紙の本
正攻法の人物評。
2010/06/15 07:53
5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:浦辺 登 - この投稿者のレビュー一覧を見る
初代内閣総理大臣、初代韓国統監、安重根による暗殺と、伊藤博文は近代史の中で特筆されるべき人物と思うが、さりとて評価については高くない。その伊藤博文の政治家としての生涯を追いながら、本書は伊藤博文の功績を改めて確認しようという内容になっている。資料調査と読み込みに相当な年月をかけた内容となっているが、それだけに新書という形でありながら読みこなすのは大変だった。
伊藤博文は政治家というより、日本という新国家を形成するプロジェクトリーダーだったのではと考える。薩長政府と揶揄される長州閥の一人として時流に乗り、目標を掲げ、多数のブレーンを縦横無尽に使いこなしていった人物だったと思う。かつての政敵であっても、プロジェクト遂行のためには何事もなかったように自身の陣営に引き込むことができるのは、まさに、プロジェクトリーダーである。
この一冊だけを正面から読み解いていけば、再評価としての伊藤博文に適している。しかしながら、大日本帝国憲法の草案にしても、すでに日本全国の自由民権団体から憲法草案が元老院に提出されており、根本的な流れをイギリスにするかドイツにするか、日本の風土に適した内容にすれば済むことになる。憲法行脚で日本全国を遊説しているが、自由民権運動に対抗する措置とすれば、さほど、国権対民権となり、意味をなさないのではと思った。
また、日本の石炭と清国の鉄とを相互に輸出するという考えや、八幡製鉄所建設も、伊藤博文の政策ブレーンであった杉山茂丸が金子堅太郎を通じて献策したものであり、果たして伊藤博文個人の実績にカウントしてよいものか疑問が起きる。その杉山茂丸はかつて伊藤博文の命を狙うテロリストであったが、局面において伊藤博文に自決を迫り、ハルビンでの遭難事件では黒幕の一人とも称されていた。
そういう、伊藤博文の裏面や側面に絡んだ人々の動きを知って本書を読むと、あまりに優等生の論文として仕上がっているので、面白みに欠けるものだった。政権を維持するために駆け引きをしたり、身を引いてみたり、足を引っ張ったりというのが政治家だが、あまりにクリーンな事績に伊藤博文の人間像が見えなくなってしまっている。大隈重信との軋轢を織り交ぜながら論述する方が、あの明治時代の政治家としての姿が見えたのではないかと思った。
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読めるところだけ読みました^^;
世間的にはともかく、アカデミズムでも低評価なのか・・・。
確かに伊藤はもっと評価されていい人物だと思う。
司馬遼太郎の「世に棲む日々」を読んでいる限り、俊輔(伊藤博文)の評価は司馬遼好みのタイプではないにせよ、けして低くないと思うんだけどなあ~。
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やっとこさ読み終える。
最後まで疑問符だらけの本だった。
テーマは絞られていたが、背景説明が不足でかなり読み辛い。また、日清戦争がスッポリ抜け落ち、またビヘイビアの変遷が説明されていないのはよろしいのかと。
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読了。
伊藤博文というと、よく言えば柔軟性があるのだが、理想がない節操な政治家みたいなイメージがある。
それを180度変えてくれる内容がこの本。
彼の立憲主義にかける情熱は同時代のどの政治家よりも熱かったことがわかる。
特に帝室制度調査局総裁として、天皇及び皇室の国家への機関化をはかり、内閣官制によって強固な立憲政治の基礎を作ったことはもっと評価されてしかるべきだろう。
特に本書の白眉は軍部の帷幄上奏権に対し、内閣官制において軍機軍令に関する件を内閣総理大臣の副署を必要させた件であろう。
山縣を始めとする軍部の猛反対によって、それは譲歩を余儀なくされたが、ここに伊藤の持つ国家と立憲体制に対する冷静な見方とそれに対する危険を取り除こうという強烈な意思を感じ取ることができる。
日本の立憲政治の確立を概観するのにもいい内容であるし、その後の軍部の暴走、政治介入の歴史を投射することもできる好著である。
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2010年度・サントリー学芸賞受賞。伊藤の考えていた政友会のかたちについて頁を割かれることが多かったので興味を引きました。政友会の時代への対応が気になっていたので、創立時には何を期待されていた党だったのか知る一つの手がかりになりました。
やや伊藤ヒイキ気味に感じる部分もありますが(※伊藤の甘さもちゃんと指摘されてはいます)これも一つの解釈として参考にしたいと思います。
