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湘南の住宅街に、屋根から電信柱の突き出た不思議な家が立っている。
なぜ屋根から電信柱が突き出ているのだろう? その真相を突き止めるべく
家を訪ねてみると、そこには家に負けないくらいに謎めいたミドリさんという
お婆さんが住んでいた…。
ミドリさんのルーツ(北海道開拓の歴史が絡んでいる)を追いながら
カラクリ屋敷の秘密を解き明かしいく、エンタメノンフィクション。
「序章を読んで傑作の誕生を予感した」(佐野眞一氏)、
「ノンフィクションの新しい分野に挑んだ力作」(茂木健一郎氏)
と絶賛された第八回開高健ノンフィクション賞次点作品。
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ネッツ関西/鈴木 遥・編集・ライター
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毎日歩いている通勤や通学時の風景ほど、きちんと認識できていないものはないだろう。たまにちょっとした変化におっと思うことがあったとしても、何日かするとすぐにまたその変化も日常へと変わっていく。
しかし、本書に登場する日常の風景は、すこしばかり格が違う。湘南の閑静な住宅街の中にあるその家は、屋根のど真ん中からコンクリート製の電信柱が天に向かって突き出ているという。おまけに、青い瓦屋根に黄色い扇模様の糖飾り、クリーム色とこげ茶色を貴重とした木の欄干、全て模様の違う窓の鉄柵。住んでいる住人は大正二年生まれの木村ミドリさん。以下、婆さんと呼ぶことにする。
◆本書の目次
プロローグ すべては電信柱からはじまった
第一章 ミドリさんと坂の上の職人屋敷
第二章 原風景への回転扉 ルーツを追う旅 北海道篇
第三章 勇敢な女横綱、厨房に立つ
第四章 森の中の事業団
第五章 電信柱の突き出た家と六尺の大男
第六章 田んぼの蜃気楼 ルーツを追う旅 新潟篇
第七章 ミドリさんと電柱屋敷の住人たち
第八章 からくり部屋の秘密
著者は、高校生の時に偶然この家のそばを通りかかり、その佇まいに衝撃を受ける。思い余った著者は、二年越しで勇気を振り絞り、ついにこの家のチャイムを鳴らす。そして、ここに住んでいる婆さんが、やはり只者ではなかた。建築にやたら詳しくて、家の隅々まで何もかもを知り尽くしている。すっかり婆さんに魅せられた著者は、婆さんのルーツを辿る旅にまで出るはめとなる。
本書は、著者にとっては、高校生の時から追いかけてきた乾坤一擲のテーマであろう。そのせいか、すこし肩に力が入り過ぎているような印象も受ける。しかし、その力み具合が、ひらりひらりとかわしていく婆さんの言動とのコントラストを成して、より一層婆さんの魅力を引き立てている。
そして、北海道の職人パークにルーツを持つ、この婆さんの建築秘話が半端ない。夫婦だけで一月かけて構想を練り、大工は自分でスカウト、鉄筋は錆びるからと木造、一本の材でまかなえる二階建て、日当たり、風通しを考慮した曲がり屋、そのこだわりはディテールの隅々にも行き届いている。
また、その情熱は施工段階になっても変わらない。夫婦のどちらかは、どんな時でも毎日現場へ足を運び、夫婦が見ていないところでは絶対に仕事をさせない。少しでも手を抜くと、すかさず怒鳴り、やり直しをさせる。
餅は餅屋ということわざがあるように、ものづくり大国と言われる日本では、職人に任せておけば良いものが出来るのだという考え方もある。しかし裏を返せば、ものづくり大国の本質は、プロダクトアウトの発想によるところが大きく、万人にとっての良きもの、平均点の高さというところに現れるものだったりする。このやり方では、イノベーションはなかなか起こらないだろう。
家は買うのではなく、作るもの。その強い当事者意識のもと、オーナーとしてどこまでも口を出す。その口出しが芯を食っている限り、人はついてくる。だからこそ、モノづくりの本質を見抜く眼は、婆さ���にとって何よりも大切なものであったのだ。
ちなみに、この屋敷、室内もカラクリだらけである。裏口にあるベニヤ板の隠しドア、通路代わりに使える半二階、隣の部屋へ続く秘密の扉、全ていざという時のためのものであるそうだ。今の日本は平和だけど、もし戦争がはじまったらどうやって身を守るのか、そんなことまで考えて、さまざまなカラクリをしかけていたそうだ。その婆さん、今回の震災を受けて、一体何を思っただろうか。
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電柱柱が建っている家に住む、ミドリさんという女性。高校時代にその家に魅せられた著者が、ミドリさんと家にまつわる謎を解いていく。
