紙の本
そしてわたしたちは空き地へ向かう
2010/12/23 15:09
6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:kc1027 - この投稿者のレビュー一覧を見る
わたしたちは日々の生活の中で、必ずしも最安値のものばかりを
購入しているわけではない。人それぞれの「価値観」に応じて、
人それぞれの選択を行っている。では、地方や国家といった共同体の
一員としては果たしてどうだろう。人口が減少する高齢社会では
「価値観を伴う選択」がひとりひとりに求められる。それはつまり、
貨幣的価値以外の価値の選択を否が応にも求められるということである。
本書は、元大蔵省にして人口動態分析の泰斗である著者の最新作。
現在進行形の人口減少時代をどう生きるのか、という遠大で深遠な
テーマを大都市経済という切り口で語り尽くしてくれている。
その口上は今回も鮮やかで、人口動態に基づく今後の大都市の推移予測は
経済学という学問の使い方を学ぶにも最適で、すでに起こりつつある
未来を数値とグラフでこれでもかというほど提示されると、自然と
覚悟まで備わってきそうなほどだ。
その未来とはズバリ、急速な高齢化に伴う大都市の経済的衰退である。
しかも延々と続くものとして。それがどれだけ避けがたいことなのかが
本書では一貫して語られる。大都市の経済に限っていえば、本書の
カバーのように、はっきりと暗いのだ。
でも、理論書であるにも関わらず、決して明るくはない未来を語って
いるにも関わらず、本書の「文体」から感じ取れるのは、そこまで想定
してしまえばあとは実践あるのみ、というような空気だ。
著者が主張するこれからの大都市に必要なものは「人間力」と「国際化」。
人間力とはいかにも曖昧だが、いっとき流行った「老人力」のように、
力任せのイケイケのパワーというよりも、多くの老人が集まる乾いた
都市で、それでもしなやかに生きる術を身に付けた先進国の大人の
処世術のようなものと理解した。
今後この国は先進国の中でもダントツに近い高齢社会として、
共同体の経済的衰退を日常としながら孤高の道を歩むことになる。
大都市は地方都市よりもさらに急激な衰退ギャップに見舞われる。
それは必ずしも個人の所得水準とイコールではないのだが、終身雇用・
年功序列のような右肩上がりの人生モデルはすでに遠い過去の夢だ。
そこで求められる貨幣的価値以外の豊かさにも、万人のコンセンサスを
得られるような解答は、きっとない。
著者が最後に問いかけるのは、「空き地」の重要性だ。
ただ空いている場所になんとなく人が集い、語らう。
レストランに行けないなら、ピクニック。
テーマパークに行けないなら、公園で絵を描く。
はたまた、1日中公園で読書。
穏やかな日常を創り上げるささやかな場所。
それを休日に探したりすれば、そんな時間はすでに、
ひとつの価値だ。
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人口減少社会がもたらす各種の弊害について詳述し、日本の途上国型のビジネスモデルの転換を主張している本。
少子高齢化を危惧する内容の本は多いが、高齢化を都会と地方の対比から論じている点は興味深かった。また、日本の国際競争力の低さは、日本の「ライセンス生産」と「地方の存在」のおかげであると著者は述べている。国際競争力の高いスウェーデン関係の本も読むと、知識の幅が広がってよいと思う。
「増税は不要」など極論も散見されたが、著者独自の視点が単純におもしろいと感じた。
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(2011/1/18読了)地方の衰退と言われるが、実際は「東京圏では30年後には高齢者数が75%も増加する、一方島根県ではたった3%の増加に過ぎない」→高齢者が75%増加するということは介護サービスも75%増やさないといけない・・・そんなの財源どうするねん、厳しいのは実は東京、というハナシ。しかし人口問題にフォーカスした書と思ってたら、「世界の産業用ロボットの3分の1以上が日本にある、日本は機械化が過剰」とかいう製造業の話なんかもあって不思議な本じゃった。
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「人口減少経済の新しい公式」の著者である松谷明彦氏の書く、新著です。総人口減少・高齢化・労働力人口の減少が大都市にどう影響を与えるかを書いた本です。
前著でも、「都会は人を集める。若くて活気がある、と思われているがそこに落とし穴がある。今若い、ということはこれから急速に老化することを意味するからだ」と書いています。
この本では、日本の主要都市別の概観を期待したのですがそこまでの分析はありませんでした。