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・伊藤博文が単に何を為したか、という事実の羅列だけでなく、彼の行動における政治思想を記されていることから、読んでいても頭の整理がつく。
・明治時代に、新たに政治の枠組み、制度を創る立場にある政治家として、当然のことながら自らの軸をはっきりと有していた。
・理想を追うだけでなく、現実、詰まり、実効性を念頭に置いてきたところが伊藤博文を大政治家とする所以だろう。
・先ずは行政力を高め、その為に教育を重視し、帝国大学を創設した点は、伊藤が近代日本の礎を築いたといっても過言ではない。名実共に大久保利道を志を継いだのだろう。
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これまでの研究史を十分踏まえた上で、著者は、これまでとはまったく逆の伊藤博文評価を試みている。やや伊藤を持ち上げすぎのようにも感じたが、一次資料に依拠した非常にすぐれた分析であり、説得力があった。
副題にもある通り、伊藤を「知の政治家」としてとらえる視点は、韓国統監としての植民地統治の場面にも一貫している。ややもすると伊藤のような政治家は、その行動面だけで変節だとか妥協だとかいう説明がされやすいのだが、あくまで思想・理念をもった人物として描ききっているところが挑戦的でもあり、久々に知的興奮をともなう読書であった。
途中、やはり知の巨人である福澤の顔が何度もちらついたが、最後に著者は、「(伊藤が掲げる知とは「実学」であった)この点において、伊藤は福沢と通じるものがあると言えよう。とはいえ、両者は実学的知のあり方をめぐって分岐する。福沢が官と民の峻別に固執し、官を排した民間の自由な経済活動を自らの足場としたのに対し、伊藤は知を媒介として官民がつながり、ひとつの公共圏(*それがフォーラムとしての政党=政友会につながる)が形成されることを追い求めていた」とまとめることによって、見事に私の疑問に答えてくれた。
政友会のあり方についての伊藤の考え方・立場も今までこれほど明快な解釈を読んだことがなかったので、目から鱗が落ちる思いであった。
蛇足ながら、第4章はどこぞの政党の党首にも熟読していただきたい。
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伊藤博文の再評価。書簡などの史料をもとに、これまで「哲学なき政略家」、「思想なき現実主義者」と思われてきた伊藤が実際にはどのような思想を持っていたのか明らかにしていく。「知の政治家」というサブタイトルには最初は違和感を持つが、読み終わると意味が分かる。新書というよりは論文に近く、手軽には読めない。私生活のことなどにはほとんど触れておらず、政治家・思想家としての伊藤のみにスポットを当てている。
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[ 内容 ]
幕末維新期、若くして英国に留学、西洋文明の洗礼を受けた伊藤博文。
明治維新後は、憲法を制定し、議会を開設、初代総理大臣として近代日本の骨格を創り上げた。
だがその評価は、哲学なき政略家、思想なき現実主義者、また韓国併合の推進者とされ、極めて低い。
しかし事実は違う。
本書は、「文明」「立憲国家」「国民政治」の三つの視角から、丹念に生涯を辿り、伊藤の隠された思想・国家構想を明らかにする。
[ 目次 ]
第1章 文明との出会い
第2章 立憲国家構想―明治憲法制定という前史
第3章 一八九九年の憲法行脚
第4章 知の結社としての立憲政友会
第5章 明治国制の確立―一九〇七年の憲法改革
第6章 清末改革と伊藤博文
第7章 韓国統監の“ヤヌス”の顔
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
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☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
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☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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これまで,伊藤博文といえば良いイメージの評価が少ない政治家であった。著者曰く「戦前の日本の韓国支配をシンボライズする人物」としても捉えられてきた。
だが,著者は伊藤の演説等の詳細な分析を通じて,その思想を浮かび上がらせ,伊藤が知を媒介とした漸進的な秩序形成を試みていたとし,再評価をしている。
特に,伊藤が韓国統治を本国の憲法改革と連動して捉えていたとの指摘は興味深かった。
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本書では「伊藤博文」を「知の政治家」と高く評価している。
