紙の本
人の想いのおそろしさ。
2011/02/12 03:23
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オレンジマリー - この投稿者のレビュー一覧を見る
旅籠のお嬢さんであるおちかは暗くて辛い拭いたくても拭えない過去があり、江戸にある親戚のお店に預けられることになった。カバーのちょっとホラーチックに描かれた彼岸花にはどんな意味が潜んでいるんだろうと思いながらページを捲っていきました。『おそろし』というタイトルから、恐ろしいストーリーなんだろう、でもあの宮部みゆきさんだから恐ろしいだけに終わるはずは無いという確固たる信頼がありました。そしてその期待は、決して裏切られない。
ふとしたきっかけで、おちかは変わり百物語の聞き手となる。彼岸花の意味は、思っていたよりも結構深い。人殺しが共通しているように思えますが、その手口が残忍で非道、読書中に何度か眉間に皺が寄りました。宮部さんの巧みな描写なので、ありありと脳裏にそれが浮かんでしまうのが辛いところ。自分がその場面を見てしまっているような感覚に陥ります。
道外れた恋に落ちてしまった二人の話が一番印象的だった。耽美派の谷崎潤一郎さんの女性の美の描写は感嘆するほどですが、それに通じるものがあると思う。女性の美肌、色白さの描写へのこだわり。黒絹の布団の例えにはっとしました。なるほど、とただただ感心します。人の念の怖さもひしひしと伝わってきます。
あとはやはり、主人公であるおちか自身の過去の話は強烈でした。始めから何か凄い過去があるということは書かれていても、もったいぶられているかのようになかなかその尻尾がつかめない。おちかが出家を考えたほどの事なのだから、相当なことなのだろうとそれが明かされるのを待った。すると、それに関わっている人たちの保身、蔑み、恋慕の情、裏切り、期待に葛藤…さまざまな人間の心が入り組んでいる。とある子を保護して本当の親の代わりに育てあげたは良いけれども、いつしかそれは恩を売っているような雰囲気になってしまい、歯車は少しずつ、だけど確実にずれていってしまった。些細なことが、いつしか膨らみに膨らんで悲劇を起こしてしまう。そこに見え隠れする想いや哀しみが痛いほど巧妙に表現されています。
宮部みゆきさんの幻想時代小説の幕開け、しっかりと楽しませていただきました。人の想いとは、時にはおそろしいものなのだと痛感しました。シリーズ二冊目の『あんじゅう』も手元にあるので、読むのが楽しみです。
紙の本
宮部みゆきの世界に浸れる幸せ
2010/11/30 23:34
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:JOEL - この投稿者のレビュー一覧を見る
今や推しも推されぬ売れっ子作家・宮部みゆきの時代小説。ここにも宮部らしさが随所に見出される。とにかく文章が柔らかい。
寒い冬の日に、たっぷりの温かなお湯につかるような安らぎ。あるいは酷暑の日に、ごくりと喉を鳴らしながら飲む麦茶の爽やかさ。宮部みゆきは、そうした体験を味わわせてくれる。
時代小説なのだから、もちろん古めかしい言い回しもちりばめられている。宮部みゆきはこうして、現代ミステリー小説であろうと時代小説であろうと、ものにしていく勢いがあるのだ。
ただし、書名ほどにはおそろしい話が盛り込まれているとは感じなかった。昔語りの怖い話は、実話であってこそ怖いのかもしれない。いかに宮部といえども、創作だと思うと怖さが半減するのだろうか。それでも、この先の展開はどうなるのかと、読者に期待させるだけの物語のうまさがある。
そうして、いくつかの怖い話が最後に至ってひとつに融合し、あざやかに精算されてしまうところは、ミステリー作家としての宮部の力量のなせるわざだろう。
それにしても、時代小説というジャンルでも、作品を高い水準で仕上げてしまう、この巧みさはなんなのだろう。読んでいて舌を巻いてしまった。登場人物の造形がことのほかうまい。この作品は、すぐにでも脚本化され、映画化されてもおかしくはない。
宮部みゆきという作家と同時代を生きる幸せを感じずにはいられない。ただ、時代小説に関しては、さらに上手くなる余地を残しているとも感じさせられた。この人ならもっとすぐれた時代小説が書けるはずだと。ますます宮部のファンになった。
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わからないものは怖い。それがひしひしと伝わってきました。
怖くてたまらないものを怖いからこそわかろうと、怖いものではなくそうと。だから宮部さんは書くのでしょうか。だからわたしは読むのでしょうか。
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わからないものと対する面白さと怖さにぐいぐい惹きつけられて夢中で読んでしまった。
