紙の本
物語としての面白さと、戦争の罪悪さと一般人を巻き込む悲惨さを伝える。こんな困難なことをこの1冊は見事に成し遂げている。
2011/01/19 15:13
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:書子司 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ナチス占領下のパリで、ホロコーストの一環として、フランスで行われたユダヤ人の検挙と、その事件を取材するうちに夫の家族との関わりに気づいてしまったアメリカ人女性ジャーナリストジュリア。ナチスに連れ去られた少女サラを描く60年前のストーリーと、現代のパリでその事件を取材する女性ジャーナリストの取材活動が交互に描かれ、それが、彼女の夫の家族が暮らしてきた「家」で交錯する。
女性記者の一人称で描かれているので、もっと感傷的なものかと考えながら読み始めたが、意外と骨太で物語としての構成がしっかりとしていて、重いテーマを扱いながら、ストーリーづくりの巧みさにページを次々と繰ってしまった。
60年前、サラは収容された施設から逃げ出したあとどうなったのか?その弟は?ジュリアの取材はそのまま、読者の知りたいことと重なり、現代と過去が交互に語られることで、より興味を深め、飽きさせない。
アウシュビッツの悲惨さやナチスの非道よりは、ナチス占領下でのフランス政府のナチスへの協力・ユダヤ人収容に力点が置かれているようで、ナチスの問題は単にナチスだけに帰されるのではなく、協力した当時の政府などにも責任がある、という強いメッセージを感じた。
表紙の見返しに、「国家の恥、家族の秘密、自分と夫の心の傷に同時に触れてしまったひとりの女性が、真実を、そして自分自身の新たな生きかたを見つけようともがく闘いの記録。」とある。そういう見方もあるのだろうが、この作品はそのタイトル通り「サラ」が中心にあり、戦後も決して癒されることのなかったサラを描くことで、戦争の愚かさを伝える、深い余韻を残す1冊であった。
投稿元:
レビューを見る
「知らなければ知らないですむ」とはいってはいけないような、忘れてはいけない歴史の事実を知ったような気がしました。読んで、知ることが出来れよかった、そんな思いです。
投稿元:
レビューを見る
サラが終生持ち続けた“鍵”の重さを思う。
あの時、鍵をかけなければ・・・・
何度もそんな思いで鍵を見つめたかもしれない。
彼女自身にはまったく咎が無いのにもかかわらず、それは彼女の罪の証のようにして、彼女自身を責めているかのように思えたかもしれない。
人と分かち合うにはあまりにも重すぎ、しかしまた、一人で担うにはあまりに重すぎるもの・・・・
あまりに理不尽で残虐な体験であるが故に、口にすることすらできず、沈黙の内に何とか人生との折り合いをつけようとする。
そうした沈黙のまえで、私たちには何ができるのだろうか。
第二次世界大戦下のフランスで、フランス政府の名の下に行われたユダヤ人の一斉検挙を描いた本書では、検挙後の人々がどのような扱いを受けたのか、10歳のサラの目を通して語られるだけに、いっそう胸に迫るものがある。
そして、現代のジャーナリスト、ジュリアをサラに絡めて描くことで作者が意図したかったこともよくわかる。
それなのに、読後に何かモヤモヤしてしまった。
サラの沈黙へのシンパシーがあまり感じられないように思えたから。
その希薄さが、ウィリアムとの初会見がどのような展開になるか予想もつかないのに、子どもを同席させる、ウィリアムのそれまでの生活に探りを入れることもせず、いきなり自分が知り得たことをぶちまける、というジュリアの無思慮な行為に表われているように思えるから。
そして何より、人一人の人生を根本から変えてしまうかもしれないような真実を告げること、その重みについての深い掘り下げが(気にかけるジュリアの姿は描かれてはいるけれど)、ジュリアの流産騒ぎや離婚騒動、新生活の慌ただしさの描写に取り紛れてしまったように思えたから。
Sarah's Key by Tatiana de Rosnay
投稿元:
レビューを見る
「ザホール。アル・ティシカハ 覚えていて。決して忘れないで」
打ちのめされた。
あまりの凄さに・・・。
フランス、ヴェルディヴでの一斉検挙をテーマに女性がどう生きるかを投げかけてくれる物語。
とにかく、始終苦しかった。
こんな本だって分かってたらきっと手にとらなかったんだ。
それでも、手にとって、読みはじめてしまった。
どんなに、明るい空の下でも、ワイワイと人通りのある道の中でも、そこは一瞬にして1942年のパリに飛ばされる。
現在と過去とを行ったり来たりしている、この物語の手法があるからこそ、こんなに身近に感じてしまうのか?
