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紙の本
取材対象と近すぎて構成に失敗したスポーツ選手密着本
2012/01/23 23:32
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:uh312 - この投稿者のレビュー一覧を見る
W杯を当て込んだ商魂逞しい本かと思ったが、他メディアに出ない話題もあった。ただその周辺が冗長で、前半(過去)と後半(W杯)も
連動しきってないのが残念。著者の主観の記述が濃厚で、客観的な事実の羅列でもない。つまりは中途半端な著者の立ち位置のせいで
「結局、著者は何が言いたいのか?」というのが率直な感想であった。
著者はナンバー誌でおなじみ「中澤番」ライター(良くも悪くも密着取材が可能な親密さ)で、前半部分は中澤本人に不利な暴露本ではない。
過去の関係者へのほぼ全ての取材も中澤の紹介なので、中澤に都合の悪い人物は排除。著者は中澤の過去を、良くも悪くも「本人の記憶」に
従って追ったようだ。
後半の南アW杯については代表チームに複数いたと思しき著者の懇意の選手たちの意向が尊重されすぎてる気配が濃厚で、読後感が悪い。
取材陣に今野の起用を暴露したという某選手の名も出さず非難もしない一方、現地での選手間対話での中澤の立場を全面的に擁護し一部選手や
岡田監督を厳しく批判している(著者だけに独占告白したことがこの本のキモらしい)。
客観的な記述に遠い、御用ライターが取材対象に密着し過ぎた典型例に見えなくもない。読了直後に、アトランタ五輪後に男子サッカーの
チーム崩壊の暴露本で名を売った金子達仁を思い出した。あの本も西野監督と中田英寿との両者の言い分を客観的に総括しきれなかった。
大会後に全国のファンは善戦を称賛するムードで総括してるが、結局は監督のせいで(ドイツよりましだけど)チームは崩壊してた。望外の好成績は
選手が指揮官の能力以上に頑張ったから。俺はチーム事情を知ってるからここで書いちゃうけどさ。最終章に近づくにつれ第三者の視点が
なおさら減るため、こう著者が言いたいのだろうなと解釈するのが、この偏った情報が導く一般的な読者の想像力の限界ではないだろうか?
ナンバー誌での中澤密着の連載記事も、速報性重視だからこうなっていて単行本化で中身も深くなるだろうと我慢してきたが、結局は
ドイツW杯直前の宮本の追従記事と同じ(単行本の題名に見栄えのする二字熟語を使うスポーツ選手の本の王道)になってしまった。
たしかに一貫して中澤の孤独なプロ意識(健康オタク)ぶりは痛ましいほど伝わる。全体として素材はあったのに、著者の切り込みの手順と
その浅さが惜しい。
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