なんだか爽快に、気持ち良く終わるのかと思いきや・・・ダメ押しでぞぞぞとさせられました。
夏向きのお話かと。ちょうどいいタイミングで読めました。
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袋物を扱う三島屋の叔父夫婦に預けられたおちかは、実はある事情により心を閉ざしていた。裏庭に咲く曼珠沙華に導かれたよう、訪れた客から不思議な語りが始まる……。
続けて三島屋をおとなう客から語られる変わり百物語とおちかの事情が重なり、やがてとある武家屋敷の怪奇を正していく。
うん、終わり方がとてもわかりやすくて希望が持てる!個人的には“曼珠沙華”ってトコもポイント高し☆
途中を読んでいる間は終わりが読めなくて(そもそも肝心の事情が少しずつ明かされていくもんだから)どうなるのかわからなかったけど、良かったなぁ。
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腑に落ちるところが怪談の肝心なところで、語り切ってしまうとなんともつまらないことになる。しかし語り足りていないとそれはもう伝わらない。
そんな危ない話で、最後に少し、語り過ぎかと言うところを感じたけれど、全体をつなぐ輪を用意しつつ、この先までが用意されているという仕掛けだけにそれもまた仕方がないのかもしれない。
それにしても怖いのは人間。
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とある理由で家を離れ、叔父夫婦の店にやってきた少女おちか。彼女のもとを訪れる人々が語る「百物語」。そして、おちか自身が恐ろしくも悲しい過去を胸に秘めていた。
連作短篇というのでしょうか。ひとつひとつのお話はしっかり一章ごとにおさまっているのですが、それらが集まって大きなストーリーをつむいでいます。
『おそろし』のタイトルどおり、幽霊だったり殺人だったり、起こることは怖いのですが、トータルしてみるととても「良いお話」でした。人間の情念の恐ろしさ、という意味では、『あやし』のほうが怖かった気がします。
いつも思いますが、宮部みゆきは本当にすばらしいストーリーテラーです。
話の内容もそうですが、その物語の語り口、小説の世界に一気に引き込んで、最後まで意識を反らさせない巧みさに感動しました。
2010/7/10 読了
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クライマックスが若干詰め込みすぎのような、
無理やり感があるような…。
本来「これまでの話が最後の話でつながる」という
構成は好きなのですが、つながり方に
ちょっと違和感を感じちゃいました。
話一つ一つは良かったです。
「語り」そのものは
後味の悪いものばかりだけれども、
それを介することで
登場人物同士のカタルシスをなくしていく
交流が素敵でした。
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『讀賣新聞』で連載していた『三島屋変調百物語』の単行本(新書版)化かと思ったら、さにあらず。それ以前の、おちか自身の話と、讀賣連載中には、既に解決したらしい話として紹介されていたおたか・清太郎義姉弟の話。つまり、「事始」と題している通り、おちかが百物語の聞き手になった経緯と、なぜおちかが三島屋の預かりとなったかという、肝心要の話だった。
これは2008年に単行本で出ていたものの新書化のようで、つまり、新聞連載は、続編だった、ということらしい。前を知らなくても充分楽しめるような話になっていたので、気づかなかったけど、これでようやく話がちゃんと見えた感じ。
おちかの過去の事件で思ったのは、「ああ、おちかは恋をしていない。恋を知らない子どもだったんだな」ということ。最後に出てきた謎の男が、
「あんた、良助さんのことはどうでもいいんですか」
「良助さんの恨みと悲しみは棚上げだ。胸が痛まんのですか」
と問いかけていたけど、確かにおちかにとっては良助はどうでもいいんだろうと思う。
だって、おちかは良助は好きだったかもしれないけれど、良助に恋はしていなかった。
あのまま夫婦になって愛を育んでいれば、また違ったかもしれない。でも、あの段階のおちかにとっては、幼馴染みで許婚とはいえ良助は全くの他人だ。そもそも、彼が殺されたのも、彼に責任がないとは言い切れない。あの事件だけを見れば良助は被害者だけれども、それ以前に、松太郎に対しては、“常に加害者だった”。
松太郎が良助に祝いを述べて挨拶をした時、普通に受けていれば、殺されるようなことにはならなかった。殺されて当然とはもちろん言わないし、どんな理由があれ殺されていいわけはないのだけれど、「身から出たサビ」とは言える。
良助の恨みも悲しみも、良助自身が選び取った言動に責任があり、おちかに責任は無い。
おちかのために殺されたというわけではなかった。
