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伊藤博文の国家構想や政治思想を内在的に思想史的方法をもって明らかにして、その「漸進主義」やリアリズムに一貫性を見出そうとしているが、著者の試みは失敗している。「善意の解釈」や史料根拠不明の思い込みや提灯持ち的な賞賛の文言を無視して、引用史料と事実記述だけを読めば、むしろ伊藤の状況主義的で行き当たりばったりな思考が明るみに出る。いずれにせよ、伊藤の主観的な思想や行動が、現実の政治・社会において客観的にどう機能したかがほとんど分析されておらず、歴史研究というより単なる顕彰に堕していると言ってよい。
唯一、優れているのは、帝室制度調査局に関する部分で、ここでは著者本来の専門である法制史の知見が遺憾なく発揮されており、勉強になった。
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初代内閣総理大臣である伊藤博文の,生涯に渡る政治と「思想」を緻密に追った新書.本文全343頁とかなりボリューミーだが,幕末〜明治中期の政治を中心とした時代変遷をたどるには十分な分量である.
内容は,大きく分けて以下のとおり
渡欧・渡米での文明との出会い(~1873, M6),明治憲法制定まで(~1889, M22),立憲後(1899, M32),立憲政友会設立(1900, M33),憲法改革(1899~1907, M40),清末革命(1898, M31),韓国総監(1906~1909, M39~M42)
明治時代の立憲政治の確立に関しては 1~3章に伊藤の考え方や,そのきっかけが描かれている.その思想とは,生涯に渡り「立憲政治」および「漸進主義」に重きをおき,国民の知の向上が文明発展のキーであると考えるような,サブタイトルの通り「知の思想家」であるといえる(*あとがき).
そのような文明への感化や漸進主義の芽生えは,1863年の「長州ファイブ」による英国留学,そして1871年の岩倉使節団による渡米が大きく影響している.
その後,憲法制定に向けた模索中のウィーンでのシュタインとの邂逅が,「制度の政治家」としての伊藤を決定付けている.そこでは単なる議会制度を通した民主政治のみならず,それを反映し,実際に国家へと還元するような行政の存在が,"政治"の基盤となる,と述べている.
また,そのような行政を行うに足る人材として,"政談"で事をなすような知識人ではなく,科学技術に居した"実学"を重視するという点も,伊藤の文明観の要点の一つと言える.
以下,漸進主義を踏まえた,君主制・民本制を両立できるような立憲制度の考え方や,政党の在り方(単なる徒党ではなく官民融和し最終的に国家に還元できるような存在),韓国総監時の「文明の伝道師」としての側面等が述べられている.
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伊藤博文による政治とその再評価をするための本。
これまでの歴史的な評価だと伊藤ってわりと一貫性のない、フレキシブルな(っていうと聞こえがいいけど、まあ尻の座らない)政治家というイメージで語られがちですよね。
でも作者によると実はさにあらず。
伊藤の頭の中には、世人の計り知れない深慮遠謀があった!
つまり、(現時点では政党政治とか無理だけど、いずれは実践していくべきだよね)とか(軍部の権限をできるだけ制御して、内閣中心の政治をおこなっていくつもりだけど、軍部と話し合いしてある程度お互いに妥協するのも大事だよね)とか・・
漸進的で平和主義的な伊藤らしい政治のかじ取りの仕方だと思います。
そういう伊藤の政治的スタンスや思惑を、筆者は、莫大な史料から読み解いている。
時代時代にあわせた政治の在り方をプレゼンしていってるイメージですね☆彡
気まぐれや適当な判断で動いてるわけではないんだね☆
幕末の多幸症やんちゃ坊主がここまで成長するなんて・・木戸さん天国から見て泣いてるぞ俊輔☆☆彡
それにしても腹心の伊東巳代治や、原敬からも(日記の中で)糞みそに言われたりして・・・かわいそうな伊藤博文wwでも、そこがかわいいんだけどね!
