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ブルーノ・ムナーリかたちの不思議 3 三角形 みんなのレビュー
- ブルーノ・ムナーリ (著), 阿部 雅世 (訳)
- 税込価格:1,870円(17pt)
- 出版社:平凡社
- 発行年月:2010.11
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紙の本
正方形や円形に比べると、どこか不思議な雰囲気をたたえた正三角形――そのかたちに引きつけられ、そのかたちにこだわった古今東西のクリエイターが残した人類の遺産の数々。写真やイラスト、図版、そして文芸で表される「安定」「揺るぎなさ」のシンボルについて考察できる図鑑。
2010/12/13 17:18
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:中村びわ - この投稿者のレビュー一覧を見る
日中米の三国関係が正三角形にたとえられ、物議をかもしたことがあった。良心的に解釈すれば、それは三国の力関係が均等であれば良いという表現なのではなく、正三角形の安定性や揺るぎなさという特徴を借りての表現だったのかもしれないとも取れる。
ブルーノ・ムナーリは、この本の前書きで正三角形について次のように述べている。
「正三角形というのは、数ある三角形の中で、最も安定した不動の形です。他の三角形は、辺の長さを変えることで、いくらでもその姿を変えることができますが、三辺の長さが等しく、また三つの角の角度も等しい、という正三角形の構造は、絶対に動かすことができません。」(P3)
安定した不動のかたち、正三角形で私がすぐに思い浮かべたのは、楽器のトライアングル、そして標識やマーク的なものである。いろいろな正三角形を写真やイラスト、図版などを添えてアルファベット順に紹介するこの図鑑には、トライアングルも、マーク、標識も含まれている。
正三角形を二つ合わせれば、ひし形。そのひし形を三つ組み合わせた三菱のトレードマークも出ている。三菱のマークは家紋をヒントに作られた由だが、日本の伝統的家紋の中から、正三角形の型でデザインされたものもいくつか取り上げられている。「三つナントカ」という呼び名の家紋が少なくないが、裾広がりは富士のような山を連想させ、どっしりと構える印象を与える。
世界の中には、もう一つ忘れてはならないマークがある。実は楽器のトライアングルと同じぐらい素早く私の頭の中に浮かんだものだ。
ヘキサゴン、つまり六芒星と呼ばれるダビデの星の印である。これはイスラエルの国旗にも使われている。二つの正三角形を重ね合わせたマークで、二つの異なるエネルギーの均衡や調和を表しているものらしいが、本書には取り上げられていなかった。
このマークは、まじないや錬金術にも用いられるが、ナチスドイツによる
ユダヤ人狩りやホロコーストの歴史において、排斥されるべき人々のマークとしても利用された。イタリアにおいても、ファシズムの歴史は重い記憶であろう。この本が出された1976年という、まだ戦争の記憶が生々しい時代に、何もそのマークをわざわざ取り上げることはないという判断があったのだろうか。
本の帯には「ムナーリが開けた さんかくの穴から デザインの世界をのぞいてみよう。」とあり、正三角形という図形がのぞき口だというのに、どうしても私の場合、社会や文化の方へ話が流れて行ってしまう。
正三角形は昔、幾何の問題で、さんざんに見せられたかたちだ。正解ではないから「まる」はもらえないけれども、ある程度問題を解いたから「さんかく」だけはもらえたということもあった。
部分点として「さんかく」をつけるというのは、「はなまる」と同じように日本の教育ならではの採点マークなのだろうか。よく考えると、半分まるだと言うなら「半円」でもいいわけだ、月が欠けたように……。それを「さんかく」にし始めたのは、いったいどういう人であったのだろう。
装飾や工芸、芸術の基本、建築の構造など、造型の成果物は数多く掲載されている。バックミンスター・フラーにパウル・クレー、ル・コルビュジエに亀倉雄策も……。
伝統工芸の名もなき職人が「さんかく」というかたちに魅せられ、後代までつづく技をふるって物づくりをしたのと同様に、安定感や揺るぎなさはあっても、正方形や円形に比べれば何か不思議な雰囲気をたたえた正三角形というかたちに惹かれ、こだわって物を創造するクリエイターが多いということなのだろう。
「Z」で項目が閉じられた後、『正方形』『円形』の図鑑にはなかった、ことばによる作品のおまけもついていた。
一つめは、邦訳も出たアボットのSF小説『フラットランド』のあらすじで、これは図形をキャラクターに書いた小説らしい。女性が直線でできていて、身分の低い人々は二等辺三角形だが、中産階級や資産家が正三角形というフラットランドでの物語が紹介されている。
二等辺三角形の親から正三角形が生まれるという奇跡のような出来事があると、その赤ん坊が正三角形の階級に受け入れられるようにしなくてはならないというのだ。
この興味深い小説の他、ゾシチェンコというロシアの小説家の作品集『モスクワ物語』に所収された「散々な夜」も紹介されている。オーケストラの片隅にいるトライアングル奏者の一夜の物思いが書かれたものらしい。
正方形、円形ときたから正三角形であろうが、こういう人の心に引っかかる文芸作品を、最後の最後にもってきたムナーリの心の内はどういうものだったのだろうか。
かたちがかもし出すイメージが、受け手の文化的背景・社会的背景に左右されるという事実を確認することで、それとは逆のベクトルについても注意を喚起したのだろうか。
すなわち、デザインや造型が文化や社会にもたらす影響を考えつつ、自分たちは、しかと物づくりをしていくべきなのだという意思である。
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