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(2011.03.02読了)(2011.02.16借入)
2010年秋、ノーベル化学賞がR.ヘック、根岸英一、鈴木章の三氏に送られました。
授賞理由は、パラジウムを触媒とする「クロスカップリング反応」の開発に貢献したことです。
この本は、「クロスカップリング反応」を中心に鈴木章氏の研究と鈴木章氏について知っていただくために企画された、ということです。
鈴木章氏の業績を分かりやすく解説するとともに、氏の研究業績や経歴を紹介している、と言うことです。
●「鈴木―宮浦クロスカップリング反応」
1979年、「鈴木―宮浦クロスカップリング反応」を発表。
「鈴木―宮浦クロスカップリング反応」が評価されるようになったのは、パリトキシンの全合成に威力を発揮したこと。(1989年~1994年)
特許を取っていなかったので、有機合成の分野でよく使われるようになった。
●触媒(11頁)
触媒とは、反応の進行を促進する役割を果たすだけで、反応の過程で消費されることはありません。
●パラジウム触媒(12頁)
パラジウム触媒によるクロスカップリング反応の分かり易い説明(アニメーション)は、下記のサイトで見ることができます。ぜひご覧ください。
http://costep.hucc.hokudai.ac.jp/channel/anime/
●鈴木章さん
1930年9月12日、北海道勇払郡生まれ、6人兄弟の2番目
1950年、北海道大学入学、数学を学ぶつもりだった
授業で使っていた化学の教科書を読んで、化学に進路を変更
1954年3月、理学部化学科を卒業
大学院で、有機化学教室に所属
1961年10月、合成化学工学科の助教授に
「理学部は、基礎オンリー。工学部では、応用を考えます」
1962年、ブラウン教授が著した「ハイドロボレーショーン」に出会う
「この本が、私の人生を変えた」
ブラン教授に手紙を書き、1963年7月からブラウン教授のもとに留学
1965年3月、帰国、工学部での研究を再開
「有機ホウ素化合物を用いて有機合成を行う新しい分野を切り開こう」と決意
●パラジウム触媒によるクロスカップリング反応の評価(43頁)
最初に投稿した学術雑誌には受理されなかった
・他の金属を用いたクロスカップリングが既にいくつも発表されていた
・他のクロスカップリング反応に比べ、反応が完結するまでにより時間がかかるし、塩基を加えなければいけない
(その後、上記の弱点を克服するための改良を加えた)
改良の結果
・カップリング反応に用いられる物質、有機ホウ素化合物が、空気や水があっても安定である
・室温程度の温和な条件下で反応が進む
・鈴木―宮浦クロスカップリング反応に必要な有機ホウ素化合物を、原料から容易に作り出すことができる
・カップリング反応で使う有機物質に毒性がほとんどない。カップリング反応の結果できる副生成物も、水溶性で無毒です。
・ワンポット合成に利用できる。一連の化学反応を一つの容器内で次々と起こして、一気に最終目標の物質を作り出す、ことができる。
●応用(56頁)
・液晶としての性質を示す有機化合物
・医薬品の製造、血圧降下剤(ロサルタン)
・殺菌剤、ボスカリド(灰色かび病、菌核病に効果がある)
●若者へ(65頁)
「重箱の底をほじくるような仕事ではなく、教科書に載るような仕事をしなさい」
「望みや希望は、人から与えられるものではなく、自分で見つけるもの」
「海外に出なさい」
世界の人たちとの切磋琢磨が大切だというだけでなく、いろいろな考えの人たちとの交流をして自分の世界を広げるべきだ
☆関連図書(既読)
「化学者たちの感動の瞬間」有機合成化学協会編、化学同人、2006.12.25
(2011年3月5日・記)