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国民が一度に一人しか入れない、小さな小さな〈内ホーナー国〉と、それを取り囲む〈外ホーナー国〉という設定だけで既になにやら可笑しいのに、どうも人物たちも人間の形ではないようなのだ。
こんな、奇妙でユーモラスな物語、訳すのはさぞかし大変だろうな、と思うけれど、喜々として訳してやっしゃるようにも思われる。
岸本さんの書かれるエッセイと通ずるものがあるようだ。(私はふと「枕の中の行軍」を思い出した。)
フィル。フィルは恐ろしい。
恐ろしいけれど、目が離せないのは、ある集団には必ずいる人、どんな人の中にもその片鱗がきっとあるに違いない人、だからかもしれない。
でも、教訓として読んだらつまらない。ただ、奇妙で、ちょっとシニカルで、くすくす笑ってしまう物語として、楽しんで読めばいいのだと思うよ。
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なんだかただごとではない、不思議な世界に飲み込まれるままに、一晩で読み終えた。傾いた床の上をずっと歩いているような、ふわふわと落ち着かない感覚になった。
読み終えた後もしばらく、この国のことが気になる。
そしていろんなシーンを思い出して思わずニヤニヤしてしまう。
後からジワジワくる。うん、じわじわと。いまだに。
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装幀良し、原作良し、訳者(何より岸本佐知子が大好き)良し。
世界史の授業でまず先生がヘーゲルの言葉を教えてくれた。
「歴史から学ぶことのできるただひとつのことは、人間は歴史から何も学ばないということだ」
ーじゃ、何のために歴史を学ぶの?。
それでも歴史が面白いのは、同じことの反復に「ほら、またこれだ」と自嘲的になれるからなのか、性懲りもなく「いや次こそは」期待するからなのか?
〈人間〉という単語で語られるが、登場〈人物〉の容貌は人間ではなさそう・・・。
でもこの寓話は誰しもどこかで聞いたことがあるのでは?
大きな物語でも、小さな物語でも。
人類の歴史の中でも、自分自身の歴史の中でも。
吉兆と不吉が混ざりあうラストシーンと先の疑問がフラッシュバックしてしまう。
訳者あとがきから、著者ソーンダーズの言葉を。
「この奇妙な物語世界が、読んだ人の胸の中でいっとき赤く燃え上がり、その後も折にふれて、昔見た鮮やかな夢のようにひょっこりよみがえってくる、そんなものになることを願っていますーあるいは、そう、怖いのだけれど不思議と面白い、悪い夢のように」
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とあるところに小さな国とそれを取り囲む大きな国がありました・・・。
あるときフィルというなの大きなほうの国の住人が
小さな国の住人から税をとろうと言い出して・・・。
出てくるのはなんだか分からない機械のような者たちですが、
人間と同じに思考し動いているのです。
そして、彼らの行く末は人間にありえる(というかよくあるような)話しだなぁと。
そこから教訓を得ようとは思いませんが、確かにあるよなぁと思い知らされるそんな感じでした。
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いやー!面白かった。こんな小説は初体験。こんなにユーモラスで素敵な小説があるなんて。。オススメする理由がわかるわ。。
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帯読んで、カバー読んで、そしたらなるべくそれ以上の「訳者あとがき」やレビュー的知識を入れずに、まず本文から読んでください。
そしたら、「訳者あとがき」が生きます。
タイトルにあるように Brief ではあるのだが。
読み終わって、ほぉーっと息を深く吐き出した。
諦めが少しと希望がもっとたくさん、吐き出した息には混じっていたはず。
不思議に不安で、でも不敵に楽観的になって。
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岸本訳らしい言辞ユーモアと抽象性をもった現代の寓話。面白いってもんでもないが、キャラや国がいちいちギョッとする造形なので、妙に視覚イメージが脳の隅に残りそう。うまく読めてない可能性高いけど、最後の数頁は蛇足な気がする。
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ホロコーストを寓話化。ヒトラーだのなんだのと当てはめて読むこともできるんだろうけど、フィルの突きつける不条理と、不条理に乗っかってしまう周囲の不条理に、ただクスリと笑ってしまう。 ロシアアニメの色調、ぎこちない動き、哀愁ある音楽が似合いそう。
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岸本佐知子さんの翻訳。
内容もさることながら、文章が面白いです。
解説にあるとおり、フィルは明らかにヒトラーを意識して創られているとおもいます。ヒトラーの亡くなったお母さんの主治医がユダヤ人だったから、それが迫害の要因の一つといも言われていますよね。
神様が現れるというくだりとか、フィルのお墓のくだりは、私にはあんまり必要さが感じられなかったかなぁ。。
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登場人物の描写が、想像できるようでできないような、スレスレのところで描かれているのが面白いと思った。
いい意味で、夢を見ている間は当たり前だと思っているが、目が覚めて思い返してみて薄気味の悪い話だな、と思う感じに似てる。
話の展開が読めやすいというのがちょっと残念。
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「こんどこそは、互いに慈しみあうのだよ ~ お前たちは自分がじゅうぶんに善ではないのではないかと内心ひそかに恐れている。だが、お前たちは善なのだ。信じておくれ。お前たちは善なのだよ。
こんな真摯な祈りを込めて神様は子を授けてくださるのか・・・
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ほとんど翻訳ものは読まないのだが、この本は一気に読んでしまった。読みやすかった。こんな感じの翻訳ものをもっと読みたい!誰か教えて!
