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フランス・ドゥヴァールを2冊ほど読み、『プルーストとイカ』を読んだことでイカがホットな話題であることにようやく気がつく。そんな折に手に取った一冊。
特にイカの鏡像認知の実験の様子を描く「イカのアイデンティティを探る」という挑発的なタイトルの章は、特に読み応えがあり楽しめた。視覚に頼り、体の大きさに比べて大きな脳を持つイカとタコの生存戦略は人間を含めた霊長類と同じと想像できるが、環境の変化への弱さがこうしたイカの意識の研究を遅らせているというのは知らなかった。
イカに関する知覚や認知についての研究はヨーロッパにリードされているが、もっと活発であってもおかしくはない、という主張はもっとも。
ただこのあたりで遅れている原因は「意識」や「知覚」「認知」という心理学周辺の知識が、日本の研究であまり重要視されていない、不足しているところに原因があるように感じた。
文章はエレガントではないがエクセレント。
ヘリオット先生とかローレンツ風。
https://twitter.com/prigt23/status/1018725350975537152
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<要約>
イカは身近なわりにデリケートで養殖ができず、短命である(平均寿命1年)。
巨大な脳と巨大な目を持ち高度な「知能」を持っていると考えられる。
実際、短期記憶と長期記憶をもち、「学習」もする。
学習や記憶の発達をベースとして、同種個体を見分けて「覚え」、群れという「社会」を形作っている。
また、「鏡」を見せると自己認識能力のある人間や類人猿と似た行動パターンをとることがら「自己」を認識しているかもしれない。
49ページ
<イカの特徴>
イカは身近であるが思い出外デリケートで養殖が難しい。
ぐんぐん成長するが短命なので親世代と子世代のオーバーラップがない(平均寿命1年)。
そして最もイカをイカたらしめているものは巨大脳である
P58
<イカの巨大脳と巨大な目>
イカの脳は実絶対的なサイズで見れば無脊椎動物では最大である。
加えて相対的なサイズで見れば脊椎動物の中の魚類と爬虫類よりも大きい。
またイカの脳は機能局在を持っている
イカは脊椎動物と同じレンズ眼であるまた。体の割にそのサイズが大きい(人間サイズだとバスケットボール大に相当する)
<イカは社会的な生き物>
P85
イカには社会性と呼べる振る舞いが見られる。(略)それは群の形成であったり繁殖期におけるオストメスにより繰り広げられる交渉であったりした。(略)対してタコは非社会的である
いかにも順位制がある
アオリイカの群では摂餌場面に置いて順位が形成される。
ただ順位の形成の用意も体サイズといった体力的なものではなく何か別の要因によると考えられる。
群れを作るタイプのイカは群れの中で順位を作っているようだ。
アオリイカの群れは特定の個体同士が関係性を持つ集団なのだ。
さらに個体の順位とネットワークについてみるとより多く枝を伸ばしている、つまりより多くの個体と関係性を持つ個体がいる。彼らは直接には関係する持たないいくつかの個体の中立ちになっているから事からして、これらの個体はこの群れのハブと考えられる。が、彼らはいずれも最も高位に位置する個体である。この場合の順位には摂餌場面で先に多くの餌を食べることの出来る個体であったが、そのような個体が群れの中で要を演じているようだ。
トラフコウイカについてもアオリイカかと同様に摂餌場面での順位を求めてソーrハルネットワークとの関係を見てみると、意外なことに順位の低い個体がハブとなり、順位の高い答えが周辺個体となっていた。これはアオリイカの時とは反対の結果である。
<イカも学習し、記憶する。同種の個体を見分け(覚え)、群れを形成する。>
イカも学習をし記憶する。その記憶には短期記憶と長期記憶というものがある。およそ2ヶ月の期間を使って、長期記憶を獲得して、それぞれの個体同士の「顔」を覚え、社会性を獲得している。
また学習の臨海期も備わっている。
孵化後2週間までに俊敏な動きをする食餌をとらえる経験をしないと、そのような餌がとら��られなくなる。
孵化後、間もない段階で目にしたものをエサとして捕食ることするようになる、いうなれば「食餌刷り込み」はイカで初めて確認された刷り込み現象である。
環境が豊かであればあるほどその後、ボティパターンの発現はより上手になる。その制御ある程度、遺伝的にプログラムされたものであるが、それは外部環境の物理的生活的要因に影響を受け、変化するものである
タコもイカ同様、高度な学習能力がある。他の個体を見て学習する極めて高度な「観察学習」を行う。
また、イカと違いストレスに比較的強い。ただし、幼生の時期は飼えない。
「自分は自分である」という自己認識は、「発達した社会性」とそれを可能にする「身体的な基盤をもつ大きな脳」の2つの要素が必要。類人猿をはじめとし、ゾウ、イルカなどが自己認識力を示す。
それを調べるために鏡を使った、マークテストという実験がある。著者は苦労の末、イカにこのテスト施し、イカに自己認識能力があることを認めた。それは生得的というより、生後的で類人猿や人間の自己認識獲得パターンに似ている。
アオリイカの赤ちゃんでは記憶や学習といった高次脳機能は孵化後2ヶ月の間に急速に発達し、鰭や腕の動きといった運動機能は羽化後すでに備わっていることが、異なる脳葉の発達具合から読み取ることができる
アオリイカの赤ちゃんは孵化後2カ月間という過程で、群れという「社会」を学習や記憶の発達をベースとして形作り、その中で同種個体やもしかしたら自分というものさえも認識しているのかもしれない
殻を持たない軟体動物であるイカはカムフラージュや群れと言った手段をその歴史の中でどうやって実現したのか。
それは彼らが神経系を発達させ、高精度のレンズ眼や高度な情報処理が可能な、巨大脳に入れたことによってだ。
言い換えれば軟体動物はもちろん、自身が属する無脊椎動物という大世界中でそれまでなかった巨大脳という構造を備え、それを中心に脊椎動物と同じように振る舞うスキルを獲得した。
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何かの本で、イカやタコは賢いということを読んだ。興味を持ったので、その本で紹介されていた本書を読んでみた。本書は生物学の難しい論文ではなく、一般向けに書かれたものである。難しいところはなく、非常に読みやすい。イカが鏡に写った自分の姿に興味を持ったり、個体を見分ける目と脳を持っていることなど、イカの知られざる面を知ることができた。著書の余話も適切に混じっており、この分野での研究の現場の声を実感こめて語られている。この本を読むと、イカが可愛く見えてしかたなくなる。敬意まで表してしまいそうだ。
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イカの鏡像マークテストおもしろいなあ。実験をやる苦労をいちいち書いてくれているので科学者というのがたいへんな商売であることがわかる。
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鏡に映った自分を長い足でそっと突いたり、群れで泳ぐ時は大きい個体が両端にいたり、とユニークな行動からイカの知性の有無を問い、海の霊長類たるイカから頭足類学を提唱する若手研究者の大胆な試みの書。→
著者、池田譲氏の語り口調が穏やかでとても読みやすかった。
専門的な話も水産学に詳しくない者にもわかるような言葉で説明してくれており、イカ以外の身近な例を用いてスッと内容が入ってきた。私的良書。
アオリイカとスルメイカの対比やコウイカの話など、興味深く読む。イカ、すごい。→
今まで食べる専門だったイカ(煮物にすると旨い)だけど、タコ(たこ焼き旨し)も含めて頭足類のこともっと知りたくなったな。
あと、単純に自分の好きなことを語る人の話は面白いな。
著者、イカのこと本当に好きなんだなぁって伝わったのが一番良かった。飼育してるんだもんな、そりゃそうか。