わが札幌で言うと、2005年の札幌市の人口は188万人で65歳以上の人口の割合は17%なものが2035年には人口が178万人に減るのに対し、65歳以上人口は32%に跳ね上がると予想されています。実数では同時期に32万人だった札幌の65歳以上人口が60万人を超えると予想されています。
また北海道の中で札幌以外の市町村については、今でも高齢化率が高く、これらの年代の方が亡くなっていくことで人口減少に拍車がかかります。しかしそれは介護負担が少ないことやこれ以上労働力人口はあまり減らないことを意味していますので経済の維持と言うことに関してこれから先はあまり影響を受けないのではないかと思います。
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日本経済や日本の都市経済に関心のあるかたにオススメします。
日本の人口減少は今後地方部以上に都市部で大きな影響を及ぼすことを示しており、高齢化率増加率・生産年齢人口減少率・若年生産年齢人口減少率等は、すべて都市部で歴史上経験したことのないレベルに突入します。
地方部では相対的に人口も減少していくため、人口に係る公共サービス需要は減少傾向になると著者は言います。それに対して、都市部では、人口は減少しないまま高齢化率が増加することが問題だと指摘しています。よって、今後運営が苦しいのは地方部ではなく都市部であると言います(ただし、交付税の原資は現状都市部が稼いでおり、都市部が苦しくなれば必然的に地方部へのしわ寄せも来ると若生は考えます)。
その中で、GDPの大きさのみを単純に追い求めるのは得策ではなく(例えば、移民の受入等)、まずは現在の国債・地方債をすべて永久公債で凍結してしまうことを提言します。今後の医療費・年金等の増加は、一定の自己責任を伴う形で、異なる仕組みの導入を提言します。
移民の受入等では、日本は戦後に産児制限を行ったことが大きく影響し、恒常的にある世代のみが減少するという特有の人口ピラミッドは解消されません。そのため、人口が減少しても、一人あたりGDPを落とさないように、労働力率と労働生産性の向上を図る必要があると言います。
根本系に今の日本企業の利益率の低下は行き過ぎた機械化によるものだとし、商品を高付加価値化し、機械と人間のベストミックスをはからなければ、利益率の向上は見込みにくいと指摘します。
そのためには、大都市では「人間力」と「国際化」が必要だと説きます。人間力とは、伝統芸能等で示されるような職人力とその職人力の発露としての高付加価値製品を生み出すこと、また国際化は他国の企業等が日本でさらに活動しやすくする市場開放が求められると言います。日本の企業と欧米の企業・アジアの企業が対等に勝負するときに、ようやくイノベーティブな商品やサービスが生まれると言います。その土壌としての大都市であり、大都市は、「人間力」と「国際化」の双方を活用しなければ、労働力の活用先を失うことになりかねません。
大都市の向かう大きな産業の方向性としてはおおむね同意見ですが、永久債権などが実現可能かどうかはかなり難しいところがあると思います。ただし、様々な日本経済・都市経済を見る視点が盛り込まれており、この分野に興味のあるかたはぜひ御覧になってみてはいかがでしょうか。
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戦後日本がとってきた方針が米国生産システムの文字どおりの「直輸入」。それを安価な労働力で大量生産して廉価で売る。労働力が安くないとできないビジネスモデル。安価な労働力が減ってきたときにとった方針が機械化。もっとおさえるために安価な労働力を入れる??そもそも、そういう発展途上国モデルはもう続かない。そのために生産力を上げるには「徹底した資本自由化以外にはない」。。それはそうだはと思うが。。時間かかるな。。
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人口が減少していく中で、これからどうすべきかが明確に述べられています。この前、著者の松谷先生のお話しを聞く機会があったのですが、全く同じ内容をしゃべっていましたね。
7~8割が分析データで、2~3割が今後のあるべき姿について。先生イチオシは、公共賃貸住宅をつくること。ただ、正確な数字をはじき出しているわけではないので、私はこの実現性についてはギモンです。
斬新なのは老人が働かなくていい社会をつくるべきという主張。かくいう先生もover60にてばりばり現役の人です。
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日本の生産年齢人口は、今後40年で3000万人減ります。
これが、今後の社会に与える影響は、一体どれほどのものか?