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何度となく同じようなことを言っているかと思うけれど、本を読むという行為は自分の中にある思考の欠片のようなものと本の中の言葉を結びつけて、「勝手に」様々なことを思いついたり考えたりするようなものだと思う。恐らくは作家の意図した以上に、読者は一つ一つの言葉に敏感に反応し、何かを読み取ろうとする。それに何も悪いところがある訳ではない。しかしソーンダーズのこんな作品に巡り合うと、それで本当にいいのかな、とも思ってしまう。
ここに正義のようなものやテロのようなものの隠喩を見い出すのはそれ程難しくはない。でもそんな倫理観をかざして何かを読み取ろうとすることは、本当に詰らないことだ。例えば手の込んだ一粒のチョコレートを味わう時、それが何故美味しいかは問う必要のないことだと思う。美味しいと感じること、それが全てではないだろうか。この本も何かを読み取ろうとするのではなく、どこまでもナンセンスな物語を頭の体操のように読んでみてもいいんじゃないだろうか、と思ってしまうのだ。
そう言明してみて少しすっきりするものの、一方で不安にもなる。我ながら実に小心者だと思う。不安になるのは、結局そういう感覚的なものに言及すると、ある言葉に突き当たってしまうからだ。「で、解るの?」、と。
ここで「何故美味しいかは問う必要がない」なんて断言できるのなら、「解る必要はない」と言い切ってもいい筈だ。但し、ここで言う「解る」とは、まだ理解という意味を含んでいる。その部分は「理解する必要はない」と言い切ってもいいと自分を納得させることはできる。問題は「解る」に含まれるもう一つのニュアンス「感じる」という部分だ。それは「感じる必要はある」のだと思う。それが無ければ本を読む楽しみも何もない。
ところが「感じる」と言った瞬間、何を感じているのかが問題となり、それがお門違いじゃないだろうかと不安になる。不安になるものだから理屈をこねて「解る」つもりになりたがる。それが野暮だと理解していても。解るって単純で面白みのないことだけれど、安心には繋がることだから。
そこまでたっぷりと予防線を張っておいて、じゃあこの本は感じるのか、というと感じるような気はする、という声が聞こえる。面白いとも思う(全部が全部面白い訳でもないけれど)。特に、湿ったニュアンスものがいきなり乾いたようになる、住民がパーツに分解されるシーンなんて、そこで躓いたようにギャップを感じて、頭の中で脳が揺さぶられたような感覚がする。それは身体的にとても面白い。でもそんな風に理屈っぽく言ってみた途端面白みは失せる。
誤解のないようにしておきたいけど、もう自分は一通りそんな風に理屈をこねてしまったので最初に感じた面白みが何だったのか解らないような気にもなっている。だからこそ敢えて聞きたいのだけれど、みんなは何が面白いと思うんだろう。
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フィルは悪いヤツだ。そして容赦しない。
国の設定も、そこに登場する全ての人物も、おかしい。
けれどそれだけではなく寓話に見立て、独裁政権への批判がかい間見られる。面白いけど、考えさせられる1冊。
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荒唐無稽なファンタジーだが、現代社会への風刺は充分に効いている。
読み易い分量と相まって読後感は良い。