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様々なデータを基に、グラフなどを織り交ぜて教育格差の問題(特に経済に関わる部分)を論じている。が、「検証している」というわりにはデータの背景の説明にや結論の根拠が乏しい。正直に言って本書を鵜呑みにするのは良くないと思われるが、実に興味深い部分もあるので、別の書物などで「グラフにだまされない」知識を身につけてから読むと良いかなと。
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同志社大学経済学部教授の橘木俊詔(1943-)による教育格差論。
【構成】
第1章 学歴社会の実相―「三極化」の進行
1 日本は学歴社会なのか
2 大学進学の壁
3 学歴格差は三極化
第2章 家庭環境の影響力をどうみるか
1 子どもの学歴を決めるもの―親の階層と学歴の関係
2 文化資本か、学力資本か
3 高校、大学に進学する要因の変化
第3章 学校教育の進展と新たな格差
1 教育の目的・方法の変遷
2 公立か、私立か
3 エリート単線型の学歴コース
第4章 不平等化する日本の教育―家計負担が増加するなかで
1 学費負担と教育の不平等
2 低い公費負担、増える家計負担
3 貧困家庭の増大と教育
第5章 教育の役割を問う
1 教育の目的を検証する
2 リベラリズムと教育政策
3 働くことと教育の連携
終 章 教育格差をどうするか
著者は、既に同じ岩波新書から出版されている『日本の経済格差』(1998)、『格差社会』(2006)等で所得格差が拡大する現状分析を行ってきた。本書はそれを「教育」に限定した議論である。
紹介されている分析は、既に著者自身の著作で何度も触れられているもの、苅谷剛彦、本田由紀、吉川徹といった教育社会学研究者の手がけた新書の内容を要約したものであり、目新しさは全くない。上記構成を見れば内容は一目瞭然なので、本レビューで紹介は行わない。同じネタで何冊も本を出すあたり、研究者として新しい分野・課題に挑戦する気が無いのかと感じてしまう。
とはいえ、論旨は非常に明快であり、①名門大学卒のエリート、②一般的な大卒、③高卒(含む中卒)の3階層のうち、家庭の収入や文化資本、インセンティブ・ディバイド等により階層的に固定化しつつある③高卒低学歴層への対応策を考えるヒントになる。
終章で行われてる著者の提言について2点だけ言及したい。
評者自身は、著者が終章で提示するような少人数学級編成については、教員の安直な増員は将来的な教員の採用計画を見据えた上で慎重に検討すべきだと考える。著者は学習塾など学校外教育支出が日本的な格差の要因であるとして、その対策としての教員の質向上を挙げている。しかし、良質の教育を受けている(はずの)進学校の生徒であっても、学校外教育に多くの時間と費用を費やしていることを考えれば、教員の質とそれは関係が無い。
それよりは、義務教育課程における諸費用(給食費、副教材費)等への生徒数に応じた一定額補助による家計負荷軽減などの方がよっぽど直接影響があるのではないのか?
また、職業教育の充実についてだが、就職するという1点だけを考えれば普通科の減員、職業科の増員という安直な話になるだろうが、中学卒業時点でその後50年の人生に道を限定させてしまうことが本当にいいのか、著者は真剣に考えた上で主張しているのか?これも疑問符がつく。
最後の提言はともかくとして、現状の教育格差論の概要がつかめるという意味では、お得な一冊と言えるだろう。
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:::::::::MEMO:::::::::::
p.25.
新堀通也著『学歴意識に関する調査』(1967、広島大学)
p.68. 文化資本の進学意欲に与える影響のジェンダー差:
片瀬 一男 2005 『夢の行方―高校生の教育・職業アスピレーションの変容』
pp.189ff ジョン・ローマーの教育機会平等論(に、橘木氏は大きな刺激を受けたらしい):
Roemer, J. E. 1998. Equality of Opportunity. HUP
p.207. 非進学校系普通科の職業教育・進路指導
「ここで問題にする必要があるのは、普通科の中位・下位校である。寺田盛紀は、このような高校においては、職業や進路を学ぶ機会は進路講話ぐらいが与えられているにすぎず、実質的な進路指導は皆無に近いと述べている...(中略)...これらの学校でも基礎科目の国語、数学、英語などが重視されているので、働き手としての技能教育はほとんど行われていない。」
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物見遊山的な格差論ではなくて、ちゃんと「ではどうするか」まで論じられていてよかった。
ただ、高校の職業科については「荒れ」現象には触れられていないので、机上の空論っぽい。
また、同様に小学校の「崩壊」による私立への「逃げ」にも論究していないのも現状を充分に把握しておられないような気がした。
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だいぶ前に読み終えた本。格差論で有名な橘木さんの著書で、やはり格差は教育格差からもたらされている面が強いとの事で、教育格差に特化して書かれている。私は教育経済学が専門なのでとても楽しく読ませてもらった。一方、欲を言えば近年アメリカで注目度の増している幼児教育に関してどのように考えているか、その意見を書いてほしかったところ。いずれにしても良書である事は間違いない。
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20110123読了
興味深かった。
自分が思ってたことを再考するきっかけとなった。
ざっくりと。
学歴三極化という考えは確かにそうかも。
↓
1.名門大学卒業
2.その他大学卒業
3.高校以下卒業
以上の3つで就職が別れるということ。
教育学的には人間性の向上をめざす、経済学的には社会の一員として働くための力をつけるといったようなこと。
どちらのバランスも大事。
その教育の機会をなるべく不均等・不公平にならないように考えられていること。
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経済学的視点からの教育問題へのアプローチ。
本屋さんで立ち読みをする時、「あとがき」から読んでいたりしませんか?小説の文庫だと「あとがき」に評論や著者の紹介なんかが記載されていて、参考になったりしますよね。
