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投稿者:kumataro - この投稿者のレビュー一覧を見る
ツリーハウス 角田光代 文藝春秋
87才の口が重い祖母とその孫息子が、旧満州、現中国東北部の長春、大連を旅する。「永遠の0(ゼロ)」百田尚樹作とか、「赤い月」なかにし礼作、日本映画「壬生義士伝」の医者夫婦が満州へ渡るというラストシーンなどを思い出して期待しました。見たことが無い風景を見たことがあるように書く才能に秀でた作家さんですが、最初の勢いはやがて薄れ、後半は、年表の項目をうわべでなぞるだけの説明となり、尻すぼみでした。全469ページのうち439ページ付近で、作者は創作に失敗したことを自ら悟るかのような記述になっています。満州での暮らしや孫と祖母の旅を厳しく書ききれていません。「八日目の蝉(せみ)」とか「ロック母」同作者著にあった「執着」がみられません。
主人公となる家族は「藤城家」です。同家がデラシネ(根無し草)と呼称されます。祖父母は親族や日本国を捨てて満州へ行きそこで暮らした。終戦後帰国したものの夫婦の親族は本土を捨てた夫婦を受け入れてくれない。3世代をとおして「逃げる」ことが藤城家の体質となっている。269ページにある、生きていくことは「後悔」を増やしていくことが、生活行動の基準を表している。213ページの、この国には父親がいないは、胸にズキンと響く。藤城家の家族は、お互いに干渉しない。他人でも自家に住まわせる。家を出て行くことも止めない。人種差別をしない。そのルーツ(根っこ)は祖父母の満州での体験にある。祖父母はしたい放題のことをしてきて子どもたちの命を失うという罰を受けた。彼らは帰りたい。ただ、帰りたいのは場所ではなくて、満州で親切な外国人たちに囲まれて暮らした楽しかった過去へ帰りたい。
(以上を書いた翌朝再び考えてみた。)
祖母は、満州で自分たち夫婦やこどもたちを温かく受け入れてくれた食堂経営者ファミリーのような家族を日本でつくりたかった。努力はしたけれど、つくれなかった。めいめいが自分のことだけを考える家族になってしまった。この家族だけでなく、日本の家族が藤城家のような形態をとるようになった。終戦後、高度経済成長期を経て、不況を体験し、「昭和」の終焉を迎え、日本人が生きる気力をなくしてきているという時代背景もある。
そういったことを考えていたら、この作品はかめばかむほど味わいのある作品であることに気づいた。
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新宿の中華料理店・翡翠飯店の三代に渡る家族の物語。
普段は、各々が勝手な事をしているようでも、やっぱり家族なんだな・・・っていうような温かな雰囲気が感じられた。
どんなに平凡な家族でも、ずっと昔から、親から子へ、子から孫へと続いてきた歴史を思うと、二つと無い宝物のようにも思えてくるかも。
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昭和から平成を生きた3世代の家族の物語。
角田さんの書く物語は、いつも本当にリアリティがある。
ひょっとして、あそこの角を曲がったところにある中華料理屋がこの小説の実在のモデルなのかも、と思えてしまうくらいリアルだ。
ストーリーの構成も少し変わっている。現在と過去が入れ替わりながら、語り手が変わりながら物語が進んでいく、それ自体はさして珍しくもないつくりなのだが、時間の入れ替わりのリズムがちょっと変則的で、あっという間に時代が戻ることもあれば、延々とつづられることもあり、はじめそれに少し違和感を感じた。
でも読み終えて、そのいびつなリズムこそが、この物語の奥行きだったんだじゃないかという気がする。
全体的には孫の良嗣が語りの中心になっているといっていいと思うが、物語の主人公はやはり祖母ヤエだろう。
ヤエがずっと心に溜めてきた思いが、語り手が違う場面でもずっと、物語の全編に横たわっていた気がする。それこそが、私の感じた変則的なリズムのなせる技だったのではないか。語り手がヤエでなくても、読み手にその思いをずっと感じ続けさせる角田さんは、毎度ながら本当にお見事というよりほかない。
ヤエが満州時代にお世話になった食堂の家族を訪ね、本人には会えずに同じ場所の食堂の主人に、時代に翻弄され続けた自分の人生を振り返り、苦しんできたばかりではなかった、今生きていることの感謝を、その心からのお礼を言うシーンでは、こみ上げてくるものを抑えられなかった。
家族っていうものを、しみじみと考えちゃったかな…。
ひとりひとりにいろいろな人生があり、抱えるものがあり、それを持ち寄って肩を寄せ合って生きていくのが家族、なのかな…。
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角田光代さんの小説って、どうしてこんなに人をひきつけるのか?
