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介護保険制度成立までの流れ(ストーリー)を70項にまとめ仕立て上げたもの。すでて現実にあったことなのだけど、書名に「物語」と銘打つだけのことはあるもので、非常に読み応えがあり、胸が熱くなるストーリーが連なる。中央省庁のお役人の動き、市民の動き、地方行政担当者の動き、介護の現場の人々の動き、議員の動き……こういったそれぞれの動きが混然一体となって介護保険制度に結実していった様が描かれている。そこにはそれぞれに志ある人々がいて、長い苦労と熱い熱意の末に今の制度ができたことが伝わってくる。そして、介護にまつわる問題を追い続け、様々な関係者とのネットワークを築き上げていた著者でなければ、この一本筋の通った読み応えのある物語は書けなかっただろう。
いろいろと問題も多い介護保険制度だけど、読んでみれば決して様々な利害関係者を考慮して折衷案としてまとまったものではなく、すくなくともそれ以上の一つ方向に向かおうとする思いのもとにあるのだと感じた。
医師でもあり、国会議員でもあった今井澄さんは、最晩年にこんなふうに言ったという。
「介護保険に色々問題があるのは確かだし、これですべての問題が解決するわけではない。けれど、この制度によって、日本の社会保障は、新たな次元の社会システムへと変革された。その本質的な変化を理解した上で、問題点を一つ一つ解決していけばいいんだ。日本の介護保険はドイツより格段に優れているのだから」
金言だと思う。深く思考してよりよい介護保険をつくり、被保険者の人々が幸せだと思える一生を提供できるようにしなければいけない。