著者が取り憑かれた、彼女が住んでいる家も住人たちも魅力的でわくわくする。
まずミドリさん(現在97歳、インタビュー時93歳)がすごく素敵。一本筋が通っていて、ユーモアがあって、建築が大好きで、人とおしゃべりするのが好きな姿が、文章を通して伝わってくる。会ってみたい!と思わされる。
そして彼女の家はからくり屋敷というタイトル通り、ひどく風変わり。本当にからくりが詰まっているのだ。そのからくりにも彼女と、彼女の先祖たちが受け継いできた信念があるということを、著者は彼女の生家や先祖がいた土地への取材を通して解き明かしていく。その過程がおもしろい。
人と建物への愛にあふれた一冊。
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日本の庶民史の一端がみえる。自宅近くにある家なので、親近感をもって読了。日本人は強いはず、と思った。
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平塚にある屋根から電信柱の突き出たおうち。筆者はそのおうちに建築的に興味を見いだし、住人(管理人)かつ設計者のミドリさんというおばあさんと交流を始めます。なぜそんな家を設計したのか、ミドリさんとは何者なのか、そしてその家の全貌は・・・?筆者はひたすら飽くなく探求。探求の旅は、ミドリさんの地元北海道のみならず、ご先祖さまの住む新潟にまで及びます。見た目がかわったおうちに興味をもったことから始まった膨大な探索。人にも建物にも歴史あり、だと感じました。おうちのカラクリの仕掛けがおもしろいので、もう少し写真や図版があるとよいと思いました。
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90歳を越えたミドリさんのキャラが素晴らしい。
ミドリさんのルーツの話も面白いんだけど、ちょっとページを割きすぎてカラクリ屋敷自体の話が少なかったのが不満。
でもって是非写真や図解が欲しいところ。
人が住んでるうちは無理なんだろうけど、ディテールがすんごい素敵なおうちだし、もっと写真があってもいいと思うの。
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電信柱のある家からしてインパクトはあったが、ミドリさん自身も魅力的。ただ希望をいえば、かなり詳しく実測されているのだから、想像力の欠如する読者のために、写真あるいは見取り図の様なものがあれば、さらに良かったと思う。
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北海道で新潟からの移民の子として生まれ,佐渡出身者と結婚して札幌でリンゴ園を営み,東京の関西ペイントの独身寮に住み込みで働いて,魚屋の紹介で土地を買って,平塚に奇妙な家を建てた,1913年生まれのおばあちゃん~木村ミドリさんの平塚の家の中央からは電信柱が出ている。高校生だった筆者は思いきって家主を訪問し,北海道の実家は皆,家を建て替えるのが趣味だったと話す。北海道の新潟村(今の士別市)を訪ねると,おばあちゃんの話の通りの家が建っていて,母方の本家らしい。新潟から移住して原生林を拓き,農業だけでなく製材を行い,敷地内に職人を住まわせ,学校の分教場まであった。どうやら官林の管理を任され自由に木材を調達できたらしい家は,回転式の隠し扉があったり,平屋なのに二階に上れるカラクリ屋敷だったらしい。北海道には金のなる木があると移住してきた佐渡出身の建築好きの男性と結婚し,姓は木村を選択した。兄の建てた札幌月寒の家に住み,リンゴ園を経営しながら軍人にも間貸ししていたが,自分たちでは呑まないどぶろくを造っては税務署員に呑ませたのが縁で池田勇人と知り合い,東京に進出した関西ペイントが独身寮を建て住み込みの夫婦を募集しているのを知り,精一杯のおしゃれをして面接に臨み,応募してきた64組の中から選ばれて,東京に移住し,寮の賄いを担当することになった。田村魚菜の調理学校に通って調理師免許を取得し,洋裁学校にも通い,近所の火災を消火して表彰されたこともあったが,担当課長と反りが合わず退職して,出入りの魚屋に紹介された土地を購入し二人で精魂を傾けて設計し現場を見た上で腕の立つ大工を選抜して建てた平塚の家に引っ越した。西隣の土地を購入して家を増築する時に夫が電信柱を家の中に立てれば頑丈な家になるとの提案に賛同し,6世帯が住む奇妙な家が完成したのだ。毎日大工の仕事を監視しに来ている内に鎌倉も気に入って土地を購入し家も建て,長男夫婦を住まわせてもいた。下水や上水道の件では市役所と喧嘩し相手を屈服させてもいる。