紙の本
メディアをつくるのはわたしたち
2012/01/16 13:23
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:24wacky - この投稿者のレビュー一覧を見る
大手メディアの限界を感じたことから自分たちのメディアをつくる。その試みは世界ではそれほど真新しいことではない。独自のインターネットメディアを立ち上げ、10年の実績を積み上げてきた著者によるオルタナティブメディアのガイドブックとしての本書を読めばそれがよくわかる。それは同時に世界を読み解く始まりでもある。
インターネット上の動画配信メディアOurPlanet-TVを立ち上げたとき、著者の念頭には既存メディアからあぶれたフリーの制作者たちのプラットフォームをつくるというアイデアがあるばかりであった。しかしその予想に反して、「素人」からの参加の声が聞こえてきた。著者はそこで自分の考えに誤りがあったことに気づく。その人たちはそれぞれのフィールドにおいてはプロであり、その世界から発せられる伝えたい意思はプロのジャーナリストのそれより真剣である場合が多いと。
この気づきが著者を大胆に跳躍させた。次の認識はとりわけ3・11以後のメディア状況を先取りしているように読むこともできる。
しかしジャーナリズムの語源は、「日々書く日記」だと言われる。個人個人が尊重される、より公正で平等な社会を目指すには、国益を優先しがちなマスメディアに頼るのではなく、社会を構成する個人が自ら情報の担い手となり、情報の多様性を確保するしかない。私は活動を通じて、そう考えるようになった。映像のみならず、まさに「日記」であるブログを含め、多くの人が日々を記録し発信することこそ、権力から距離を置いた新たな「ジャーナリズム」が実現できることを理解したのである。 (19ページ)
また、著者は世界のメディア状況に造詣が深く、本書にはそれらの情報がコンパクトにまとめられている。それは「オルタナティブメディアは可能だ」ということを確信させてくれる。自分たちで「メディアをつくる」ことに懐疑的な人もこれを読めばその認識が改められるだろう。
その中には著者がOurPlanet-TVの実践にも大いに参考にしているだろう基本的な考え方がある。パブリックアクセスは1980年代にカナダで定着した。市民が公共の電波にアクセスする権利を得て、表現の担い手となる。情報発信が基本的人権であるという考え方がそれだ。その背景にはカナダが先住民族を含めた他民族国家であるという事情もあったという。
一方、ヨーロッパではほぼ同時代に、マイノリティや学生運動、社会運動、文化運動などが非合法の海賊放送である「自由ラジオ」をはじめていた。もともとヨーロッパには、民主主義社会においては、多様な意見を反映できる独立した伝達手段があることが重要であるという共通認識があったという。
うらやましい限りだが、では日本ではなぜそうならないのだろう。著者によれば、日本には「コミュニケーションの権利」「メディアリテラシー」など、市民とメディアの関わりについて定めるような考え方が希薄だという。
本書を読んでひとつのキーワードとして多様性という言葉が目についた。多様性とは「あなたとわたしは違っている。そしてそれは当然だ」という考え方である。「単一民族国家」日本が多様性を認めようとしない、というより、そもそも多様性の意味がどういうことか分かっていないというところに、オルタナティブメディアが浸透しないひとつの要因があるといえないだろうか。そのことひとつとっても日本のなかで「異質」である沖縄にオルタナティブメディアが育つことはなんら珍しいことではない。
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素晴らしい。
メディアに携わる人は必見ではないだろうか。
メディアを批判的に見るきっかけになるかもしれない。
「メディアをうらむな、メディアをつくれ」
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「地域活性化活動の発信が大事だ」とか言っておきながら、メディアそのものの作り方や、テレビ局やラジオについて何も知らない私。勉強しなきゃと思って手に取ったのがこの本でした。
メディアリテラシーについて、ちゃんと専門の人に教えてもらいたいと思いました。
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欧米では、社会的マイノリティの多様な声を反映させるために、テレビやラジオに市民が参加できるパブリックアクセス制度を導入している。
近年はAT&Tやベライゾンといった大手通信会社がケーブル事業に参入することによって地域独占体制が崩れてきているため、州によってはパブリックアクセスから撤退する動きもある。またこうした大手通信会社はインターネットのインフラ支配を進めており、インターネットの中立性という点でも大きな議論を呼んでいる。
日本では放送法も電波法もメディアに関わる法律はどれも、法素地御者の規律を定めているだけでコミュニケーションの権利やメディアリテラシーなど市民とメディアのかかわりについて定めるものはない。
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特に印象に残ったのは、日本には報道に関する第3者的な組織がないという事実。ますます日本は民主主義ではない。
