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紙の本
個性豊かな社会へ
2011/08/07 23:50
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:想井兼人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
『ヒトは人のはじまり』とは奇妙なタイトルである。このタイトルの解説が「まえがき」にある。「ヒト」は人間を生物学的にみる場合に、「人」はまわりにいる現実に生きた人を見る場合に用いるとのこと。これは霊長類学者である筆者ならではの使い分けで、本書の軸となる視点といえる。
筆者は霊長類学者としてアフリカやインドネシアなどでフィールドワークを重ねてきた。様々な環境で霊長類の調査を推進するためには現地で暮らす人びとの協力や彼らとの交流が欠かせない。そのため様々な環境で生活する「ヒト」の観察も同時に行うことになったようだ。
さらに脳こうそくになり、右半身と発声に少しまひが残ったことで、筆者の「ヒト」に対する観察眼は鋭さを増したと考えられる。いわゆる健常者が当たり前のように使う表現、例えば自閉症に関する遺伝子について触れた論文で「発症」や「患者」という言葉に違和感を覚えたという。社会多数派の健康な人間こそいてしかるべき存在という「常識」が垣間見られるというのだ。このことに対する筆者の思いは嫌悪というより哀しさと捉えた方がよさそうだ。
本書には「「障がい」を進化史からとらえ直す」という一文がある。この中で、現在の日本では発達障がいとされるADHDの特徴も、危険が満ちた狩猟採集の世の中だったら大きな力を発揮する可能性が高いであろうことを述べている。発達障がいは、あくまで現在の社会で生きるにはやや難というところにマイナス評価を下したもの。
しかし、生物の多様性を考えてみて欲しい。生物は多様な特徴を持つからこそ、様々な環境で生き抜くことができる。恐竜が絶滅しても哺乳類は生き延びたのは、恐竜と哺乳類の性質の差、つまり多様なあり方のおかげである。それは同じ種の生物にも当てはまることだろう。現在の基準で障がいというレッテルを下される人たちも、異なる環境では優位な存在になることが十分にあり得るのだ。
ただ、筆者が説く本質はそこではない。筆者はどんな環境下でもあらゆる境遇の人が普通に生きていけることを当たり前と説いているのだ。多様性を何の気負いもなく受容することこそ筆者が求め、主張していることなのだろう。
発達障がいを〈病気〉とみなせばそれは医学がカバーし、〈ヒトの自然な性質〉とみなせば霊長類学の領域になると本書には記してある。そもそも読み書きという現代の「人」に求められる能力で全てを推し量ろうとするところに傲慢な気持ちはないだろうか。ただ、多数派に属するうちには、なかなかその傲慢な心の動きに気付くことは少ない。それは「先進国」と自分たちを位置付ける国の論理にも通じること。本書はそんなことを平易な表現を用いて教えてくれるような気がした。個性を伸ばすと言えば我儘を助長するだけと感じていたが、本書には個性の本当の意味が記されていると思う。一読をお薦めしたい良書である。
紙の本
ヒトは人のはじまり
2011/08/13 11:21
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ヒトのはじまり - この投稿者のレビュー一覧を見る
最初に感じたのは「ヒト」を生物学的に解説しながら、
人が「人」として生きていくうえで欠かすことができない部分(メンタル、社会性)を巧みに織り交ぜた
新しい視点の著書だということです。
人間も動物(霊長類)の一種にすぎないこと。
しかし、他の種とは一線を画していること。
その両方から理解しなければ
人間の人間らしさを説明できないのでしょう。
また、著者が最近、大病を経験したためか
一般の学術書にありがちな、第三者のように冷めた視点で「ヒト・人」を観察するのでなく
自ら世界中のフィールドに飛び込みながら
その経験に基づき、バリアフリーや高齢者問題などの時事問題にも
単なる問題提起に収まらない独自の意見を展開した好感のもてる内容でした。
本書は毎日新聞に連載しているということもあり
より多くの人に親しみやすい内容で
生態学と文化人類学の融合という意味で良質の入門書だと思います。
専門用語が少なかったのもうれしいです。
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