紙の本
30年に及ぶ研究歴を振り返り、著者自らがつづった「科学的発見」の苦しみと喜びに満ちたプロセス
2010/12/09 11:22
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:サトケン - この投稿者のレビュー一覧を見る
「冬眠」のメカニズムの解明に30年近く携わってきた研究者による、発見のプロセスと研究の苦労と喜びを時系列で書き記した本。「冬眠」している動物の観察というよりも、「冬眠」という現象のメカニズムに、薬学と遺伝子研究の観点から迫った、30年にわたる地道な研究の記録である。
今年2010年の秋は、クマがなかなか冬眠しないので、日本全国でヒトが襲われる被害が続発している。こんなニュースが毎日のように流れているなか、軽い気持ちでこの本を読み始めた。
ところが、本書は冬眠する動物をまんべんなく解説したものではないことが、読み始めてすぐにわかった。実験動物として選び出したシマリスについての研究である。なぜ「冬眠」するのか? 「冬眠」をもたらずメカニズムは何か? 「冬眠」とはそもそも哺乳類にとっていかなる意味をもつのか? 人間にも備わっている「冬眠能力」とは? などなど、次から次へとでてくる疑問の数々に答える探求の旅の記録なのである。
問題解決のまえに問題発見がある。問題解決がまた次なる問題発見につながっていくという好循環。
専門的なことは門外漢の私には判断する能力はないが、「冬眠」研究における発見プロセスの記述がきわめて面白く感じられた。研究における問題解決のためには、著者が「あとがき」でも記しているように、個人のもつ感性(個性)、突然やってくる出会いの時、答えを導く矛楯が、問題解決のために大切なことなのである。
ほとんど手がつけられていなかったテーマを追い続けた研究は、その切り開いてきた研究領域と成果によって、無限の可能性を開きつつあるといってよい。
「冬眠」研究の最新成果がいかにして導き出されてきたか、これを著者の記述にしたがって読んでいくと、だんだんと謎が解明されていくプロセスを再体験することができるのだ。
結論から先に読むのではなく、著者といっしょに科学的発見の苦しみと喜びに満ちたプロセスを追体験してみたい。自分で問題発見して課題設定を行い、自分で問題解決していく姿勢には、科学者ではなくても、大いに学びたいものである。
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冬眠の謎に迫る大発見を近藤博士自らが語った本。三十年間近くに渡る研究において博士が味わった興奮や悩みがまじまじと伝わってきます。生物学面白い!とあらためて感じさせてくれる本です。
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『冬眠の謎を解く』(近藤宣昭、2010年、岩波新書)
リスやクマなどの動物がする「冬眠」という現象。これまでは謎に包まれていた冬眠という現象が筆者によって明らかにされつつある。本書は、冬眠の謎を解く実験の軌跡を追うとともに、冬眠のメカニズムや人間への応用などに言及している。
明らかになりつつある冬眠という現象。たとえば、冬眠を促す「冬眠物質」の存在。これが体内を冬眠へと向かわせ、他方で冬眠の副次的な効果である長寿をももたらす可能性があるという。また、冬眠は必ずしも体温の低下を伴わず、普段の体温のまま冬眠状態になることも可能だという(生理的冬眠)。
そして、何よりも興味を惹かれるのが、「人口冬眠」といういわれるもの。人間も冬眠することができる能力が備わっているとした上で、人間を生理的冬眠の状態におき、長寿を享受しようという構想である。
高まる人口冬眠への期待。筆者は時間の問題としているが、本当に人間は「冬眠」をする能力を得られるのだろうか。今後の研究に期待したい。
(2010年7月23日 大学院生)
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結論だけを頂戴するのは申し訳ないような、著者の長年にわたる研究です。冬眠についてだけでなく、思考方法も学んだ。
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"矛盾との闘い これこそが研究だ!!"
【選書理由】
冬眠に関する本の中で、安くて新しかったから。
【感想】
「この本は売らないぞ!!」、と思えた1冊。
著者の長年にわたる研究から得た、
『冬眠』の仕組み、そして『人工冬眠』の
可能性などを解説している。
これだけなら、私は知識を得たらすぐに
古本屋に売っていただろう。しかし、この本は違う。
著者の長年にわたる研究の成果だけではなく、
苦悩、矛盾との闘い、思考の記録などが鮮明に
書かれていた。文章やその組み方も読みやすく、
このままテレビ番組化しても不思議ではないと思った。
特にシマリスの冬眠を最初に観察できたときの描写は、
読んでいる私まで静かな興奮を覚えるほどだった。
最近、自分の実験が煮詰まっていたので、
よい刺激を受けた。文句なしの★5。
余談。載っているシマリスの写真が可愛い。
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冬眠とはなんでしょう?体温が下がって眠くなること…ではありません。通常37度くらいある体温が5、6度まで下がり、心臓の鼓動は100分の1にまで減少します。そして時期が来ると元の体温に戻り、何の障害もなく動き回ることができるのです。この本はミクロの分子レベルで冬眠について解説されています。冬眠していた動物たちが目覚める季節が近づいてきました。さて、どんな方法で目覚めてくるのでしょうか!
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2013年10月27日に開催された第10回ビブリオバトルinいこまで発表された本です。
テーマは「図書館員おすすめの本」
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近所の図書館で借りて読んだ。第1~4章ではシマリスなどを用いた冬眠の実験、考察について書かれていて、5章ではヒトと冬眠について書かれている。結論から言うと現段階ではヒトが冬眠をすることは不可能である。なぜなら人間はシマリスなどのように10度以下の体温で1日以上も我慢すること、下げた体温を自力で元に戻すことができないからだ。
にもかかわらず「ヒトはすでに冬眠している」と著者は言う。その理由の1つとして、鬱と冬眠の関わりを指摘していて、人間は長期間ストレスにさらされると、細胞が疲弊し、鬱状態に陥って休息の期間を取ろうとする。私たちは細胞の疲弊度を予測することはできないが、シマリスたちはそれを予測し休息を取る、それが冬眠なのではないかと考えられているからだ。つまりヒトとシマリスの差は、体内の細胞がどれだけ疲れているか知ることができるかどうかなのである。予測できない人間は社会で鬱病というカテゴリーに入れられると、無気力のなか回復を目指し、予測できるシマリスは冬になると活動が減っていき冬眠に至るのだ。