紙の本
“幸福”というテーマに関して最も優れた良書
2022/08/07 18:09
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投稿者:Toshi - この投稿者のレビュー一覧を見る
“誰しも孤島ではなく、一人ですべてなのではない。すべての人は大陸の一部であり、全体の一部分なのである。”
ージョン・ダンー
“私たちには自分を完成させてくれる他者が必要である。”
ーアリストファネスー
幸福に関する本の中で、これほどまでの良書は他にないと思う。
この本で述べられている幸福のあり方は、愛と仕事と自分よりも大きな何か(宗教やコミュニティ)と調和することが大切であるというもので、何ら真新しいものはないかもしれない。
けれどもこの当たり前のことすら否定する最近の風潮、たとえば「人生は自分次第」や「何かに依存せずに自立しよう」、「自己実現や輝かしいキャリアを築こう」といった個人主義的な考え方がもてはやされる時代で、そうした価値観が科学的には肉体的・精神的な健康に悪影響を及ぼすことを示したという点で優れた本だと思う。
この本では、瞑想や認知行動療法などの自分の内面と向き合う治療方針の効果を認めつつ、一方で、個人の幸福を内面や自分自身だけに求める過去の哲学者や宗教家達を、現代心理学の研究を用いて批判している。
ヒトはあらゆる動物の中で最も社会的に進化した生き物であり、内側だけでなく、必ず外側(他人や社会)との健全な関係を築かないと幸福にはなれない。
巷にあふれる「自分の認識を変えれば、どんな場合でもハッピーになれる」という独りよがりな幸福論にずっと疑問を抱いていた僕にとっては、「恋人・家族・友人・仕事・コミュニティの全てが揃わないと幸せは訪れない」と科学を使って述べているこの本は、何度も読み返すことになると思う。
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幸せってなんだろうか。
今まで、それほど深く考えたことがなかった。
少なくとも、幸せを考えるのは、哲学や宗教であって科学ではないと思っていた。
その考えを根底からくつがえした本だった。
幸せを切り口として、さまざまな心理学の研究を紹介している。愛、トラウマ、道徳、宗教・・・。
これまで、自分の弱さや偽善を思って、後ろめたい気持ちになったことが何度もある。そして、「だから、幸せになれないんだ」と感じたことが何度もある。この本を読むと、人間とは何かが少しわかったような気がする。自分がどんな人間であるかをほんの少し垣間見れた気がする。こんな自分だから不幸なのではなく、その状態をどうやれば改善できるかを考える方が現実的だ。
この本を読んでも、幸せはやってこない。
だけれど、この本を読んで、幸せになるための方法をいくつか知ったことは、とても有意義であると思う。
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本書には,道徳心理学やポジティブ心理学のテキストとして,あるいは心理学一般のテキストとしても用いることができるほど,多岐にわたる情報が埋め込まれている。応用的な側面,啓蒙的な側面が強いが,決して啓蒙書ではなく,科学的な専門書であろう。引用文献のリストがしっかりしてあることも高く評価できる。
とはいえ,切り口は大変面白く,訳者の表現の力もあろうが,文体は大変平易で読みやすい。わかりやすい表現で話が進むので,読むのに苦労するようなことはない。人間性の「像と像使い」といったメタファーは,心理学の初学者にも大変わかりやすい。
8,9,10章は,「徳の至福」,「神の許の神聖性」,「幸福は『あいだ』から訪れる」と仰々しく題されているが,内容は本当に著者のメッセージが強く表れるところで,宗教と心理学の融合といった学問的テーマとしても重要な問題にたいする鋭い洞察,コヒーレンスという著者なりの一つの答えが述べられるところは,大変興味深く,勉強になる。宗教的な内容についても,著者が繰り返し自分は無神論者だ,というように,ユダヤ教やキリスト教にだけこだわって説法するのではなく,仏陀の教えなど東洋的あるいは通文化的な事例を持ち出して話をするところが,誰にとっても読みやすくなる一つの要因だろう。
社会心理学や臨床心理学,文化心理学など様々な心理学者だけでなく,「幸せについて本気出して考えてみた」い,という人は読んでみるべき一冊。
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非常に面白かった。長年の疑問に対する明確な提案がなされ、とても勇気づけられた。2014年に読んだ本では今のところNo.1。
