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回送先:川崎市立中原図書館
ブルデューがコレージュ・ド・フランスを退官するに当たってかねてから考えていた自己総括の単行本化。彼の死後、ブルデューの社会的(と同時にフランス国内の政治力学的な)な影響力が生み出す権力闘争のいいカモになるのではないかという一抹の不安も的中し訴訟沙汰に発展したいわくつきの本でもある。
1960年代、フランス国内に「共和国モデル」という想像の共同体の矛盾点である内地と外地をめぐる分断を象徴付けたアルジェリア戦争を一下士官の立場で経験したブルデューはその後アルジェリアに「棄民」され(彼の学術的なキャリアはアルジェの街のリセから始まった)、内地に帰ってきても内地にはなじめず、その原因を模索し続けてきた人生だったことがうかがえる内容になっている。
ブルデューが終始批判してきたフランス思想界の閉鎖主義(ブルデューの定義するハビトゥスにはあくまでも階級・階層の問題を内包していることを見落とすことはできない)は一定の時間を置いて現在日本でも見られるが、ブルデューの場合(少々お下品な表現許されよ)あるディシプリンの高度なロジックで延々と自慰行為をしておきながら「いや、自分はあくまでも労働者階級のことを思いやる人間です(本当はそんな気はない)」と言い張る中・上流階級の社交場のようなフォーマットへの嫌悪感から生じる批判であることは抑えておく必要があるだろう。
逆説的に言えば、『資本主義のハビトゥス』とともにブルデュー社会学の取っ掛かりとしては最適な一冊。幸い藤原書店はこれまでブルデューの日本語訳された単行本を数多く刊行してきた出版社でもある(ほとんどといってもいいくらいだ)。めくるめく労働者階級のアカデミズムの世界への扉として。