紙の本
途方もない傑作の予感が、私の胸を限りなくときめかせます。
2012/02/14 17:34
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:あまでうす - この投稿者のレビュー一覧を見る
現代アメリカを代表する偉大な作家の最新作の上巻を読んだところです。
この長大な(私が思うに)ビルドゥングスロマンは、1954年4月、泥の季節のニューハンプシャー州の小さな町を流れる「曲がり河」の丸太の下に沈んだ一人の少年の挿話から始まります。
そして1967年のボストン、1983年のヴァーモント州のイタリアンレストランへと舞台を移しながら、その間、氷結した川の上で2人の男のまわりで典雅なスクエアダンス踊っていた主人公の美しい母親の突然の溺死、叔母とのめくるめく性愛、主人公の父と冷酷な治安管の共通の情婦!をクマの襲撃と勘違いして!フライパンの一撃で!死に追いやった主人公!の悲嘆と一家の逃亡などの悲話を、「これが小説だあ!」とばかり銀ぎら銀にさりげなくさりげなく織り込みながら、ゆらゆる不気味に昇りつめる後楽園のジェットコースターのように次第に加速し、薔薇色の生と性の喜びと黒い死のコントラストを、父母未生以前の本源的なものにしていくのです。
作家は自らの分身である主人公とその一族の途方もない来歴を、始めは処女の泉のごとく、次には次第に激しく流れる川のごとく、佳境に達すれば悠揚迫らぬ海の満ち引きのように自由自在に語るのですが、その語りの低音部でじわじわと高まって来るこの未聞の法螺話とホラーがアマルガムに合体した恐ろしさの正体はいったい何なのでしょうか?
それは少年時代の漱石が我知らず釣り上げてしまった巨大な怪魚の恐ろしさに少し似ていて、かつてこの作家の先達であるポーやクーパー、ホーソーンやメルヴィル、フォークナーがそれぞれの流儀で描いた世界でもあります。
果たして主人公の父ドミニクは、冷血カウボーイの魔手から逃げおおせることができるのか? そして父親と共にあっちこっちを逃亡しながらいつしか著者を思わせる有名作家になりあがった我らが主人公の運命は、これからどのように変転するのか?
かゆい所にきちんと手が届く翻訳の充実ぶりと相俟って、途方もない傑作の予感が胸を限りなくときめかせます。
投稿元:
レビューを見る
久しぶりのアーヴィングは面白かった。
ガープみたいな話と帯に書いていたけど、ガープまではいってないように思う。
でも、熊と間違えてお父さんの愛人を殺してしまうのはガープっぽかった。
投稿元:
レビューを見る
今までの中で、最もガープに近い、と思ったのだ。
もっとずっと年を経て、もっとずっと苦労して、もっとずっと大人で、もっとずっと研磨されたガープ。
投稿元:
レビューを見る
カナダ国境に近い米国東部、ニューハンプシャー州の山中深い木材伐採地から始まる物語。上下巻合わせて777ページと言うボリュームは、この著者らしく実に読みごたえがある。
1954年の春、ある一人の少年の死から始まる物語は、その木材伐採地で食堂を営んでいたコックの父と12歳になる息子の人生を追いかけながら、以降半世紀にわたり場所を変え、時代を前後しながら語り継がれていく。
さすがに現代アメリカを代表する稀代のストーリー・テラーの作品。出だしの第一章は実に読みづらいけれど、時代の流れとともにドラマが動き出す第二章以降は、すらすらと読み進めることが出来る。
上巻は第三章までで、1954年のニューハンプシャー州の山奥から、13年後1967年のボストンへ、そしてアイオワ時代を経て1983年のヴァーモント州の小さな町へと移り住んでいく、コック父子の人生を追いかけていく。
投稿元:
レビューを見る
アーヴィングの本は、簡単に1日で読めてしまうような軽い小説ではない。長い時間をかけて読み終えたときの達成感と満足感は、他では味わえないものだ。
投稿元:
レビューを見る
同じ話の繰り返し、それはまあいい。時間があっちに行ったりこっちに来たりで分かりにくい。人の呼び名も色々だし。出だしは読むスピードが上がらなかったが段々調子が出てきた。しかし下巻に行く時にまた読む時間なくペースダウン。結局返却期限が来て下巻は少し読んだだけで返す。
投稿元:
レビューを見る
第一章は少しもたついたのの、どんどんいつもの奇想天外な出来事がおこりはじめ、物語にどんどんひきこまれていく。
投稿元:
レビューを見る
久しぶりに大好きなアーヴィングの世界に浸れてとても嬉しい。最初は図書館で借りて読んでいたが、結局購入。いい文学が自分の手元にあるというのは幸せ。内容については下巻を読み終えてから。
投稿元:
レビューを見る
前作の「また会う日まで」に続く自伝的小説.どんだけ人生経験豊富やねん! というツッコミはさておき,最初はもたつくものの,事件が起こってからは動きだし,いつものアーヴィング節に.
投稿元:
レビューを見る
いつもの要素である、
熊と人、小説家の想像力、親子の逃避行、ニューハンプシャーの田舎、
倒錯した性関係が、
時間軸や視点を複雑に絡めながら、進んでいきます。
いきなりの事件発生、事件に次ぐ事件でコックと息子が逃避行に入るまでは、
ほぼ時系列で物語が流れて、詳細に描かれるのですが、
第2章からは時間、視点、場所が行きつ戻りつして、いつもの作者風になります。
自分はケッチャムという樵が気に入りました。「便秘のキリスト様」最高。
下巻では、不気味な伏線が爆発する予感がします。
ただ、人物評と地図はほしいな。
投稿元:
レビューを見る
自叙伝的な小説。
J.アービングの本を読むのは2作品目。
初めて読んだのは『サーカスの息子』だったんだけど、どうしても比べてしまう。サーカス〜がインパクト強すぎて、今のところ刺激が足りない気がしている。下巻に期待。
でも、場面の展開はさすがだなぁと思った。
投稿元:
レビューを見る
名著ガープの世界で期待の大きいJ.アービングだから、ちょっと残念…
随所にヴィヴィッドな挿話があって楽しめるが、ストーリー全体は今ひとつしまりなく、もっとワクワクさせて欲しいところ。
後半に期待して。
投稿元:
レビューを見る
翻訳小説でいつも困るのは、登場人物の呼び名がいくつもあること。この小説ではさらにややこしくて、父と息子がツイステッドリバー川のほとりの街から逃げ名前を変えて生きる物語。インディアン系とイタリア系の女達、ベトナム戦争忌避のケネディーファーザーズ、イタリヤ料理と中国料理、フライパンで熊を撃退した荒々しい樵の世界から大学講師、ベストセラー作家まで、1954年から1983年(上巻では)まで、表面に見える事項、書かれた虚構と隠された真実が流れていく。川の名であるツイステッドが父子の人生の象徴なのかどうかは不明だが、丸太が川の曲がりでつっかえるように、父子がある街にとどまり人と関わりまた流れていく、そのシーンシーンがどこを読んでも面白い。
ニューハンプシャーで生まれアイオワで教鞭をとる、という著者の経歴がそのまま父子の逃避行に活かされている。 本作内で触れているように虚実織り交ぜた創作の世界なのだろうけど。
投稿元:
レビューを見る
ジョンアーヴィングの自伝的長編の上巻。登場人物一人ひとりの表情が浮かぶ描写。紹介される料理もおいしそう。
投稿元:
レビューを見る
書き手のジョン・アーヴィングの力量から生み出された安定した佳作。
ベースにあるのは、人間の愚かさ(良い意味でも悪い意味でも)で、それが物語をドライブさせる。