家族が伝えるものについて、考えさせられた。良嗣のこれからに希望の光りを見た。
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市井に生きる普通の人々の軌跡を綴った物語。家族とは生きるとは何か考えさせられる本。
勢いの有る戦前戦中はあっという間に読んでしまった。現代に近づくにつれ若干弛むが、中国に祖母と孫、息子が旅をするあたりは圧巻。
生きるために逃げることは悪いことじゃない。
人の生き方にも家族にもいろいろな形がある。それを全て受け入れることができる家庭って素晴らしい。
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満州から生き延びて新宿に中華料理店を開いたひとつの家族の三代に渡る物語。戦前から昭和、平成の歴史事実の中で描かれるひとつひとつの出来事がすごくリアルで圧倒させられる。立ち向かう事が偉いわけではない、生きるためには「逃げろ」!そして、家族を作るものは「希望」!余韻の残る傑作でした♪
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親子三代が暮らす新宿にある中華料理店の藤代家。家族は、お互い無干渉で、兄の行方がわからなくても、姉が妊娠して戻ってきても、叔父がひきこもりでも、淡々と毎日が過ぎていく。良嗣は、どこか他の家族とは違うような、何かが物足りない、そんな違和感を感じている。
祖父が死んだ夏のある日、いつもは口数少ない祖母が「帰りたい」とつぶやく。「どこに帰りたいのか?」 良嗣は、あらためて自分の家族のことを何も知らなかったことに気づいた。親戚のいない祖父と祖母はどこから来たのか、どう生きてきたのか、満州へ行きたいという祖母と一緒に旅にでる。
かつての思い出の地を訪れる祖母と良嗣の旅と、戦争時の満州で祖父母の出会い、今に至るまでの藤代家のルーツ、家族の人生が交互に描かれる。
当たり前だけど生まれたときから、自分にとってはおばあちゃんには、壮絶な人生があって、父親である慎之輔にも若き日がある。だからこそ今の自分がある、根無し草のような家族だけどそこには壮大な歴史があった。
祖父母は、戦争から今の地へ逃げてきた。でも、逃げることは悪いことではない。そこに何かがある、そこで生きる意味があるから。そんな気持になった。
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さすが、としか言いようがない。この読後感。角田さんの長編はほんとずっしりとしたいい重みがある。
家族三代に渡る壮大な物語。
てんでばらばらな家族。人それぞれにある重たい過去。生と死。
家族ってなに?って小説書かせたらほんと右にでるものいないなぁー
すごい本でした
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一人ひとりに人生があるんだなってことをあらためて感じました。自分の祖母のことを思い出すと、いつも優しく迎えてくれて、畑仕事をしていたイメージなんだけど、祖母にも辛いことや悲しいこともあったんだろうなって、そんな当たり前なことを、ひしひしと感じました。
「逃げたっていいんだよ」って祖母に言われたら、もう少し頑張ってみようって思えるだろうな。
この家族の道筋を辿ると、すごく、切ないキモチになりました。
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なんともバラバラな家族。
家族ってもっとまとまりがあるものだと思うのだが、ここまで個人を尊重されちゃうとなぁ。祖父母の過去を知れば、誰がきてもウェルカムという態度は理解できるけれど。
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今までの角田さんの作品と傾向が違いますが、一番重くてそして淡々と生きることが親子3代に受け継がれて行くヒューマンドラマというのかな。
良作です。
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生きるために逃げることは悪い事ではない。でも、生きる事から逃げてはいけないよ。
田舎の家族がいやで、満州に来た二人と、徴兵から逃げる泰造と、終戦で満州から逃げる二人と、新宿に住み着いた二人。そこ翡翠飯店に田舎の家族がいやで逃げ込んで来た繁子と、逆に藤代家から逃げ出す今日子と。
いろいろな人がこの物語のかでは逃げるんだけど、そりゃやっぱり生きる事から逃げようとする人もいる。そういう人を責めることなく登場させている。
日本の年間の自殺者が3万人なのは将来が見えないからなのか、とかそういったことに触れいているわけではないんだけど、後半になってくるとそんなことも考えさせられる。
面白かったです。
さらに詳しいレビューはブログで…
http://pinvill.cocolog-nifty.com/daybooks/2011/05/post-1abc.html
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家族をテーマにした作品だけど、前2作に比べるとドラマティックなことはほとんど起こらないし、謎と言えるほどのものもない。
家族の体を成していない様にも見える個人主義的な繋がりの薄い家族。それは、戦争を経て帰る場所を失った(捨てた)祖父母が築いた、新しい家族であるがゆえの根っこの無さゆえか。3世代目の良嗣が、祖父の死と祖母の変化から、家族が持っていた繋がりを発見する物語。
色々な視点から家族の形を模索する中の1作としておもしろかった。
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『八日目の蝉』、『ひそやかな花園』についで、家族を問う作品。第二次世界大戦の時代からスタートする物語だが、著者らしく、戦争を生き延びた必死さよりもみっともなさや恥ずかしさに焦点を当てて、時代という下駄を履かせないところが小気味いい。
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謎多き祖父の戸籍──祖母の予期せぬ“帰郷”から隠された過去への旅が始まった。満州、そして新宿。熱く胸に迫る翡翠飯店三代記。
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祖父の死によって翡翠飯店の三代それぞれの胸に去来するものがあった。自分の家は他所の家族とはなにかが違う、と思い続けていた孫の良嗣は、祖母を戦時中そこで暮らし祖父ともそこで知り合ったという新京(現在の長春)に連れて行くのだった。祖父と祖母が若かった時代の混沌とした日々の暮らしと、長い時間を隔てて再び彼の地を訪れた現在の祖母の様子が交互に描かれているのが胸を衝かれる心地にさせる。行動を共にしている良嗣が祖母の姿の遥か向こうの過去の時間を共に見ているようにも思われる。
生きるために逃げるしかなかった祖父母の、なかったことにできなかったからいまここにいる、という思いが胸に重い。貪るようにページを捲らせる一冊である。