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<オナニーみたいな落語してんじゃないわよ!>
落語に限らないけど、表現者にとって永遠のテーマなのが「どこまで観客に妥協するべきなのか」というジレンマ。特に頑固者だったり芸術家肌の表現者にとっては「俺の表現がナゼ理解されないんだ!?」と自分の表現と大衆が求めるもののギャップに戸惑うことになる。
結局誰にも理解されないまま自己満足で終わってしまう表現なら、それはマスターベーションと同じことなのかも知れない。
この小説は現役落語家・三遊亭白鳥(さんゆうてい・はくちょう)が著した直球の青春落語小説だ。
舞台は年号が平成に変わって二年半の東京。主人公は売れない二つ目の落語家・銀月亭ピョン太。
新潟・佐渡ヶ島から上京してきたがパッとしないままくすぶっているピョン太は、福井で過ごした学生時代は「雪国の円生」ともてはやされたものだが、今では行きつけの居酒屋「赤達磨」でクダをまく日々。小説のタイトルは「落語ボーイ」だが、ボーイという年齢はとっくに過ぎて既に31歳だ。本人曰く、「不愛想でおべんちゃらが言えなくて強情でプライドが高い」という、芸人にはおよそ向いていない性格。でも人一倍の落語愛を胸に秘めている。
破天荒な先輩・湖畔亭あひる。ほのかに想いを寄せる席亭(興行主)の娘・涼子。人気急上昇中の落語界のスーパースター・お庭家花太郎。関西弁が怪しげな豆家小三郎。様々な人と出会い、様々な体験をしながらピョン太は成長していく。何のために、誰のために落語をするのか。悶々と悩みながら一歩ずつ歩み、目指していくのは落語の頂点だ。
作者の三遊亭白鳥は「白鳥」という名からは想像できない丸顔のオジサンで、これが初の長編小説。落語協会に所属し、春風亭昇太・柳家喬太郎・林家彦いちと組んだ落語ユニット「SWA(すわっ!)」こと「創作話芸アソシエーション」の一員でもある(ちなみにSWAは「ある程度目的は達成した」として今年中で解散予定。現在ファイナルツアー中)。三本線の入ったジャージみたいな着物がトレードマーク。
そんな白鳥が描きだす落語小説は、芸の世界の妥協を許さない厳格さ、競争の壮絶さ、そして人を笑わせることの難しさをリアルに見せてくれる。小金を稼いでその日しのぎで暮らす極貧生活や、売れっ子芸人への羨望も包み隠さず書いている。
邪道と呼ばれる手を使ってでも客を笑わせればいいのか。そこが本当に「笑わせたもん勝ち」の世界なのだとしたら、本当の落語、人情落語なんて廃れていってしまうのではないか。
若い落語家の苦悩を通して芸の世界の奥深さをじんわりと描きだす。
ラストでは昨年まで開催されていたあの漫才の大イベントの結末を匂わせるようなシーンが展開されて物語は幕を閉じる。
そこに作者が込めた様々な真意を読み取ることができるだろう。
三遊亭白鳥は「寿限無」をもとにした「スーパー寿限無」、「初天神」をもとにした「ハイパー初天神」など独自の落語で人気を博している。白鳥自身新潟出身だが、本書で作者が自身を投影しているのは主人公よりむしろハチャメチャな落語家・あひるの方なのではないかと思える。なんだか突���放しているようで愛情込めて描写しているようで、何ともはがゆいような描き方がされているからだ。もちろん全ての登場人物に少しずつ想いが込められているに違いないのだけど。
ピョン太はガムシャラに奮闘しながら驚くような体験を経ていく。表紙には傷だらけで全身ボロボロになった落語家のイラストが描かれている。このイラストのようにピョン太は満身創痍になりながらタイトル通りギンギラと情熱を燃やし這い進んでいく。
ピョン太の31歳という年齢が自分と近いので、個人的にはすんなり感情移入できた。この道を進み始めて結構な年月が経った。でも全てを見極められる程の時間はまだ蓄えていない。手探りで進む道が正しい道なのかもわからない。この齢になって自分の考えが間違っているのではないかと思い知らされる恐怖。
人生は落語のようにアドリブの連続だ。
この小説が連載されたのが大容量ファイル転送サービス「宅ふぁいる便」のエンタメコーナーというのもなんだか目新しくて面白い。
ところでWikipediaによると白鳥は、立川談志のテレビ番組にゲスト出演した際に新作落語を演じ、客には受けたが聞いていた談志が激怒して収録中に帰ってしまったという。これについて談志に詫びを入れたところ、「お前は悪くない。あの落語で笑う客が悪い」と言われたそうだ。談志らしいというか光景が思い浮かぶようなエピソードだ。
そしてその談志も今はもういない。
立川談志亡き後の落語界は、新たなステージに踏み出さざるを得ないだろう。偉大な先達が残した道をさらに発展させ拡げていくのは「今」の世代の役割であり、愉しみなのだろう。
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二つ目の落語家、銀月亭ピョン太が自分の落語を見つけるまでの物語。