休館の二階はアパートにしているが,夫は自分が先に死ぬのを見越して妻の名を付けていた。仏間だけには通して貰えず,新館と旧館をつなぐ電信柱が収まっている洋裁の仕事場はなかなか見せて貰えず,隠し扉がある新館の一階に住む男性も何も語らないまま急死してしまった~人に歴史ありだ。95歳にもなると怖いものなしだよね。いざというときの逃げ道としてのカラクリを造っておくとは,どいいう哲学だろう,理解しがたい。筆者は1983年生まれで京都の女子大から奈良女子大大学院に進み,住環境学を専攻したらしい。大学の修士論文を書く作業の中で知り得たことを書いたのだろうが,図面や写真をもっと入れて欲しかったね。個人の家で特定しやすい建物だから,そうはいかないだろう。素材もよく,調査もなかなか綿密で,第8回開高健ノンフィクション賞次点というのは残念だった。若さ故の表現が粗い笊のような私の脳味噌に引っ掛かる
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著者は若くして都築響一さんのようなアンテナを持つ人でした。都築さんが収集して広く発表することに力を注いでいるとしたら、この本はひとつところの探求でした。新潟から北海道へ移民した祖父母を持つミドリさんが、林業を営む家業ゆえ大工はじめ職人さんが身近な存在として育ち、結婚してからはりんご農家、廃業してからは関西ペイントの独身寮管理人、平塚に珍しいおうちを建てるまでの物語。平塚のおうちの建築意匠に興味を持った著者の、ミドリさんのバックグラウンドなしには、この意匠は説明出来ないという意気込みを感じます。オモシロかったです。
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電信柱が屋根から突き出た家に住む97歳の元気なおばあちゃん。
その名はミドリさん。
ミドリさんと不思議な家の魅力に取りつかれた著者が書きつづった、カラクリ屋敷のクロニクル。
第八回開高健ノンフィクション賞次点作品。
ミドリさんのハツラツぶりに、読んでいる間中ニコニコさせられっぱなしでした。
お屋敷も魅力的なんだけど、そこにミドリさんが住んでいるからこその輝きなんだろうな。
これからも元気にミドリさん列伝を作り出していってほしいものです。
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煙突が突き出た家?いえいえ電柱?どうしてこんなことになったのか?とても興味があり読んでみると・・・奥が深い。ミドリさんの人柄に惹かれてしまった。もっともっとカラクリを楽しんでほしいな・・・でもそんな楽しみって今の時代難しいのかしら?私はカラクリのある家好きなんだけどな・・・
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フィクションとは、思えないミドリさんのパワフルさ。
こんな人、これからは出てこないだろうな・・・・。
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湘南にある"電信柱が突き出した古風な家"に魅入られたことから始まる交流と探索の記録。持ち主であるミドリさん(97歳)の魅力はもちろん、建築、北海道、開拓者精神etc, ちょうど今関心のあるキーワードが並ぶ本だった。...
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数紙の新聞の書評でみて興味をそそられた本。
全体的に話があちこちとんでて中途半端…?
他のひとも書いてるけど、写真とか見取り図がないからイメージしにくいのがもったいない。
あとミドリさんが魅力的なひとなのはわかるんだけど、ミドリさんすごい!みたいなのが多くて食傷気味に…。
家には興味あるのに、途中から惰性で読んだ感じ。
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もっとからくり屋敷について触れているかと思いきや、みどりさんのルーツから、という本だった。
それにしても、みどりさんというのは、すごい人たなぁ。
こんな家住んでみたい。
いい意味で予想と全く違った話。
ただ、ちょっと読みづらいところも。
もっと、著者が自分自身のことに触れてもよかったんじゃないかな?
自分の祖母でもない、自分がそのからくり屋敷の住民だつたわけでもない、
なのに何故、こんなに、みどりさんの人生に、みどりさんのルーツに惹かれるのかが、弱い気がする。
まぁ、面白いからでも、済ませられそうたけど。
建築本というよりは、みどりさんの人生や、ルーツについての本といったところ。
くノ一の末だったとかじゃないんだね…な気持ち。