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ネットにしかほんまの情報はない"というのをこの1年とりわけよく聞いた気がする。半分はそういうとこもあるなと思うけど、半分はちゃうなと思う。たとえばネットは"誰でもどこでもアクセスできる"と言われたりするが、そんなことはおまへんでーと、私はネットを使わない(使えない)あの人やこの人の顔を思い浮かべる。誹謗中傷やサベツ的な言辞のひどさでは、紙や電波以上ではないかと思うことも多い。
白石さんは、ネット放送局・アワプラ(OurPlanet-TV)の人。アワプラは「従来のマスメディアでは放送されにくい、市民の視点に立った情報を収集し、映像を媒体としてインターネットやそのほかできうる方法で発信することを目的とする」(定款)NPOである。
ある時期まで、白石さんは「インターネットさえあればメディアにおけるほとんどの問題は解決できると考えてきた」(p.20)。白石さんにとって、ネットは包丁のようなもの。日々当たり前に調理に使うもので、使い方によっては人に危害を加えることもあるが、それはあくまで例外。包丁は危ないから使うのを止めてくださいとはまず言わないだろうに、日本の教育現場やマスメディアではネットは"危険で信頼できないもの"と強調されていて、知識や使い方が十分に普及していないようだと。
ネットを使ってる人がどんな人か、ネットにどんな情報があるのか、そのことを知るにつれ、白石さんは、言論空間のゆがみを正すとともに、パブリックアクセス(市民のための公共的な言論空間の確保)が大切と考えるようになった。
▼小さな周縁の声が、猛スピードで消費される様々な情報にかき消され、社会に届かない現実。同時に本来、最も情報にアクセスできなければならない層が重要な情報から遠ざけられてしまっている。(p.3)
「メディアをうらむな、メディアをつくれ」
これは1970年代に広がったイタリアの「自由ラジオ」運動の中から生まれた言葉。
このごろは「市民による情報発信」とか「市民メディア」というと、ネットでツイッターでフェイスブックのことかいなーと思うくらい、電脳社会の話がほとんどだと感じられる。でも、一通のハガキ、一通の手紙、一つのメール、自分はそこからという気がする。
(4/21了)
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「ない」なら、「つくる」。
この考え方が、とても好きです。
これが「ない」。
あれが「ない」。
と嘆いてみても、はじまらない。
上手くいか「ない」ことを
誰かのせいにしたり、
環境のせいにしていては、何も生まれない。
「ない」なら、自分が「つくる」。
今、あるものに満足できないのなら、自分が「変える」。
この考え方に従って行動していくと、壁にぶつかったり、他人から批判されても、ちゃんと突破口が見えてくる気がします。
時々は、やはり凹んだり、愚痴も出ちゃうこともありますが、
「つくる」「変える」の基本に立ち返れば、大丈夫。と思います。
私も活動に参加しているNPO法人OurPlanetTV(アワー・プラネットTV)代表・白石草さんが書いた著書「メディアをつくる」(岩波ブックレット)に、次のような一節がありました。
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ジャーナリズムの語源は、「日々書く日記」だと言われる。
個人個人が尊重される、より公正で平等な社会を目指すには、国益を優先しがちなマスメディアに頼るのではなく、社会を構成する個人が自ら情報の担い手となり、情報の多様性を確保するしかない。
映像のみならず、まさに「日記」であるブログを含め、多くの人が日々を記録し発信することこそ、権力から距離を置いた新たな「ジャーナリズム」が実現できることを理解したのである。
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ブログやSNSに、自分の意見や感想を投稿することも日々の記録であり、情報発信であり、「ジャーナリズム」といえますね。
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既存メディアの中でその限界を身をもって感じた白石さんが、独立メディアを立ち上げるに至った状況と、世界と日本の各地の独立系メディアの状況がわかりやすく説明されている。独立系メディアが自明に弱者・マイノリティの声を伝えられるとは限らない。オーマイニュースが日本でも立ち上がるというときに登録した「記者」の多くが首都圏の30-40代の男性だった、というのはこれを読んで初めて知った。弱者・マイノリティの声を多くの人が受け取れるかたちで伝えていくには、それぞれが今いる場所で何ができるのか、考えさせられた。
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今の時代、情報はあふれるほどあるのに、正しい情報を得ることは難しい。
福島の原発問題で風評被害なども叫ばれている中、本当に風評なのかそうでないのかも正しい判断できなかったりする。
著者は、テレビ朝日、東京MXテレビなどを経て、「OurPlanet-TV」というインターネット上で新しいメディアを立ち上げた方。
マスコミを信頼できなければ作ればいいと、自らの問題意識を形にし、活動されている。
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ジャーナリズムの語源「日々書く日記」
国益を優先しがちなマスメディアに頼るのではなく、社会を構成する個人が自ら情報の担い手となり、情報の多様性を確保
ネットは包丁
メディアリフォーム@米