本書については、あれと同じような読み方を推奨します。というか、「結論先取り読み」は新書を読む際の鉄則とまで言えるかもしれません。小説ばかり読んでいたせいか、「本を読むのに終わりから読むなんて邪道だ」という固定観念があったんですが、終章を読んでから、内容にいく方が理解が早いということにこの本を読んで気づかされました。
その点で、本書は私にとっては、読書スタイルの良い勉強になったといえます。
内容はといえば、いろいろと新しい知識の発掘もあり、教育問題や格差問題に関する論点を深めていく際の啓発にはなると思います。
ただ、どうしても冗長な感を拭えないため、評価は2で。
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個人的には、ほぼ常識化した事項の確認にはなった。その中で、意外な事実を挙げれば、「学歴間賃金格差の国際比較時、日本は一番格差が少ない(中卒賃金を1とした時の大卒賃金のポイント:日本1.6、アメリカ2.78、韓国2.33etc)」ということだ。本書では言及されていないが、福祉装置としての学校制度は「格差」は存在するものの、他国と比較の上では、うまくいっている方だと思った。
高学歴:高収入、旧帝大・ブランド大:高収入、家計所得:学歴といった関係は各方面で指摘されているので、本書ではそのおさらいができる。
著者はまた次の視点を示している。
文化資本、学力資本という、即座に金銭に交換できない資本のことをだ。
古典文学、クラシック音楽、絵画、美しい言葉、といった文化的水準は、自然に親から子へ受け継がれるという考えである。
片瀬一男氏の『夢の行方 高校生の教育・職業アスピレーションの変容 』で、読書文化資本、芸術文化資本は大学進学に寄与しているデータが紹介されているそうである。
また、著者は義務教育段階での私立学校へ通うことについて次のようの述べている。私は賛成も反対もしないが、ひとつの考えとして、記録しておく。小中段階では、様々家庭層、多様な子供の中で、人間関係の縮図を学ぶことは貴重ということであり、それを共同体験することは貴重な経験になるという見解だ。
pp105のズによれば、私が小6だった頃の中学受験率は、4%、直近のデータでは8%この統計は示唆に富む。私学経営の観点で何を読み取るか、当事者・保護者の観点で何を読み取るか。これまでも経験して考えてきたし、これからも考えてきた問題だ。
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経済学が専門の著者が、教育学の視点から語られることの多い、教育に関する格差の実態や要因、それがもたらす要因を検証した一冊。学校では学問・教養の習得だけでなく、仕事を行う際に有用となる技能の習得や、働くことの意義などをもっと学ぶ必要があるという著者の主張はなるほどなと思う。
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著書への要望は2点ある。
第一に、pp.5の卒業学校段階の格差でのOECDデータについて。
なぜそのデータを用いたのか具体的な説明がなされておらず、明らかに不足している。
「卒業学校段階の違い」という説明で進んでおり、卒後の賃金稼得に関する説明や、根拠となる深い分析結果が得られず、ゆえに、更なる調査が読者に求められる。
第二に、pp.72からの高校、大学に進学する要因の変化というところでも同様に、説明・データ共に不足している。
新書なのだから、2010年度までの日本の進学率上昇との国際比較の比率があっても良いのではないだろうか。
新書ゆえの問題ともいえる。
しかしながら、読者自身が更なる調査を行わなければならず、何を根拠に物語っているのか予測を立てて読まなければならない点が多々ある。
もっと調べてみたいと読者に思わせる、著者の思惑かもしれないが、その点が非常に残念でならない。
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経済学的な知見を踏まえて、日本の教育格差について書かれている。高卒と大卒間の格差に加えさらに、大卒間の間でも有名ブランド大とその他大の格差が存在しているという主張は繰り返しなされている。
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資料に溢れていて論文とか書きたいときに役立ちそう。
教育学と経済学だけでなく哲学にも踏み込んだ良書。
岩波新書って学術論文を切り貼りしたような内容が多くて、実質的に論文を読んでいると言っても過言ではないんじゃなかろうか。
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教育における格差、その要因と問題点を検証し、リベラリズムの立場に基づいて日本の教育改革の方向性を示唆するもの。
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2010年刊。著者は京都大学大学院経済研究科教授。
タイトルどおりの書。
著者の他書や苅谷剛彦氏などの著作を読んでいれば、内容にさほど新奇なものはない。
論点で言えば、これまで進展してきた高校生への援助枠の拡大に鑑みると、今後これが改悪されない限り、今後は就学前教育と、大学生や専門学校生にどれだけ財政的援助ができるかが肝になるのだろう。
例えば大学。勿論、給付型奨学金の拡充が当然の前提で、望ましいことは確かだが、それに加えて無利子貸与型も組み合わせると随分違う。
ところで、かつてこの種の類書は散々読破した。それは、子供達(特に上の子)が幼稚園の頃、ゆとり教育が議論の俎上となった時期に符合するが、本書自体、その時期と比べ大きく議論が進展し、あるいは新たなデータが付加されたという感は生まれなかった。子供の貧困=格差社会の亢進という問題の根深さと解決の道筋がついていないことが、心に引っかかった感じである。
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経済学者が教育について語るとこんな感じになるのだな、と実感する。教育をめぐ格差について、よい意味でも悪い意味でも「広く浅く」論じている。著者のものの見方は、常識的というか通俗的というか、さばけていてこだわりがない。本書の前半では、広く世間で言われていることを、様々なデータや様々な学者の見解を紹介することで跡づけていく。本書の要旨は終章にまとめられているので、まずここから読んで、必要に応じて本書前半の各種データを確認する、という読み方の方が効率的かもしれない。