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41歳から独自の手法で絵を描きはじめ精神病院で没した女性画家セラフィーヌ・ルイの人生を綴った一冊。
本書は、2010年8月公開される映画「セラフィーヌの庭」の原作でもある。
セラフィーヌ・ルイという画家を私は全く知らなかった。
アンリ・ルソーや郵便配達のフェルディナン・シュヴァルのように、素朴派や個性派に分類されるであろう彼女は、「セラフィーヌ、あなたは絵を描かなければなりません」という天からの啓示によって絵筆をとる。
セラフィーヌとは、熾天使(セラフィム)からとられた名前。
セラフィムは天使の階級の中でも最上の地位にあり、神への愛と情熱で体が燃えている天使とされている。
バルザックの作品の中にも『セラフィタ』という小説がある。両性具有をテーマとした幻想的なものなのは、天使に性別がないからであろう。
セラフィーヌ・ルイは、フランスのアルシーの貧しい家に生まれる。13歳からメイドとして働いていた。41歳で絵を描き始めた。
彼女の描いた絵は植物である。花であったり、葉であったり、木であったり、果実だったりする。
ヤン・ブリューゲルらフランドルの画家たちが描いた花器いっぱいの花々とは全く違う静物画なのだ。
48歳のときに、彼女は、ドイツ人コレクターのヴィルヘルム・ウーデと出会う。
彼は、アンリ・ルソーを発見し、ピカソ世に出るきっかけを作った優秀な画商であり、以後、彼女はウーデの援助を受けることになる。
第一次世界大戦や世界恐慌など歴史的な大きなうねりのなかで、ウーデの人生も波に揉まれ、セラフィーヌへの援助も打ち切られるが、ウーデは彼女の絵を芸術として評価した人物であり、絵を描くことを肯定し励ました大きな存在であった。
著者のフランソワーズ・クロアレクは精神科医だが、セラフィーヌの詳しい状況を精神医学的見地からあまり書いていない。症状などから統合失調症だと考えられる。
ウーデの援助が断たれた翌年に、セラフィーヌは精神病院に強制入院となり、以後、死ぬまで退院することはなかった。
精神病院で亡くなった女性芸術家といえば、カミーユ・クローデルを思い出したが、彼女とセラフィーヌは同じ年に生まれ、同じ年齢で死んでいる。78歳。
入院していたのは別の病院であるし、カミーユとは違ってセラフィーヌは処女で生涯を終えた。
絵を描くセラフィーヌの写真が本に載っている。
おしゃれっ気のない素朴な印象の女性に見える。
彼女の絵を実際に見てみたいと思う。(世田谷美術館に≪枝≫という作品があるそうです)