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明治元老の中で、多大な功績をあげたにも関わらず、比較的低い評価をされているように見える伊藤博文の実像を探る書。 朝鮮総督を務め、暗殺の憂き目にあったためか、正当な評価をされていない、色眼鏡をかけた研究が多い、筆者は感じており、おもに本人の言行を含む当時の一次資料を元に、伊藤の実像を分析している。松下村塾での、吉田松陰の伊藤に対する評価は必ずしも高くはなかったが、高杉新作の功山寺挙兵、英国への密航留学、語学を生かした明治新政府での対外折衝、憲法制定の主導、議会制民主主義への移行の企図等、当時の日本の近代化に多大な影響を与えたのは間違いがない。初期には早急であった改革への行動も、時流を見極めての漸進主義へと変わり、着実に近代化を成し遂げていったが、本書はその際の伊藤の言行をできる限りつぶさに広い、その意味するところを解釈し、記している。近代日本の幕開けに果たした伊藤の役割を知る上で、ぜひとも一読いただきたい書
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2010年刊。
著者は国際日本文化研究センター准教授兼総合研究大学院大学准教授。
周旋家、プラグマティスト、藩閥政治家、初代首相、韓国統監など多様に評される伊藤博文。彼の隠れた側面を、書簡・演説原稿等から紐解いていく。
著者は「知」と捉えるが、個人的には理想主義の面に強い印象を持った。漸進主義がプラグマティストの面を際立たせるが、一方で理想主義を有していたからこそ、山県有朋のようなほの暗い面を小さくした評価になったとも解釈できよう。
たらればでいうことはできないが、もし暗殺されなければ、戦前においも、韓国人自身による自治的統治が進んだ可能性もなしとしない。陸軍の統治下ではどうしようもなかったということはできそうだ。
ただ、韓国統治に関して、民選の衆議院の設立と、韓国人を大臣に据えることまで伊藤が念頭に置いていた点は想定外の事実。
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130817 中央図書館
伊藤博文の、政治家あるいは思想家としての本質を浮かび上がらせようと丁寧かつ読みやすく書かれた評伝(本当は研究書なのかもしれないが)。俗説では醜聞の多く「痴」ととられがちな伊藤だが、実際には「知」が社会でもっとも重要なものと考える人物であったと、瀧井は言う。
とかく伊藤は、明治政府にとって極度に重要な人物であったことを誰もが認めつつ、明確な輪郭を持たない政治家と見られた。法哲学者の長尾龍一も、日本近代史の坂野も、司馬遼太郎も、伊藤が歴史の評価に耐えるような傑出した政治家や思想家とは見ていない。もっぱら周旋の才で重きをなしたのであって、見識や思想の骨太さという点では評価できないと。
ただ、いろいろな意見や思想を力強く唱える人ばかりでは、船は動かないことも我々はよく知っている。物事を締める最後の役どころは、人格的魅力を備えつつも自分自身はおおきな虚のような人物、あるいは個性と個別能力の豊かな他のキャラクタを全て活かし、自身は彼らをつなぎとめる巨大な糊しろと成り得る人物、それでいて大きな方向性については、過たない。そういう人物を芯に持たないと、組織・社会の軌道は極めて不安定となる。伊藤は、明治の時代にあって、まさにそういう役割を果たしたのではないか。
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憲法、帝国大学、帝国議会、立憲政友会、責任内閣、帝室制度調査局、韓国統監府といった諸制度を「国民政治」を実現するために構想。日本に文明国家としての制度的枠組みを与えた伊藤博文を開化主義でありながら漸進主義の思想の持ち主として描いている。
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「伊藤博文 知の政治家」瀧井一博著、中公新書、2010.04.25
376p ¥987 C1221 (2021.08.15読了)(2018.11.24購入)(2010.12.10/4刷)
【目次】
はしがき
第一章 文明との出会い
第二章 立憲国家構想―明治憲法制定という前史
第三章 一八九九年の憲法行脚
第四章 知の結社としての立憲政友会
第五章 明治国制の確立―一九〇七年の憲法改革
第六章 清末改革と伊藤博文
第七章 韓国統監の〝ヤヌス〟の顔
あとがき
註記 文献略記 参考文献
伊藤博文年譜
☆関連図書(既読)
「木戸孝允―維新前夜の群像4」大江志乃夫著、中公新書、1968.09.25
「大久保利通―維新前夜の群像5」毛利敏彦著、中公新書、1969.05.25
「西郷隆盛(上) ―維新前夜の群像6」井上清著、中公新書、1970.07.25
「西郷隆盛(下) ―維新前夜の群像6」井上清著、中公新書、1970.08.25
「岩倉具視 維新前夜の群像7」大久保利謙著、中公新書、1973.09.25
「青天を衝け(一)」大森美香作・豊田美加著、NHK出版、2021.01.30
「青天を衝け(二)」大森美香作・豊田美加著、NHK出版、2021.04.30
「雄気堂々(上)」城山三郎著、新潮文庫、1976.05.30
「雄気堂々(下)」城山三郎著、新潮文庫、1976.05.30
「論語とソロバン」童門冬二著、祥伝社、2000.02.20
「渋沢栄一『論語と算盤』」守屋淳著、NHK出版、2021.04.01
「論語と算盤」渋沢栄一著、角川ソフィア文庫、2008.10.25
「明治天皇の生涯(上)」童門冬二著、三笠書房、1991.11.30
「明治天皇の生涯(下)」童門冬二著、三笠書房、1991.11.30
「正妻 慶喜と美賀子(上)」林真理子著、講談社、2013.08.02
「正妻 慶喜と美賀子(下)」林真理子著、講談社、2013.08.02
「維新前夜」鈴木明著、小学館ライブラリー、1992.02.20
(「BOOK」データベースより)amazon
幕末維新期、若くして英国に留学、西洋文明の洗礼を受けた伊藤博文。明治維新後は、憲法を制定し、議会を開設、初代総理大臣として近代日本の骨格を創り上げた。だがその評価は、哲学なき政略家、思想なき現実主義者、また韓国併合の推進者とされ、極めて低い。しかし事実は違う。本書は、「文明」「立憲国家」「国民政治」の三つの視角から、丹念に生涯を辿り、伊藤の隠された思想・国家構想を明らかにする。
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国造りの難しさを感じた。伊藤はやはり胆力のある政治家だったのだなと思う。彼は主知主義の理想家だったが、漸進主義で譲歩もたくさんしている。それが、彼の一貫性のなさにも見えるが、基本路線として、文明化し国を豊かにし、国民に安全な生活を提供したいという考えがあったように思う。知識の吸収にも貪欲だったシュタインとの出会いは大きかったものと思われる。
福沢諭吉や大隈重信のような自由主義、政党政治のような理想は、現代からみればそちらの方が主流だけれども、江戸幕府が終わってすぐの混とんとした状況の中で、ある程度の強い権力を保持し、国民統合の象徴としての天皇をおき、徐々に政党政治を取り込もうとしていったのは、現実路線だったのだと思う。