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紙の本
食のルートを俯瞰的に
2010/09/11 19:02
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:mikimaru - この投稿者のレビュー一覧を見る
食の取材を長年つづけてきた著者が、ピンポイントになりがちである取材の成果を、俯瞰するような視線でまとめなおすことはできないかといった思いから手がけた連載をまとめた本。鯖街道、ぶり街道、鮎鮨街道など、目次を見ているだけで、つばを飲みこみたくなる言葉がならぶ。
構成は、おおまかに
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第一部 海辺から山への道
鯖街道、ぶり街道、塩の道、鮑の道
第二部 海上の道
昆布の道、醤油の道
第三部 権力者がつくった街道
鮎鮨街道、お茶壺道中
第四部 渡来食品が伝わった道
砂糖街道、豆腐の道、唐辛子の道、さつま芋の道
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冷蔵庫や陸路の発達していなかった時代、人は塩漬けもしくは(道中の発酵を見越した)魚加工品を、数日かけて運んだ。現地ではありふれた魚が、到着するころに絶妙な漬かり具合の珍味となった例は小泉武夫氏の著作などでも知られるが、こうして街道という面からとらえた複数の食材ルートを読むことは、とてもおもしろく感じる。たとえばわたしは味噌や砂糖について多少は考えたことがあるが、同様に身近である醤油については、由来や成分について、本書を読んで開眼した部分が多くある。
印象的な話としては、P.144あたりにある鵜匠について。子供のころから何となく、飢えさせられて、せっかく仕事したものを取り上げられて、鵜はなんと気の毒だろうとばかり思ってきたが、鵜匠という職業について思いを寄せたことはほとんどなかった。
また、第三部の「お茶壺道中」が、権力者がつくった街道となっている理由だが、著者の取材によると、炎天下を「下に〜下に〜」などといいながらのんびり茶壺を持って歩いていたら品質が落ちるはずなので、実際のブツは秋に舟などでさっくりと運び、あくまで権威を印象づけるパフォーマンスとして、幕府と宇治の茶師(現代風にいえばお茶ブローカー)の利害が一致して、大げさな道中が生まれたものという(p.170)。
さて、おおむね楽しませていただいたのだが、イラストや写真がもう少し効果的に使われているとよいように感じた。枚数が少ないわけではないのだが、視覚的な補助がほしいと思う場所が文字中心で、どうでもよさそうな(と書いては失礼か)画像がはいっていることもある。もう少しバランスよい配置ならばよかったように感じる。
さらに、著者ご自身がよくわかっていても読者が同じとはかぎらないので、補足説明があったほうが親切かと思う場所がいくつかあった。
たとえば第四部の砂糖街道で、(カステラで有名な)福砂屋は福建省の砂糖も商いのひとつであったのでこの屋号にしたというのだが(P.194)、せっかく砂糖の話をしている章なのに、福建省の砂糖が日本とどう関係があったのかは、出てこないのである。また、"唐"辛子というが「中国へ唐辛子が伝わったのは日本よりあとらしい」(p.231)と書いたあとは、日本の唐辛子がどこから渡来したかの諸説にはいり、せめて中国へ唐辛子がいつ伝わったのかという年号だけでも書いてくれれば説得力があるものの、"らしい"で終わりにしてしまうのかと、もの足りない。
食材の起源や歴史に関心がある方なら、けっこう楽しめる一冊。
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