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大和朝廷による正史「古事記」は神武天皇からの歴史では収斂できない日本古来からの英雄信仰を無視出来ず、朝廷からの視点でスサノウ伝説を付け加えた、という話を読んだことがありますが、まさに木村政彦は格闘技の歴史においてスサノウだったのではないか?と感じました。講道館という嘉納治五郎を起点とする柔道の正史、力道山を歴史の始まりとするプロレスマスコミ界、二本の大河からは見えない馥郁たる地下水脈の物語です。(最近、その覆水流は総合格闘技というカタチで我々の目にするとこも出来るようになりましたが表舞台に出た途端消費され始めているような…)ずっと続く流れのエネルギーは男たちの強さへの憧れと、そしてジェラシーから生まれてくるように思われました。そんな憧憬と嫉妬の中心にいたのが木村政彦、いや、木村政彦の強さでした。実際、自身も北大柔道部出身である著者の柔道家、木村政彦の強さに対する過剰な思い入れが本書を世におくりだしたのですから。強さを求める戦前から戦後の物語ということは、結果的に今まで誰も語って来なかった昭和史にもなっています。例えば、正力松太郎をはじめとして数多くの戦後経済人の心の故郷になっている高専柔道。「才能より練習」「骨が折れても参ったしない」「チームで勝つ」そんな特質は日本型資本主義の特質にもなっているのではないか?と想像したりしてしまいました。そんな柔道という言葉だけでは掬い切れない格闘技の歴史を丹念に拾いつつ、木村が日本一の柔道家になるまでの修業の季節、師と離れ力道山とのあの試合に至るまでの彷徨の季節、そして失ったものを悔恨しながらも自分の居場所を回復する季節を描いていきます。特に負けてからの部分は悔恨と回復で揺れる木村の気持ちに著者も完全にシンクロしていて、読んでいて激しく心を揺さぶられました。キャッチーな本書題名の秘密もここにあります。分厚い本ですが一気に読めます。一気に読めますが読み終わりたくありませんでした。
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1ページ2段組みというボリュームがすごい・・・!
自分は格闘技はおろか、柔道経験者ではなく、
ましてや、いままで興味を持ったことすらなかった。
でも、こんなにわかりやすい書籍はないと思う。
そしてなにより、木村政彦という人物を知ることができたのはよかった。
素直に、この本に出会えたことに感謝したい。
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本当に書きたいことを書いてるって勢いが伝わってくる。プロレスにも格闘技一般にも特に興味のない僕がどっぷり没入できた。素晴らしい。
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最後の地下闘技場優勝の話は蛇足だと思います。
故人だからといって、書かないでくれと頼まれた事を書いてはいけないでしょう。
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まったくの門外漢なので驚くような話ばかりなのだけれど、妙に印象に残ったのは、太田章(ロス五輪とソウル五輪のレスリング銀メダリスト)が、木村と力道山との試合のビデオを見るシーン。
木村の勝負師としての態度を責める太田に、著者が「木村先生は最初から最後まで八百長だと思っているんですよ」と庇うも、「だから、後になって悔やむなら、こんなリングには上がらなきゃいいってことですよ!」と認めない。
ところが、さらに著者が木村と岩釣兼生との師弟愛、二人の勝負への執念がわかるエピソードを語り続けると、
《太田がゆっくりと立ち上がり、背を向けた。そしてそのままの姿勢で、こう言った。「わかりました。『太田ははじめから真剣勝負なら木村さんが勝っていたと言った』と書いてください。太田章の名前使ってください、『木村さんが勝っていた』と》-p576
映画なら、クライマックス直前の転換のキーになるような重要なシーンだと思う。いやほんと、映画みたいな凄い話ばかりだった。
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かなりのボリュームで読み応え十分。
柔道に対する作家の執念と愛情が、凄味すら感じられます。
一つの昭和史としてよんでも秀逸。強烈な個性をもったさまざまな人間が交錯することで、歴史は紡がれていくのだなあと改めて認識させられた。
人が歴史を作るのか、時代が人を動かすのか・・・。
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一般には、力道山にプロレスで敗けた男と記憶される木村政彦。マニアには最強の柔道家として知られる鬼の木村。その木村政彦の生涯を軸としながら、明治以降の柔道の歴史、講道館だけではない柔道の歴史や戦後のプロレス格闘界の歴史を、丹念な取材や資料の分析から追った大作。
