紙の本
あの国を理解するまでの遠い道のりの第一歩
2012/01/23 23:22
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:uh312 - この投稿者のレビュー一覧を見る
軽い気持ちで本書を手にとって思わず引き込まれた。「アメリカ合衆国の総意」として日本で報道されている国論がどれほど米国内で割れているのかを記してある。著者はわりとあっさり(ばっさり)記述しているが、その内容は果てしなく深い。この本の内容を表面的に留まらずきちんと理解するには本格的な修士論文一個分の勉強量を要するのではないだろうか。
類書で言えばアメリカ人の進化論に対する考えなど、マイケル・ムーアや町山智浩、柳下毅一郎らが現代アメリカ映画の評論から社会分析をする際によくネタとして出て来る「現代アメリカ人の歪んだ宗教観と、正しいツッコミの作法(「こうやってアメリカ人を笑え」という筆致の記事)」の正統な系譜に本書も沿っているが、むしろそれらより数段きちんと整理されているだけに本書の深い理解には相当な知的教養を要する(今の私には初見の事項だらけで無理だった…)。しかもこれを英語で表現しつつ敵を論破できるようになるまでには、当分野に疎い私にはさらにはてしない時間を必要とするだろう。
このレビュー自体も初読直後の感想なのでまとまりが少ないが、本書を踏まえてオバマ就任直後に彼の演説が日本でブームとなりかけた現象を顧みるに、我々日本人はさらに一歩踏み込んで「なぜ彼がそんなセリフ・単語を使っていたのか(つまりどういう国内集団の意見への賛成・反対を表明しようとしていたのか)」をきちんと理解しなくてはならないと思うに至った。ネットで見ると著者はNHKでも放送していたアメリカのドラマ「ザ・ホワイトハウス」の演出における宗教描写の分析をメルマガか何かに連載していたらしく、その取材が本書のもとになっているようだが(現物は未読)聖書のきちんとした理解もなくアメリカ政治分析の真似をすることが、さほど厚くない本書を読むだけでもいかに荒唐無稽であるか思い知らされる。
かつて大学院でアメリカが「マニフェストデスティニー」以来の宗教・正義観をアジア政策に転用してきた歴史解説を部外者なのに聴講したことがあるが、「アメリカの総意(各政権の思惑)」だけでもブレまくりで追跡に苦労して、さらに深くその各時代の米国内の利益集団の宗教観まで踏み込む余裕はなかった。たとえば次回作では本書と対にした編集で、引用されている聖書の文面や思想・信条などを利益団体がどう都合よく編集して自分たちの主張に使ってきたのかを(他国にどのように迷惑をかけてきたのかをこの文体で)、今度は時系列で変遷を追ってもらえると(タテ・ヨコの歴史の紡ぎ合わせで)読者の理解も深まるのではないだろうか。
結論として、本書は激しくお勧めに値する。西森氏の著作は数冊読んできたが、こういった社会分析での切り口の鋭さと完成度は徐々に増してきているように思える。この分野での続編をぜひ期待したい(絶版になってるものも多くて数年前に西森氏の本に興味を持ってから入手にわりと苦労した記憶もあり、出版社の方にはその面での配慮もいただけるとありがたい)。本書こそ全国紙の書評欄に載るのにふさわしいと思う。
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ギャラップ社の世論調査に基づきながら、各章別に聖書を引き、リベラル派と保守派の聖書解釈や思考癖を羅列的に網羅したもので、レッド・スティツのさまざまな事実ではあろうが、「真実」というには、誇大表記のタイトルと言わざるを得ない。「知られざる実像に迫る」などと副題するからには、その対象にもっと深く、深層心理をも浮かび上がるほどに、照射しているものを期待したが、まったくの期待外れ。
読みやすかろうと一週間の旅のお供に持って行ったが、かなりの興ざめもあって1/3ほどしか進まなかったのも無理はない。