最初はプライドだけのピョン太さんにイライラしてばかりだったけど、少しずつ周りの人が言っていることが分かってきて、自分で自分のことが見えてくる過程にはじんときた。
周りの人に好かれて、支えられて、気付かされる、それも才能だ。
ピョン太さんの落語を聞いてみたい。
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圓朝まつりのSWANブックセンター(三遊亭白鳥さん直売出店)で購入。
白鳥さんの落語のように、すらすら読めて、リアリティとナンセンスの笑いに溢れてる。新作落語家が主人公かと思いきや、主人公は落研かぶれで古典一筋の無愛想な落語家。白鳥さんとは正反対なキャラクター。その代わり、友人の落語家キャラが白鳥さんぽく描かれている。
寄席や落語界の内部事情が、細かく書かれているところも面白いし(「相場」とか普通は教えてくれないのに!笑)、噺のあらすじにも触れたり、落語を知らない人でも楽しめるように配慮されている。
途中途中スポ魂漫画のようだったり、急にサスペンス風味になるなど、驚く展開もあるが、向き合う課題や、その解決法は、意外と本寸法だったりする。最終的にはさわやかな青春ドラマとしてまとまっており、白鳥さんのストーリーテラーとしての実力が、白鳥さんの落語を聴くときと同じように味わえる。おすすめです!
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根性ひん曲がってしまった売れない二つ目さんが再起するおはなしでした。なんだかすごく落語な小説でした。落語な精神に満ちあふれててびしばし伝わってきました。噺家さんが書いてるから当たり前なんですが。普段は知ることのできないものに触れた気がします。
真面目な内容の端々にひそむ白鳥節にやられました。まさかの稽古。まさかの拉致。まさかの三途の川前の稽古。高座で白鳥さんが喋ってるのが見えるよう!
明るく前向きになれる一冊でした。あひる兄貴すてき!
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三遊亭白鳥師の小説。
白鳥師が売れない売れないと嘆いていたため、どんな際物かと思いきや、しっかりした小説だった。
落語界の描写はリアリティがある感じだが、ストーリーは落語らしいナンセンスな内容。
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面白い!!!!
いやぁ、面っ白かった!!!
軽い語りで始まった序盤は、まあ、その手のよくあるライトな話かと、半歩引いて読み始めたんだけれど。
読み手も苛々する程に頑固で自分しか見えていなかった主人公が、これでもかと打ちのめされて……。
じいさんばあさんに可愛がられながら、芸とはなんぞや?に目覚め始める兆し。なのにそれでも性根は治らず、祭りの晩に大きな挫折……。
悔し紛れにつっかかった相手に返り討ちに逢い、あつく語られたニクいやつと意気投合?
ここいら辺りで、「お?ちょいと、様子が違うぞ?」と、物語に引き込まれた。
西口公園からの一連の事件(?)の下りでは、「え?落語家の話じゃなかったの?」と思えてしまうバイオレンスな雰囲気も・・・。
そして最後の座布団祭り。
読ませるねぇ。ページ捲るのももどかしいくらいに一気読みさせられたのは、これまた久し振りで心地好い。まさか、この物語に泣かされることになろうとは、読みはじめた150ページまでには、露とも思えなかった。
筆者が、主人公やライバル落語家の芸に重ねて語らせたように、古典落語に現代の世相を重ねるとあら不思議……という
展開そのままに、
この一冊の物語が、今を生きる我が身に重なり身につまされる場面も多々あって……。
笑いあり、人情あり、挫折あり、努力あり、反骨精神あり、恋心あり、友情あり…、そして最後に希望あり!な、傑作エンタテイメント♪
12月7日現在で、2016年に読んだ中で最も好きになった一冊かも。
★5つ、10ポイント。
2016.12.07.図。
※とにかく、落語が聞きたくなった。寄席に行きたくなった(笑)。
作中で紹介された、(タイトルだけなら聞き覚えのあるヤツも含め)古典落語が聞きたくなった。
新作落語と呼ばれるジャンルも、観てみたくなった。
そして、何より……小説家ではなく本物の噺家だという、それも作中の“あひる兄”ばりに新作落語に拘って人気を得ているという、三遊亭白鳥の落語が聞きたくなった。
(生で落語を聞いたのは、人生でまだ2回しかないけれど……一度だけ鈴本演芸場へ。もう一度は、中学校の芸術鑑賞教室にて。)
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K図書館。一気読み。寿限無と牛ほめはお出来になるんだなあ。ヒロインの描き方でこんな女性がお好きなのかしらと。