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明治後期に代々木や渋谷に郊外を発見した花袋、独歩から、川崎市生田の丘の上に暮らした現代の庄野潤三まで、文学作品に描かれた東京郊外の消長を丹念にたどっている。著者の東京の町歩きの経験と中央線沿線で暮らしてきた郊外住民としての実感により、郊外を取り上げた文学作品とその場所について、思いがけない新しい視点から語っている。著者と同じく、生まれてからの郊外生活者なので、個人的思い出と本書の内容が重なり合って、とても得難い楽しい読書の時間が持てた。本書で描かれた「歩行の東京」と「電車の東京」に続いて、「車の東京」が何時か取り上げられることが有るのだろうか。
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東京の西への郊外化がよくわかった。
ボクも中央線の国立に住んでいたことがあったので、中野や荻窪なども懐かしく読んだ。
それにしても、郊外というテーマでこれだけの文学作品が出てくるのも、知識というより教養なのでしょうか。すごいなぁ・・・と思いながら読み進みました。
庄野潤三論が最後に来ていますが、作者がまとめとして中心的な思いがあったのかなぁとも思います。
「煩わしいことは人の耳に入れない。いいことは、みんなで喜びを分かつ」とはいい言葉ですね。
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●:引用
●本書の「郊外」とは、荷風のいう「郊外」とは違って、この震災以後の西への発展によって生まれた「ええ郊外住宅地」のことをさしている。まだ雑木林や麦畑が少し残っている。そこに和洋折衷の文化住宅が建てられてゆく。市中の会社へ電車によって通勤してゆく会社員の家族が移り住む。石井桃子の童話「ノンちゃん雲に乗る」や島津保次郎監督の映画「隣の八重ちゃん」などで描かれた小市民の平穏な暮らしが生まれていく。それは昭和の戦争の時代が始まる前に生まれた、奇跡のような「一瞬の郊外のユートピア」だった。戦争によってまたたくまに失われてしまうが、郊外はつかのまの平和があった。本書は、この震災後の郊外住宅地にわずかな期間に生まれた「郊外の平穏」を、主として文学作品を通して記述したものである。
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郊外という視点から東京を読み直す。下町、山の手の分類とは別の、周縁に移動し続ける郊外について多くの文学作品を題材に縦横無尽に語る。
筆者の見識の深さには毎回驚かされる。東京という街について散策、紀行ほか多くの著作のある筆者。本書のテーマは郊外。
一般にイメージを持ちそうな多摩地区、武蔵野だけが郊外ではない。本書に出てくる郊外、順に代々木、渋谷、大久保、世田谷、青山、蒲田、西大久保、中野、荻窪、高円寺、阿佐ヶ谷、葛飾、小金井、田園都市線沿線、生田。
特に今では23区の山手線の外側が郊外であった時代があったとは意外。桑田転じて蒼海となる、の世界。
小説、映画。本書に引用される作品の実に多いこと。どれだけの量の映画鑑賞と読書があったのだろうか。
特に多摩地区を中心に郊外に魅力を感じる人には基本書でしょう。