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ブルーノ・ムナーリかたちの不思議 2 円形 みんなのレビュー
- ブルーノ・ムナーリ (著), 阿部 雅世 (訳)
- 税込価格:1,870円(17pt)
- 出版社:平凡社
- 発行年月:2010.11
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紙の本
古今東西の「まる・さんかく・しかく」を集めたブルーノ・ムナーリの「かたちの不思議」シリーズの第2巻。日本語版装丁の秀逸さについて書いた後、ムナーリがこのシリーズで何を成し得たのかについても考えてみた。
2010/12/09 15:31
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:中村びわ - この投稿者のレビュー一覧を見る
「ブルーノ・ムナーリ かたちの不思議」シリーズの装丁の美しさについても、ちょっと書いておかずにはいられない。
書影で見れば、『正方形』は白地に黒い正方形、『円形』は白地に黒丸、『三角形』は白地に黒い正三角形がデザインされているのが確認できるだけである。しかし、このカバーを外すと、『正方形』は濃青、『円形』は赤、『三角形』は黄色の本体が現れる。本体の表紙にも、それぞれに正方形、円、正三角形が白く、色つき洋紙にノセられて印刷されている。
そして、シリーズの統一感を圧倒的にしゃれたものに仕上げているのが、帯のデザインである。この帯は、図書館用に装備されるとき、外されてしまいやしないか。外されてしまうなら、とても残念だ。
帯はちょうど、本の高さ半分の幅である。その幅広の帯の上の部分に、細いリボン状に、各巻のアイコンとなる色が印刷されている。それによって、『正方形』では、真ん中の黒い正方形をよぎる青いリボンが走り、『円形』では黒丸に赤いリボンが走り、『三角形』では黒正三角形に黄色のリボンが走っている。
だから、本を置いて、真上からでなく、ちょっと角度をつけて眺めると、本の本体の青と、帯に印刷されたリボン状の青が照応し合うという具合に、きれいなのである。青、赤、黄は落ち着いた色合いで、シックな遊び心が感じられる。
何で、くどく装丁の説明をするのか。それは、日本語版なりの装丁をするということが、おそらくとてもハードルが高くて勇気のいる作業だったろうと推測できるからだ。
著者のブルーノ・ムナーリ自身が装丁も手掛けるアートディレクションの巨匠だったわけである。おまけに、どこの国かというと、デザイン王国イタリアなのだ。イタリア人に見せたときに、日本語版がダサかったら立つ瀬がない。
スタイリッシュにクールに行くという手もあったろうけれど、青、赤、黄をシックにうまく使ったことでムナーリの人柄を偲ばせるニュアンスが出せた点、そして、カバーを外すと華やぐというのは、着物と半襟・長じゅばんのような関係、つまり隠れた部分を派手にする粋な日本的センスを主張できたという点で、高く評価できるものではないだろうか。
ムナーリで「円」と言えば、須賀敦子さんが訳した絵本『太陽をかこう』で日の丸が使われていたことを思い出す。絵本『きりのなかのサーカス』でも、円形は表紙から効果的に使われていた(『きりのなかのサーカス』は、雑誌「イラストレーション2010年5月号」別冊付録で、デザイナーや画家など3人が好きな絵本として挙げていた。良い仕事をしている人たちが、いかにムナーリに刺激されているのかが分かる)。
その円という形について、本書の前書きで次のような説明がされている。「正方形が、人間と人間が作る建造物や構造のバランス、記号や文字などに関わりの深い形であるのに対し、円形は、もっと超人的で神々しい、神に関わる形です。まんまるは、古代から今日に至るまで、始まりも終わりもない、永遠性を表す印です。」(P3)
以下に続く文章も丸ごとここに書き写してしまいたいぐらい、円形の特徴について含蓄のある説明がされている。
情けないことに私は、絵本作家としてのブルーノ・ムナーリしか知らなかったが、本シリーズを眺めていると、ムナーリがいかに博識で、その資質により、かたちについての洞察をとれだけ深く掘り下げていったのかに驚かされる。他の人には真似できないような、あの個性強烈な絵本作品群の根っこに、このように滋味豊かな仕事があったのだ。
『太陽をかこう』に登場した日の丸は、1964年に出された本書『円形』でも、すでに「BANDIERA GIAPPONESE日本の旗」として取り上げられている。他にも日本絡みでは、アマテラスが持つ円盤や武満徹による「ピアニストのためのコロナ」という楽譜、扇子などが含まれている。
手に取る人の興味関心により感じ入るポイントは様々であろうが、私が「ああ、そうか」と気づかされ、連想を進めていけたのは「円陣」である。
本書にはいくつかの円陣が紹介されている。証券取引所のブースで見られる円陣、大道芸人を見に集まった人々、そして、踊りを神に捧げるところなのか、輪になって歩く人々。
他にも、大切なことを決める話し合いで円座になったり、乾杯をするのに輪を作ったり、日本のわらべ歌遊びでは「まるくなれ、まるくなれ、一二の三」と歌って手つなぎ遊びを始めたりという場合が思いつく。
丸くなるように声をかけた人が中心に残るようなこともあろうが、人が作る丸いかたちは、誰か一人が前に立ってリーダーを務めるのとは違い、民主的で、輪を囲んだ他の人々との共通の思いを尊重しなければ続かない形である。
ほんのわずかに切れて完璧性を欠いた円は「病円」と言うという指摘が、本の前書きにあり、本文の項目の中でも紹介されている。
となれば、丸くて赤い太陽の下に作られる人の丸い輪は、何か理想的な
状態を表しているのか。丸くなって何かに夢中になる、丸くなって喜び合う、踊り合う、歌い合う、理解を深め合う……。
しかし、理想や美が円に求められただけではなく、矢を射る的として、魔法の儀式を執り行う場としても円は象徴性を帯びる。円で囲い込まれた場には、必ずしも前向きではない力も溜め込まれるのである。
ムナーリは、この図鑑で古今東西の様々な円形を私たちに見せてくれる。それを手がかりとして、読者は自分なりの円を思い描く。思い描く時に気づかされる自分の趣味、こだわり、価値観、思考パターン、想像力といった資質――それらには「まる・さんかく・しかく」といった具象的なかたちはない。けれども、明らかに一人ひとりに個別の「かたち」だと意識できるスタイルがある。
もののかたちの不思議を認識しようという人間主体そのものが、不思議ななかたちを内在しているのだ。それを考えるとき、例えば確かに円は丸いものなのだが、誰にとっても同じ丸なのではなく、それぞれに形容できる丸なのだと言えよう。
このシリーズが単に丸いデザインのものを集めた図鑑なのではなく、丸を様々にデザイン処理した作品を集めた図録なのでもなく、あらゆる時代、あらゆる場所に発見できる円を並べたというのは、詰まるところ、デザインを通してムナーリが人間の多様性と多様性がもたらす可能性について、いかに深い観察を成し得たのかということも言えそうだ。
デザインとは何かを述べるに当たり、創造とは何なのかに触れざるを得ず、創造とは何かを説明しようとしたとき、意志を持つ人間主体についても考えざるを得ない。
遊び心や飛躍的な想像力といった形容だけでムナーリの業績は紹介し切れないのだろう。
デザインは文明を雄弁に物語る――それを教えてくれるのが、この企画シリーズなのである。
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