武道、格闘技、特に柔道に関わっている人間にはなんとも面白く、またとても勉強になる。とかく虚実入り乱れる格闘技の歴史を裏社会などとの繋がりも含めて丁寧に調べ明らかにしているが、柔道経験者である著者の「木村政彦は最強だ」「真剣勝負なら力道山には負けていない」という思いを証明するために書かれているようなところもあるので、木村政彦関連の話になると思い入れが強くて若干(相当?)偏っている気もする。著者が北大柔道部出身ということで、寝技中心の戦前の高専柔道に関する記述が多く、同じ穴のムジナとしては個人的にとても面白かったが、その高い評価に著者の思いがかなり入っている様な気もする。いずにれせよ、偏って入るけど裏柔道歴史資料として非常に便利な一冊になっている。
タイトルを読んで、「そんなの殺すわけ無いだろ」と誰でも普通に思うが、本書を読みすすめれば最後には「なぜ殺さかなったのだろう?」と思うようになること必定・・・とまでは、正直思えなかったかな。木村政彦は自分に対しては厳しく最強の柔道家・武道家となったけど、人に対しては非常に優しい人間だったような印象を受けた。
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1週間かけてようやく読了。
昔、格闘技をかじったことがあるので、木村政彦の名は知ってましたが、こんな人生があったとは・・・
彼をとりまく人間関係も興味深かった。
今年のNo1です。
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700頁の大作であるが、格闘技ファンであれば木村政彦を語るには短すぎると感じさせる程、必読書であることについては間違いない。UFC(Ultimate Fighting Championship)での日本人選手の成績が揮わず忸怩たる思いであったが、グレイシー柔術で伝説となっている木村政彦の人間としてのすごさ、「木村の前に木村なく、木村の後に木村なし」の意味するところを全く理解していなかったことを教えてくれた。
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大変面白い。
格闘技だけに限らない、
時代、政治、戦争色んな事象を考えることが出来る。
たまらなく面白い本であるよ。
追記
ついに読了。
大変幸福な時間だったなあ。
活字中毒を自覚して以来惰性で読んでいたところがあったけれど
本当に集中して読めた。
様々な人たちの生き様を少し感じられた気がした。
周囲の格闘技仲間にも読んでもらいたい。
この本のことを話す相手が欲しいから、話してみたいからだ。
木村政彦師の技術の一部を使わせてもらっている私はこの本に出合えて感謝している。
空手バカ一代で知ったこの名前を20年以上経過してから最も濃く感じるときが来るとは。
これだから活字中毒はたまらない。
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青春時代の多くの時間を武道に費やしたものとして驚愕の思いで読破しました。
この歳になって武道とは・・・・、強くなるには・・・・。少しわかったような気がします。
自分がやってきたことがいかに未熟であったかを思い知らされた。
木村雅彦の武道に対する真摯な姿勢と豪放な私生活。
時代が彼の人生を翻弄したのか、それとも自ら選んだ道なのか。
読むまではちょっと誤解していた木村雅彦という人が好きになったと同時に、なぜか哀しく思います。
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戦前の天覧試合を制した木村正彦の一代記。『プロモーターとしての力道山にしてやられ苦しい後半生』というストーリーですが、苦衷はあったものもそれなりに楽しく豪放磊落な人生のようにも見えます。プロレス自体も好きだったようですし。
しかし、この時代の武道家の練習量と内容は常軌を逸してますな。山岡鉄舟みたいだ。
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期待していたとおり、いやそれ以上の秀逸な作品だった。木村政彦の名はグレイシーが総合格闘技を席巻したときに初めて知ったが、柔道家の彼がこれほどまでに波乱万丈の人生を送っているとは全く知らなかった。
牛島辰熊との師弟関係は他のものたちにはわからない強固なものがあったのだろう。
力道山との巌流島決戦、その表と裏の舞台の内容が細かく書かれているが、力道山の気迫のすごさがものすごく伝わってきた。
戦前から戦中、戦後と生きていくのに必死な頃、猛者たちの繰り広げる格闘技を巡っての人間ドラマに、感情が入り込んでしまう。
執筆に18年もかけた、作者の想いが十分込められた珠玉の作品だと思う。
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中国出張中に一気に読破。700ページあるのに、気を抜くところがない。最高に面白かった。また読もうっと。
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力道山、大山倍達、この二人の陰にこんなドラマがあったなんて。後半の、筆者の木村政彦という人間、あの時本気なら木村は勝てたのか?この葛藤に読んでいて引き込まれました。参考文献1000点、取材開始から18年。これだけの作品にはなかなか出会えないでしょう。1ページ上下段で700ページあってもあっという間の読了でした。
『木村の前に木村なく、木村の後に木村なし』