今、日本が陥っている様々な混乱の要因の一つは、
この労働者群が、半世紀に渡って、確実に減ることです。
戦後45年~85年の間、日本のそれは4000万人増えました。
今、自分達が住む社会は、労働力が年々増えていくことを前提として、
作られた社会です。
よって、これからの日本には今の社会システムは、
全く合わない構造を持っています。
この20年間、日本はグローバル進出に失敗しました。
かつての面影は、今の日本企業にありません。
どんな企業でも、1年後残っているとは言えなくなりました。
また、この期間、日本企業は、徹底的なリストラを行い、
人件費を抑えるために、労働形態を正規と非正規に分けるようになりました。
まるで、労働者を階層化しようとしている感じです。
現在、働いている人の4割以上は非正規に分類されています。
同じ仕事をしているのに、
結果年収は正規雇用の半分も満たないという状況に陥っています。
普通の民主国家なら、暴動があちこちで起こっているはずです。
この20年の結果を見ると、GDPは以前とほとんど変わっておらず、
80年代から15年までの労働生産性の上昇率も世界126位になっています。
また、家計消費は94年と比べて140万以上下がってます。
多くの人が感じていますが、
誰もが一応豊かになっていった「以前の日本」は、
もうどこにもありません。
「自己責任」のもとに、経済格差や希望格差が、
日本を包みこんでいます。自己責任という罰は、
自分の行った行為の責任は、自分でとることを意味していますが、
社会・経済環境によって、自分の未来がかなり左右される今の日本で、
この言葉は、死の宣告に近いモノだと思います。
著者は、この著書で、財政面やマクロ経済面でいろんな提言を行っています。
日本のリーダー達は、日本の全ての人々が安心して幸福に暮らせる社会とは何かを、
改めて問い、その社会を作るために、今何をすべきか、その答えや方向性を、
実行しながら、考えよ言っています。
残念ながら、現状の政治や経済の状態を見ると、
恐らく日本がこれから辿る道は、
さらに険しいものとなるでしょう。
少なくとも、私たちは、政治家や経営者に期待はしない方がよいでしょう。
選挙に行くのは、社会参加の一環としてよいと思いますが、
もうわかっていることは、政治家は、国をよく「できない」
ということです。
個人がなすべきことは、所属や組織に頼ることはせず、
また、安定さや不安定さに一喜一憂するのではなく、
自分の人的資本を恒久的に上げ続けるために、
学習能力を高め続ける、「特別な努力」と「良い習慣」が必要になるでしょう。
今も、日本では、階層化とも言っていいような、
状況が発生しています。
おそらく��1割は豊か、残りは貧乏という状況が、
日本に遠からず訪れるはずです。
まとまれば大きな力になりますが、日本人は、もうまとまることも、
助け合うことも、できなくなりつつあります。
それは、社会資源(お金になるもの)が、どんどん減っているからです。
経済的な余裕がなくなっています。
この論理は、「以前の論理」です。
つまり、金がないと何もできないという。
本当は、この論理を超越しなければ、いけませんが、
私たちは、未だに、その論理に思考を支配され、がんじがらめになっています。
そのために個人の学習能力の向上が生涯にわたって必要となるでしょう。
自ら主体的に学んだ知識を使いこなし、そして、自分自身が何が足りないか、
その知識や情報が何かを判断でき、
自分で選択した能力を、確実に獲得できる能力が必要になります。
この能力を高めることを、良しとして、
それが自身の人生を形成する上で、
必要な不可欠なものとなるはずです。
つまり、これは、国や企業や社会には「期待しない」、
独立した個人の態度が以前よりも重要になります。
現在、毎年80万人近く、生産年齢人口が減っています。
これは、愛知県の人口に匹敵します。
これが、消費市場に与える影響は、甚大なものです。
一般的に高齢者になると消費が2割以上減ります。
この点だけみても、企業経営に大きな影響を及ぼすはずです。
高齢化率が一番激しいのは、東京です。
よって、東京がこの人口減少時代の爆心地となります。
本書は、その爆心地がどう変化するのか、また、どう変化させなければいけないのか、
マクロ統計を駆使して、説明しています。
「どう」を知りたい人は、非常に参考になると思います。
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これからの経済、財政、高齢者施策、個人の生き方には、対症療法ではなく価値観を含む大転換が必要であるとデータを示して繰り返し述べている。
財政については小さな政府(財政)、増税不要を主張している。元利償還費が行政サービスを圧迫するのは確かで財政赤字を増やすべきでないのはもっともだと思う。が、共助により福祉を縮小などの方策には具体性を感じなかった。実際どうすればいいのだろう?
年金については「破綻している」「税投入は誤り」派。(この点は色々な考え方があるが、例えば権丈善一さんの本ではこの手の話は全否定されている。両方の視点を知ることも重要かと。)
著者は日本企業(日本経済)は新興国のビジネスモデルだとして生産年齢人口減少と合わせて経済縮小の根拠としているが、全部が全部ではないと思うので具体的な業種やそうした企業の割合が気になった。