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【レビュー】
大学の刑法総論として、本書を教科書としてぜひ採用していただきたい。本書を読んでから山口先生、前田先生などの著書を読むと絶対いい。司法試験を考えている人は絶対読むべし。間違えやすい個所を上手に指摘してくれている。
【特記事項】
・責任主義について:公職選挙法に定める連座制は、刑罰を科すものではないから責任主義に反することはない。
●罪刑法定主義から構成要件、法益侵害主義から違法性、責任主義から有責が導かれる
・適正な刑罰=刑罰の軽重が犯罪の軽重に比例=法益侵害の軽重及び非難の程度
●欧米では犯人を即時射殺する簡易執行があるので、その場合は死刑にそもそもならない。
●刑の適用:①累犯加重②法律上の減軽③併合罪加重④酌量減軽
●構成要件
・Aは盗んだカードでATMから金を引き出した=窃盗罪。詐欺罪にはならない。あざむいた相手は機械で人ではないから。
・Aは知り合いのBが持っているかばんを欲しくなり、「UFOだ」といって注意をそらした後それを盗った=窃盗罪。詐欺罪にはならない。欺かれた結果としてBは交付したのではないから。
・無銭飲食事例で詐欺罪の既遂となるのは飲食物の提供を受けたとき。
・殺人罪か保護責任者遺棄致死罪になるかは、保護者に殺意があったかどうかで決まる。
・お釣りの間違いに気づいてもしめしめと思って受け取った場合、不作為の詐欺罪が成立する。
・もともと重症でわずかな事故衝撃で死んだなら殺人罪でもよい。大した怪我ではないが衝突事故で死んだ場合は殺人未遂にとどまると思われる。この場合相手に自動車運転過失致死罪が問われる
・不作為の殺人で「十中八九」という判決文があるが、これは80~90パーセント程度因果関係が証明されればOKという趣旨ではない。
●過失犯は結果が起こって初めて不注意の原因を問われる。
・前車が轢いて後者も轢いてどちらが死因となったかわからない場合、前車には自動車運転過失致死、後車には自動車運転過失致傷のみ成立。前車には、後車がさらに轢くことは通常予想できるから。
●違法性
・過剰防衛成立のためには、事実として急迫不正の侵害があるべき。
・誤想防衛は故意が阻却される。誤想に過失があれば過失犯が成立する。
・誤想過剰防衛:過剰の認識があれば故意犯となる。
●責任
・心は神が司ると考えられていた。
・「精神の障害」なので、過大なストレスとか体調が悪かったはだめ。
・統合失調症でも完全責任能力を認めることがある。
・薬物中毒は少なくとも限定責任能力を認める傾向にある。
・複雑酩酊は限定責任、病的酩酊は責任無能力になりうる。
・構成要件的事実の錯誤
①具体的事実の錯誤→法定的附合説
②抽象的事実の錯誤→構成要件的附合説
構成要件を比べ、法定刑が同じなら客観的に犯した法律違反を認め、法定刑に軽重があれば軽いほうの違反を認める。
●責任能力、故意・過失、違法性の意識の可能性、期待可能性
●共犯
・実務において教唆犯の適用はめったになく、たいてい共同共謀正犯��処理されている。
・過失の共同正犯も認められる。
・承継的共同正犯も認められる。
・片面的共同正犯は認められないが、片面的従犯は認められる。ほう助と共同正犯の区別だが、それはほう助の意思かどうかで決まる。しかし近時は実行行為がなくても共謀があるかぎり共同正犯で処理する。つまり窃盗の見張りであっても共謀のあるかぎりは窃盗のほう助ではなく共同正犯とする。もちろん共謀がないかぎりは従犯となる。
●共犯関係からの離脱
・着手未遂・・全員が以後の行為を差し控えれば全員が中止犯
・実行未遂・・全員が結果発生回避行為を行って回避できれば全員が中止犯
→一部はどうなのか。
・実行着手前は、離脱宣言をし、他のものが了承すればよい。
・着手未遂・・他のものの実行を阻止するか結果発生を阻止すべき
・実行未遂・・結果発生を回避すべき。
●罪数論
・併合罪
・科刑上一罪
観念的競合・・1個の行為が2個以上の罪名に触れる行為
酒酔い運転と自動車運転過失致死傷は併合罪
無免許運転とスピード違反は併合罪
無免許運転と酒酔い運転は観念的競合
救護義務違反と報告義務違反は観念的競合
牽連犯
・本来的一罪
1行為1結果である「単純一罪」とは異なり、単純一罪が複数存在するにも関わらず、なお一罪と評価されて1個の罰条のみが適用される場合。
法条競合
①特別関係:業務上横領と横領では業務上横領
②補充関係:建造物以外の放火は建造物の放火が適用できない時のみ
③択一関係:背任も横領も成立するときは横領
④吸収関係:予備→未遂→既遂では順次後の一罪のみ成立。
包括的一罪
複数の行為、結果があるが実質的な一体性のために一罪と評価されること。
例:同一の倉庫から3時間のあいだに3回にわたって窃取した事例。