗く湿度を持ちながら、暖かさがある・・・
不思議な読後感だった。
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◎第23回(2010年)山本周五郎賞受賞作品。
◎第143回(平成22年度上半期)直木賞候補作品。
2010年4月15日(木)読了。
2010−34。
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この人は、どこまで進化するのだろう。
この人はどこまで心の闇を気付かせてくれるんだろう。
1年に2話のペースで発表された6つの短篇。
だんだんと道尾さんの腕が上がっているからか、意図的になのか、
どんどん引き込まれて読むスピードがあがる。
道尾さんの作品はなにかひとつ投げかけることがあって好き。
もしかしたら自分もそうなってしまうのではないかと思う
心のひだ、あやうさ、脆さを感じさせる。
本作はそれが、ぎゅっとつまって、
そして多様なかたちでみせられる。
光があるから影がある。
そのものが光でないかぎり、必ず影は生まれる。
自分が想うなら、自分が望むなら
変わることもできる。
変わらずにいることもできる。
そう感じた。
光に満ちた景色も、
暗くて哀しい風景も、
すべてがこの世界だ。
と裏表紙の帯文にある。
どんな状況の中にいても、明日はやってきて、世界は回る。
私たちは生きなければならない。
傷つきながらも、
苦しみながらも、
悲しみながらも、
笑いながらも、
愛されながらも。
たくさんの気付きをありがとう。
この作品に出逢えたことに感謝。
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道尾秀介がすごい。
どんでん返しのトリックが魅力的でおっかけ始めた作家さんだけど、最近はあまりミステリー色は出さない。文芸書としての完成度が高い。
人の心を映し出すのがとても上手。
この本は連作短編集。それぞれの物語のつながりがあって、他の章の登場人物のその後が後からほのめかされる構成も素敵。
最終的にはどの話にも救いが用意してあるのも嬉しい。
本を読みながら自分の内面と向き合えた様な気がする。それも読書の醍醐味だと思う。
とにかく、道尾秀介がすごい。
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十字架を背負って生きている登場人物たちが、少しずつ繋がっていることで、勇気をもらったり安心したり何かに気づいたりできることが素晴らしい。
そんな少しずつの繋がりは光によって媒介されており、タイトルの『光媒の花』というフレーズを頭の中で繰り返すたびに、希望の光のようなあたたかみを感じる。
なんだかとっても素敵な人たちに出会えたような気持ちになった。
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「この全六章を
書けただけでも、
僕は作家になって
よかったと思いました。」
ってことだったので期待大!
連作短編集好きなんですよね〜。
おもしろかったです。
哀しくもあったかい感じが道尾さんっぽくて。
中でも『風媒花』がよかったな。
ただ、個人的には登場人物がもうちょっと
ガッツリと絡み合う連作短編のほうが好みかも。
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短編集でありながら、登場人物がつながっている。
私が大好きな、「あっと驚くラスト」は見られず。
『ラットマン』や『片眼の猿』のような作品をお願いしたい。
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最初は、なんか内容があらぬ方向へ
いきかけましたが、最後にはうまく
まとまってました。後半の話はなか
なか良かったです。
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せつない系です。緊張感あるストーリー展開。通勤電車で読んでて喉が乾きました。6編の連作ですがその連鎖の仕方が気持ちイイ。
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連作短編集。さまざまな事件を交えながら、それぞれに罪を背負った人々を描いた叙情的な物語。しんみりと切ない印象です。それぞれの物語の繋がり方もとても印象的。
お気に入りは「冬の蝶」と「春の蝶」。「冬の蝶」がなんともやりきれない物語だっただけに、「春の蝶」ではほっとさせられました。「春の蝶」の謎のやさしさもよかったです。