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『ザ・ホワイトハウス』7thシーズンの最終話でCJがジョシュに渡したメモ「WWLD」には元ネタというかしっかりした背景があることを初めて知った。というわけでこのドラマが好きな人には大推薦。バートレット大統領のセリフからの引用もあるし、ということもあるけれど、あのドラマを見ているとどうしても民主党寄りな見方に傾きがちなので、レッド・ステイツの人々の考え方を公平に紹介しているこの本で中和するといいと思う。西森さんは基本的にはリベラルな人なんだろうけど民主党のダメなところは容赦なく指弾し、対話への具体的な提案もしている。
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アメリカの保守派のキリスト教への信仰の強さがよくわかる。
民主党が青、共和党が赤。赤がレッドステイツ。
ソ連は共産主義であったが、共産主義は社会主義の延長線上にあるので、多くのキリスト教徒は社会主義を聞いた瞬間に宗教弾圧を思い浮かべてしまう。
英語では同性愛の性交(あなるセックス)をsodomyというが、これはSodomが語源。
2010年秋、オバマが年収25万ドル以上の家庭には課税すると発表した時、ビルゲイツ、バフェット、ソロス、シュミットなどリベラルな大富豪が、当然のことだと主張した。この時、保守派キリスト教徒たちは、彼らが真のクリスチャンだったら、自由意思で何億ドルか小切手を切って、無料で貧者を救うだろうと主張しt。MSやグーグルはアメリカの税法の抜け穴を上手く利用して資産を海外に移し、合法的に脱税している。
MSやグーグルなど大企業が正統な税金を払えば、わざわざ増税しなくても、良いと主張。
保守派キリスト教は、Freeという言葉を経済にもあてはめて、自由市場、自由経済、規制のない経済活動が神の意志であり、全ての自由は自己責任が伴うと主張。
レーガン大統領がソ連のことを悪の帝国と呼んだ時も、保守派キリスト教たちの一部は共産主義者たちは悪魔の手先だと本気で信じていた。
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なんでアメリカでは、中絶反対派が医者を殺したりする事件が起きるのか?ティーパーティーの危険思想はどっからくるのか?そもそも進化論を学校で教えるとか教えないとか大騒ぎになるのはなぜなのか?と不思議に思っていたのが、大体解決。すべてはキリスト教、そして聖書を頭から信じ込んでいることによるらしい。
その聖書、そもそも書いてあることも矛盾だらけで、現代の世に全然合わないし、解釈が分かれるようなことが多いのだけど、リベラル派と保守派で、同じ文章を全く別の解釈をしているのがすごい。それから、都合の悪い部分を読み飛ばしてるのもすごい。例えば、同性愛は殺されても仕方ないとか言いつつ、離婚した夫婦も殺されるのかというとそうでもない。
最初は、保守派のコテコテキリスト教の人たちは、どういう思考回路なんだ、頭がおかしいんじゃないか?と思いながら読んだのだけれど、だんだん保守派のいうこともわかることもある、と思った。
それから、リベラル派は、保守派よりは近しいところもあるけれど、でもやっぱりこの人たちもおかしいよね、と思うこともあった。
極端から極端なところがアメリカらしい、のかも。
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"世界のほとんどの人々は宗教を生活の基盤として生きている。そして、アメリカでは、キリスト教徒が多くすんでおり、生活~政治、経済まで様々な影響を与えている。その実態をわかりやすく解説したのが本書である。この解説で、納得しえた部分は多々ある。
グローバルに活躍する人は、宗教についての理解を深める必要がある。キリスト教、イスラム教、仏教など一通り学ぶべきなのでしょう。"
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これはなかなか…私たち日本人にとって…貴重な良書。
書名はややミスリードで、より内容に忠実に題名をつけるなら、『キリスト教保守派の世界観(頭の中)と聖書の言葉』という感じでしょうか。「アメリカ」といっても、私たち日本人が普段接しているのはワシントンやNYやLA、あるいはCNNやニューヨークタイムズといったリベラル系の情報に偏っており、実はアメリカの半分近くを占める保守の人たちの考えや行動原理に接する機会はあまりありませんので、その実例を含めた解説はなかなか目から鱗。日本人の「アメリカ理解」のための著者力作かと。