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道徳心理学と幸福心理学を合わせた本である。暗い面を見るだけでなく明るい面を見るということでは、大学の社会心理学のテキストにも使えるかもしれない。さらに、道徳の教科教育学にも使える可能性が高い。
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セリグマンの「世界でひとつだけの幸せ」(authentic happiness)についてコメントしたので、こちらのほうも。
セリグマンが、ポジティブ心理学の実践的なガイドであるとすれば、こちらは若手(?)の研究者ジョナサン・ハイトによる理論的な入門書。これまでの心理学の研究の流れが、古の賢人たちの思想との対比で語られており、ものすごく分かりやすい。目から鱗が落ちまくる。
といっても、英語なので、まだ半分くらいしか、読めていないのだけど、この本は、これまで読んだ本のなかでも10本指に入るくらい面白いと断言できる。
ただし、ハイトのスタンスは、セリグマンよりやや悲観的というか、遺伝子決定論的な感じがする。元気が出ると言う意味では、セリグマン。知的な興奮と言う意味では、ハイトかな。
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しあわせについて、現代科学と古代の知恵を照らし合わせてみたよ、という本です。
現代科学であきらかになってるトピックが羅列されているので、いっけんとっちらかっているようで最後にはまとまるすごい本。
ただ、9章がアレで、評判の悪い群淘汰をつかって宗教を擁護する、という内容。これさえなければ…
9章と、9章の論述をつかった結論部分にさえ気を付ければたいへんオススメできます。
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おすすめ。象の獰猛さを知り、うまいことコントロールしましょう。
普通の人々の道徳と幸福の感覚については倫理学プロパーの研究者より社会心理学者のほうがよく知っている。
訳も立派。
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幸福は「あいだ」からやってくる=他社との間、仕事との間、など。何かとの関係が正しいとき、そこからやってくる。
放送大学
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人生の答え
原著2003
The Happiness Hypothesis : 幸福仮説
・ヴァージニア大心理学部教授 : 社会心理学者、道徳心理学、ポジティブ心理学
・幸福に関連する古代賢者(ギリシャ哲学、仏陀、シェイクスピアなど)の格言や考え方について、現代の研究成果(脳科学から遺伝学、社会学、人類学)に照らし合わせながら検証
■2章 心を変化させる方法
・人生それ自体は、あなたの思考の産物以外の何ものでもないが、瞑想、認知療法、プロザック(SSRI:選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を通じて、自身を作り直す(感情スタイルを変更する)ことも可能p.69
・これらは、象使い(理性)ではなく象(情動)に働きかけるので有効p.56
■第5章 幸福の追求
○幸福の方程式(p.138) H=S+C+V
・実際に経験する幸福の水準Hは、生物学的な設定点Sと生活条件Cと自発的活動Vによって決定される。(リュボミルスキー、シェルドン、シュケード、セリグマン)
・Sは遺伝的な初期値(幸福を感じやすいかどうか)、Cは外的要因である。
・Vは(チクセントミハイの)フロー
・生物学的な設定点S:幸福感は、性格の中で最も高い遺伝的側面の一つで、双生児研究は、人の平均幸福度における全分散の50〜80%が、人生経験よりもむしろ遺伝的な相違で説明できることを示している。p.52
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「社会はなぜ左と右にわかれるのか」を読んで著者のファンになり、本書にも手を伸ばした。「社会はなぜ左と右にわかれるのか」により詳しい記載のある内容も多いが、返報性、ゴシップやスキャンダルなど、本書に独自の内容もあって理解が深まった。
心理学について紹介する学術的な内容であるのに、誤解を生みそうな邦題であるのが少し残念。