それはわからない。
なんて自分は何にも知らないんだろうって。
ぼんやり行きてる場合じゃないんだよって。
そんなことを教えてくれた本で。
言葉にできない感情をぐぐぐと、持ち上げてくれた1冊。
決して忘れない。
【8/21読了・初読・大学図書館】
投稿元:
レビューを見る
横目で見ていたはずなのについに借りて読むことになった、ナチスのフランスでのユダヤ人弾圧の話。
いやおうなくある種の先入観(救いがたい!)を持って読み始めると・・・いや、でもこの本はちょっと違っているかも。
過去と現在の同じ空間を軸として、そこを行き来する話という構成は書き出しやタイトルから、「先が読めたかな?」と思いきや、読み進めるにつれ感じるのは、今まで読んだナチス関連の本とは何か違うのではという、直感。
主人公の女性ジャーナリストの、あくまでも個人的な日常生活を細かく描写しながら、彼女がジャーナリストとして、また一人の人間として徐々に変化していく様が、その心情が、繊細に伝わってくるのは女性の書き手ならではだ。
ラストの場面は残り続けることになるだろう。
映画化される予定と知ってうなづけた。
投稿元:
レビューを見る
ナチスドイツによるユダヤ人虐殺をテーマにした作品は数あるが、本書は現代に生きる女性の生活と密接に関わってきて、ひきこまれた。
それだけでなく、ジュリアの人間関係や、夫婦関係、子どもへの視線など、テーマから直接は関係ないところでも、描写が面白かった。
投稿元:
レビューを見る
非常に素晴らしい作品と出会えた。
1942 年 7 月 16 日早朝、
ナチス占領下のパリでユダヤ人の一斉検挙。
実際に検挙を行ったのはフランス政府、フランス警察。
フランスの暗黒史を知る。
この歴史に基づくフィクションであるのだが、
何とも素晴らしい出来に仕上がっている。
前半は、当時と現在 2 つの物語が交互に語られ、
後半は現在の物語が進んで行く。
ラストのダイアローグ部分は感動的だ。
投稿元:
レビューを見る
ホロコーストはもちろん、フランスがドイツ占領下にあったことも知っていたが、占領下とはいえフランス当局によるユダヤ人検挙は知らなかった。しかもドイツの意向にもないフランスで生まれ育った子どもたちまでも。
知ることができて良かった。
サラの行く末に「運命」のどうしようもなさを感じた。
投稿元:
レビューを見る
2つのストーリが順に語られるが、サラのストーリーに強く引きこまれた。はるか昔アウシュビッツ展を見たときのショックー被害者になることよりも、加害者になることの人間としての恐ろしさーを思い出した。
投稿元:
レビューを見る
こんなに面白くて史実にのっとった物語は初めて。悲しい歴史について考えさせられると同時に心地よい感動に包まれる秀逸な作品
投稿元:
レビューを見る
『サラの鍵』読了。これまで読んだホロコースト関連の書籍のなかで最も強く引き込まれた作品。とてもよく作り込まれているし、あのような残虐な行為が何世代にもわたって残す禍根をうまく描き出している。一読の価値あり。
投稿元:
レビューを見る
表紙が好きな画家の絵だったので、思わず手に。
内容はフランスのホロコーストの話でした。
こういう出来事があったっていうこと、繰り返さないよう、忘れちゃいけないよなぁ。
なんでこんなに迫害されなきゃいけなかったんだろう?
投稿元:
レビューを見る
ナチスのフランスの話。
最初読みにくかったけど、これは読めると思って頑張って読んだ。
ナチスを知るにはよい本だと思った。
投稿元:
レビューを見る
今年の東京国際映画祭のポスターで、まず映画版を知り、そして原作の小説がある事を知った。
それまで、フランス警察によって行われたユダヤ人一斉検挙の事は知らなかったけれど、あったと聞いても驚きはしなかった。そしてその事を、殆どのフランス人が知らない事も。
テーマがそれだから、勿論重い内容。サラの絶望や苦しみは、私などには計り知れない。想像する事は出来ても、理解出来るなどとはとても言えない。
だからだと思うが、現代の語り部であるジュリアの、サラに対する入れ込み方に反発を覚える。実生活で彼女自身が苦しんでいる時に、たまたまサラに“出会った”からといって、あんなに簡単に、我が事のように苦しんでいいものなのだろうか。余りにもサラの悲劇と比べて、ジュリアのそれは軽くないだろうか。何が人を苦しめるかはその人それぞれではあるけれど、ジュリアはサラの苦しみを、そのまま自分自身の苦しみに摩り替えているように思えて仕方なかった。
ジュリアがサラの過去について調べた事は間違っているとは思わないけれど、そしてサラの事を決して忘れないという考えには賛成するけれど、それならば何故彼女はあのアパルトマンから、そしてフランスから逃げ出したのか。
過去について知ったウィリアムのその後については、全く想像の通りだった。残念な事に。
ユダヤ人やホロコーストの問題は、所詮日本人の私には分からない事だと言われてしまえばそれまでだけれど、自分が直接受けた傷でもない事で、さも自分は悲劇の星の元に生まれたような顔をする人は、正直好きではない。
ジュリアがアメリカ人である事に、作者は何か深い意味を込めたのではないかと思ってしまうが、それは考え過ぎだろうか。
投稿元:
レビューを見る
ナチス時代のフランスの話。
主人公サラの幼少期と、もう一人の主人公ジュリアの話が交互に入っている。ちょっと読み難い。
途中から、ジュリアのサラ探しとして統一される。
それまでの経緯がゴチャゴチャしている。
もうちょっとスマートに分けてほしかったかなぁ。
最終に向かってどんどん人生の岐路が多くなって、巻き込む人も多くなって。
私としては納得出来ない事も多いんですが・・・
歳を重ねてからの子供の重さを迎え入れないジュリアの旦那の行動に腹立たしさを覚えた。
ノンフィクションとフィクションとが混ざり合っているので、凹み気味の時にはお勧めできません。