明治の著名な政治家である「伊藤博文」については様々な評価があるが、本書はその中でもプラスに評価している最右翼の本であると思った。
とにかく「伊藤博文」の政治活動を現在から見てもわかりやすく考察している。
そもそも明治期の「政治情勢」はわかりにくい。「憲法」や「政党」が政治の中心にある現在から、それが存在しない当時の政治風景をみても理解しにくいのだ。
「大隈重信」が失脚した「明治14年の政変」にしても、どのような政治主張の違いがあったのか。
国会開設が2年後と9年後との主張の違いがなぜ国を揺るがすような争いになったのだろうかと思っていたが、本書を読んで「国家」が「憲法」を持つ意味が少しはわかるようになったような気がした。
「伊藤博文」は「憲法」をドイツで学んだあとに日本に導入し、「議会政治」が機能するように全力を傾注したことが本書でわかるが、現在の私たちはその後継者として成果を上げているのだろうか。
現在、「憲法」については「改正」をめぐり議論百出し膠着状態のようにも思えるし、「政党政治」は、「財政」にしろ「年金」にしろ必要な改革は延々と先送りとなっていて、どううみても「伊藤博文」が意図した「文明」や「国力の増進」が実現されているとは思えない。
本書を読んで「憲法」や「議会政治」「政党政治」を使いこなすことはたやすいことではないと思えた。
その視点から本書の「清末改革」「韓国統監」を読むといろいろと考えさせられる。
本書で読む「伊藤博文」は「理念を維持しつつも柔軟な対応に終始しつつ」結果的には失敗した政治家なのではないか。
新書にしては厚い本であるし、硬い内容だが、飽きずに最後まで興味深く読めた。
本書は、歴史を現在から見ても理解できるように深く考察した良書であると高く評価したい。
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筆者が15年の歳月をかけた研究の集大成的な新書。伊藤博文ビギナーの自分にとってはいきなりのフルコース。伊藤博文は、ひろーい幅の(何色も色をもちうる)思想をもって、うまくその時代時代の政治家や知識人と手を結び、明治憲法制定、政友会、韓国統監と渡り歩いたのだというイメージを得た。幅がとても広いだけに節操がない、政治家としての理想がないとの評価をまま受けるそうだけれども、この本は、伊藤博文には理想がないわけでなく、その理想がひじょーに柔軟であるがゆえだということを明らかにしたものと理解した。そして、一般に言われているらしい図に乗りやすいというかお調子者みたいな人物像の一方で、この本がテーマにしているように、人一倍、いろんなことを学ぼうという努力をしている知・実学の政治家だったようだ。なんだかんだ言ってもこれだけ後世に著名な政治家、ある意味ではやっぱり成功ということになるのだとは思う。
とくに合点がいったのは立憲政友会設立の話。それから東大の前身は、官僚育成を念頭に置いて設立されたのだということは在学中から聞いたことはあったが、数々の文献に裏打ちされて実際にそうであることが分かった。そしてここにも伊藤博文が表で噛んでいたようだった。
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伊藤博文を国家制度構築の高いビジョンを持った
思想家として見た評伝。
そのビジョンは極めて理想的であるが、
残念ながらそれは日韓両国で失敗し、
かつ現時点においても成功しているとは言い難い。
本自体は分かりやすく書かれており
伊藤の行動を説明づけるものとしては納得がいくもので、興味深い。
一点あえて疑問に感じた点をあげるとすれば、
伊藤博文ほどの人間がナショナリズムに理解が薄かったとは
考えにくいのではないかとも思う。
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ブックファースト渋谷文化村通り店で
購入しました。
(2014年4月26日)
ちょっとだけ読もうと思ったら、
読み始めてしまいました。
いやあ、大分読んだな、と思って
ページ数を見たら、まだ14ページ目です。
だけど。
この本は、濃い。
素晴らしい。
(2014年4月26日)
「思想家」としての伊藤博文を堪能しました。
(2014年5月24日)
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伊藤博文の国家構想や政治思想を内在的に思想史的方法をもって明らかにして、その「漸進主義」やリアリズムに一貫性を見出そうとしているが、著者の試みは失敗している。「善意の解釈」や史料根拠不明の思い込みや提灯持ち的な賞賛の文言を無視して、引用史料と事実記述だけを読めば、むしろ伊藤の状況主義的で行き当たりばったりな思考が明るみに出る。いずれにせよ、伊藤の主観的な思想や行動が、現実の政治・社会において客観的にどう機能したかがほとんど分析されておらず、歴史研究というより単なる顕彰に堕していると言ってよい。
唯一、優れているのは、帝室制度調査局に関する部分で、ここでは著者本来の専門である法制史の知見が遺憾なく発揮されており、勉強になった。