投稿元:
レビューを見る
若干、ネタばれするんで、見たい人は、読まないで下さい。
戦争から戻ってきた夫は、両腕の肘から下、両足の膝から下を失い、顔半分はケロイドに。「こんな姿で戻ってくるなんて・・・」と、因惑し、混乱する家族。妻は、夫の変わり果てた姿に無理心中を図ろうと首をしめようとするが、思いとどまる。
家族の葛藤とは裏腹に、夫は、国から幾つもの勲章をもらい、周囲の人々からは、生ける「軍神」として、崇められ、妻もまた「軍神」の妻として、戦時下、皆の模範的な妻としての振る舞いを周囲に押し付けられていく。
てな、ストーリー。この映画、戦争という状況が生み出す悲惨さを若松監督は訴えたかったのだろう。正直、俺は、監督が一番訴えたい事から外れ、不謹慎かもしれないが、時代や取り巻く組織、状況は違えど、人間が追い詰められ、壊れていく様に考えさせられた。
若松監督の前作は、「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」という、革命を夢見た大学生が山中で追い詰められ、仲間を次々に「総括」という名義のリンチで、殺害しボロボロになっていく様を描いた作品だった。
若松監督の「キャタピラー」、「実録・連合赤軍~」に共通しているのは、極限下に置かれた人間が「観念」によって、おかしくなっていく様だ。
「観念」。ややこしい。自分はフラット、なおかつ正義のつもりでも、知らない間に自分に置かれた状況、組織により、なにがしかの「観念」に染まり、色々な事に耳を傾けているつもりでも、結局は染まった組織、状況に縛られた狭い答えを出しているのではなかろうか?
例えば、俺は、幕末が好きなんで、坂本龍馬とか好きで、それに敵対する新選組も好きだったりするが、新選組は幕末、警察組織として、たくさん血を流したが、隊士の多くは、隊内の規則違反、切腹で亡くなっている。江戸幕府を異国から守る、という正義感から、「武士らしく」という隊内でのスローガンを打ち立てたのは良いとしても、それに縛られ、些細な事でも「武士道」から外れる者を粛清し、新選組という組織を硬直化していったように感じる。もしも、「武士道」という「観念」から離れ、もっと柔軟な姿勢があったら、新選組の歴史の軌跡はもっと違ったものではなかったのだろうか?とか(一方で、あのストイックさでないと、幕末の混乱した京都を守れなかったのでは、とも思うが)。
話が大分それた。俺は、若松監督の思想は、多分、あまり納得できない部分がある。ちょっと一面的な感じがする。けど、若松監督がかって応援し、時に資金を支援していた学生運動、それなのに、それらの暗部を晒した「実録・連合赤軍~」を撮った所に、誠実さを感じる。自身も関わっていた組織のおぞましさから目を背けなかった所が。「実録・連合赤軍~」が、自身も肩入れした学生運動だったのに対し、今回の「キャタピラー」は、国家が戦争へと突き進み、国民を翻弄させてしまった様が描かれている。本当は、若松監督は、「キャタピラー」みたいな作品だけを撮って、自身の主張である反権力、反体制を訴えていく事もできただろうに。しかし、自分の過去を隠さずに作品にし、なかった事にしない姿勢は、本当に素晴らしいと思う。だから俺は考えは違うと思うが、若松孝二が好きだ。
次は、若松孝二は、三島由紀夫について撮るらしい。また、「観念」だろうな。でも見たい。
で、寺島しのぶ、年々、可愛くなってるように感じるのは、俺だけなんだろうか?
と、あと、R15作品なんで、家族みんなで見るには、刺激が強い、寺島しのぶーなシーンもあります。
またもや、ダラダラな長文すいません。 .