だから、おちかにとって良助はどうでもいい。本当の被害者は、誰か。おちかは本能的にそれを知っていた。それだけのことだ。
おちかも良助も松太郎に対しては同じ加害者。同じ立場の人間だったのだから。
もっとも、おちかは松太郎にも恋していたわけではなさそうだ。おちかは、まだ恋を知らない。この後、清太郎に恋することはあるのだろうか? あ、寺子屋の若先生ってのもいたねぇ。(笑)
さて、おちかは誰に恋して誰のために感情を動かすのか。或いは、そうならないのか。先が楽しみだね♪
しかし、いつも思うが「殺され損」って変な言い方だよなあ。「殺され損」という言葉があるなら、「殺され得」って言葉もありそうだが、“殺される”に得も損もないだろうにな。(^^;)
それにしても、最後はみんながそろって成仏して、大団円……と思いきや、謎の男が出てきたりして、演出が憎いねー。(笑) これ、ドラマ化してくれないかなあ。きっとおもしろいと思うよ♪
しかし、お彩・市太郎の話は、前に読んだ気がするんだよなあ。まあ、こういう話は宮部さんお得意なので、似た感じの怪異譚を以前にも書いていたのかもしれないけど。どちらにしろ、「これが開巻の一冊です」と書かれて���たので、まだまだ続きが出そう。何せ“百物語”だし。楽しみです。(*^_^*)
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叔父の店である三島屋に行儀見習いとして預けられた娘・おちか。身近な人たちの間で起きた凄絶な殺し合い、その一幕を間のあたりにしたおちかは、悲しみと自責の念に、心を閉ざしてしまっていた。
無心に働いているほうがまだ気持ちが休まるからと、親類の娘ではなく、奉公人として使ってくれと、叔父夫婦に懇願したおちか。はじめはただした働きをしていたおちかだったが、ひょんなことをきっかけに、叔父の命により、変わり百物語と称して、江戸の人々の語る怪しいふしぎ語りを聞き集めることになった。
人の心の闇だったり、そこから生まれた怨霊や妄執だったりと、暗く重苦しい題材も多いですが、さすが宮部さん、集められた数々の話が収束し、切なくも力強い感動のラストへ。
もともと怖いホラー作品はかなり苦手なほうなのですが、恐怖よりも、むしろ、怪異を題材にして、人間のこころの強さ・弱さや悲しさを描かれているので、怖いというよりも、やるせないとか、悲しいとか、力強いとか、そういう印象のほうが強いです。
宮部みゆきさんの作品の中で、一番好きなのはと聞かれると、ミステリであるところの『名もなき毒』なのですが、宮部さんが書くジャンルの中でどれが好きかという話になると、時代物です。時代物>ミステリ>ホラー>ファンタジーかなあ。
『ぼんくら』『日暮らし』『あかんべえ』『孤宿の人』に、この『三島屋変調百物語』。もう大好き。そういえば『霊験お初』も好きだったな。だいたいが人情に弱いんですよね……。
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文句なしの百物語。
京極氏とは一味違う百物語の趣向で、とってもおもしろかったです。
続編も楽しみ!!
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誰の心の中からも生じるアヤシイモノたちを、宮部流の語り口調で優しく包む。所謂「百物語」とは少し趣向が違って、集められた”あやしい”物語は(百はないのだが)次第に一つのエピソードに収斂していく。その手法は流石。ただ、そのまとめ方が少々強引な気がした。話の落ち着き先もどうもありきたり。宮部みゆきだから、と多大な期待をし過ぎてしまったのかもしれない。
残念だが、宮部みゆきの時代モノを読むのが初めての人には、別シリーズから手をつけることをオススメする。
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ひさしぶりの宮部みゆき。やっぱ読みやすい。
江戸時代の妖怪もの、災難に会い江戸に出てきた旅籠(川崎)のお嬢さんが怪談を聞いていく。
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語りの物語には語られる物語があり、語るものの物語があり、語りを聞くものの物語がある。その三者が合わせ鏡のように連なり、奥へと通じる道が開かれる。その三者の見せ方がさすがの巧さです。ラストが少年まんがのような展開だったのには驚かされましたが。それはそれでカタルシスへと繋がるかな。大団円という訳ではないけれども、これから先へと続いていく物語だからねえ。舞台は整いました。これからの宮部版百物語が楽しみですな。続編も出ていることですしね。
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久しぶりに宮部さんの本を読んだ。
久しぶりにわりとすんなり読めた。
久しぶりに続編を読みたくなった。