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ブルーノ・ムナーリかたちの不思議 1 正方形 みんなのレビュー
- ブルーノ・ムナーリ (著), 阿部 雅世 (訳)
- 税込価格:1,870円(17pt)
- 出版社:平凡社
- 発行年月:2010.11
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紙の本
20世紀イタリアが生んだデザイン、絵本作り、装丁、造型のマエストロであるブルーノ・ムナーリが編んだ図鑑。ファイルされた人類の古今東西「正方形」の知恵の数々には、「折り紙」に「畳(2枚の正方形)」といった日本代表もあり。デザイン、建築関係者などに長らく復刊を待ち望まれていた『円+正方形 その発見と展開』を含む全3巻シリーズの第1巻。
2010/12/08 11:14
4人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:中村びわ - この投稿者のレビュー一覧を見る
「まる・さんかく・しかく」と言えば、東京丸の内にある出光美術館収蔵の江戸時代の禅師・仙がく(「崖」から「山」を取った字)の書が有名だ。書と言うよりは水墨画。どこかお茶目な調子で書かれた闊達な線は、初めの「まる」では濃く、「さんかく」ではそれより少し薄く、「しかく」は、かすれ気味に引かれている。
たっぷりふくんだ墨で、ひと息のうちに書かれたであろう三つの図形は、物の元となる形を表す。そして、それだけではなく、「まるく収まる」「角が立つ」というように事のありようも想起させる。人柄なんぞも……。
ムナーリは親日家で、瀧口修造や武満徹といった感性の鋭すぎる友人もいたようだが、誰かに案内されて、仙がくのこの作品は見たことがあっただろうか。見たなら、きっと気に入ったのではないかと思える。
仙がくの「まる・さんかく・しかく」は抽象的で、見る者の想像をいろいろにかき立てる。一方、20世紀イタリアが生んだダ・ヴィンチのようなマルチ・アーティスト(もう少し何かいい表現はないかな)、ブルーノ・ムナーリによる「まる・さんかく・しかく」は、とても特異な現物の図鑑だ。
各巻の帯に付された説明によれば「古今東西のデザインの知恵がちりばめられた、かたちの基本図鑑」である。ムナーリのアーティスト魂が想像力をかき立てながら集めた、人類のグラフィックに対する敬意と驚嘆のアーカイヴになっている。
厳密に言えば、グラフィックアートや意匠だけではなく、概念や、人間が自然界に発見した形なども含む。
今回「ブルーノ・ムナーリ かたちの不思議」シリーズとして『正方形』『円形』『三角形』の全3巻で出されたうちの『正方形』『円形』は、1971年に建築家・上松正直氏の翻訳、函入ソフトカバー2冊組の体裁で『円+正方形 その発見と展開』として美術出版社より刊行された。
それが長らく在庫切れの状態で、古書市場に出ると、かなりの高値がつけられる幻の本と化していたようである。イタリア本国で『正方形』『円形』が1960年代前半に出されたのに遅れ、『三角形』は1976年に出版された。3巻とも、原書でも入手不能の状態が続いていたところ、2005年に復刻版が出た。それをヨーロッパで活躍する建築家でありデザイナーでもある阿部雅世氏が訳し、ここに全巻の日本語版がそろったというわけである。
どの巻も、まあすごい図鑑だ。
確かに、建築やデザインの仕事をする人、勉強をする人ならば、いつも手元に置いておきたい。アイデアをひねり出さなくてはならなくなった場合に、脳を活性化するための刺激を、ここから得られそうだから……。
しかし、クリエイターたちだけに独占させておく手はない。数学者や教育者、哲学者に歴史家はじめ、仕事で発想の転換をしたい人すべて、日常に何か新しく素敵なことを取り入れたいという生活者すべてが、眺めれば何らかの刺激を受けられる。
ただ、万人向けとは言い難いものがあるのも確かで、並べられた項目の面白さを満喫したいのならば、教養の土台と知的関心が多少は求められる内容となっている。項目の一つひとつには、キャプションがついていて、それがどういうものであるのかという説明はついているけれども……。
本巻『正方形』は、「アゴラ」から始まる。イタリア語のアルファベット順に項目は並んでいる。アゴラは世界史の授業で多くの人が学んだように、古代ギリシャの都市の広場である。その説明に、エフェソスにあったアゴラの正方形の平面図が添えられている。
写真であったり図版であったり、絵であったり詩であったり……と、項目によって添えられたビジュアルは違っている。各ページに1項目と限らず、見開きにいくつかずつの項目の説明がされているところもあり、そのレイアウトがまた見事だ。
自分が知っている正方形よりもはるかに多くの正方形がここでは提示され、「これも正方形なのか」という発見がある。よくも、これだけ多彩な正方形を集めてきたものだ。
日本の項目もいくつか見られる。「そうであろう。日本の文化や伝統の美にはリスペクトしてもらわなくてはならない」と、何やら誇らしい。
特に注目したい項目の一つは、「GIOCATTORI GIAPPONESI日本の折り紙」である。被爆症で亡くなった佐々木禎子さんを偲ぶ歌「INORI」が話題になっているが(佐々木さんについては絵本や児童書も出ているのだよ)、禎子さんも折り続けたツルの見取り図が紹介されている。
そして、正方形を2枚合わせた「TATAMI畳」が取り上げられている。
「部屋は、畳の枚数をもとに計画され、日本人は、畳の枚数を言われるだけで、その部屋の大きさやプロポーションを思い浮かべることができます。家全体の広さも、すべて畳の大きさを基準にして作られているので、物差しを使わなくても、家を設計することができます。」(P74)
最近は分譲マンションのチラシで「6畳」ではなく「6J」という表記があり、「なんじ(J)ゃい」と思わせられるけれど、20世紀のアーカイブになりつつある日本人の共通感覚――匠の技とともに何とか残していきたい。
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